18カ月間の世界一周旅行で学んだ人生の知恵を物語に書き下ろしてみたら。。。。(1)

著者: 奥原 崇志

ジパング 黄金郷を求めて

1 黄金のじゅうたん

 いつの間にか長い夢を見ていたようだ。

 少年がふと目を覚ました時、真上にあったはずの太陽は既に西の地平線近くまで傾き、先ほどまで猛烈だった太陽の熱も和らいでいた。心地よい風が大地の熱を冷ますように地面に生い茂る草木を揺らしている。少年はゆっくり起き上がると麻で縫われた貫頭衣と呼ばれる上着に着いたホコリを手で払い落とし、雑草の生い茂る小さな丘に座りなおした。

少年は目を閉じる前と景色がどこか変わっていないか、少し期待しながら周囲を見渡した。 

その小さな丘からは少年が暮らす大きな集落が一望できた。その集落の中には栽培した穀物を保存する貯蔵倉、また物々交換を行う市場と土器などを焼く焼成場があり、それから集落を取り囲むように整備された大きな水田地帯まで見通せた。 今季のイネは黄金色の立派な実をつけ、遠くの山々から時おり吹き荒れる少し冷たい風によって大きく波打ち、まるで黄金のじゅうたんのようだと少年は思った。

またその水田ではオオムギやコムギといった穀物を育て、少年の祖先たちも遥か昔からこの場所で穀物を収穫してきた。少年は収穫した穀物を市場で店を構える商人たちと様々なものと物々交換して生活をしてきた。また生活で必要な衣類品や調理具、耕起具、それに家畜でさえも物々交換で手に入れることができた。

だが、少年は目を閉じる前とその黄金のじゅうたんの景色が少しも変わっていなかったことに失望してしまった。今の生活に決して不満を持っているわけではないと知っていた。それは収穫時期になると丸々と実ったイネを刈り入れて乾燥し、もみすりや脱穀の作業がとても辛くキツイ作業であったが嫌ではなかったからだった。

その小さな丘から見える世界しか少年は知らなかった。

 まだ少年が幼かった頃、親からイネを育てる方法を教えてもらった。少年の親は春先から水田を耕して田植えを行い、水の管理や草むしり、また刈り入れや脱穀の方法、そして水田を荒らす天敵のイノシシやシカがいることを少年に教えてくれた。さらに近所の大人たちからイネの周りに育つ雑草は踏み刈ったりするよりも、雑草の根ごと抜くことでより多くのイネを収穫することができると教えてもらった。

 だが、たくさんの大人からイネを育てる方法を教えてもらっても、少年がこれからどのように生きていけばいいか誰も教えてくれなかった。またなぜ生きているのかも教えてくれなかった。

だから小さい頃からその答えを探し続けていた。

だが、多くの大人でさえもどのように生きていったら良いか知らないように見えた。それは人の生き方を成功や失敗だと単純に判断できるものでないと思ったからだった。

少年にもこれからどのような人生を歩めば良いかわからなかったが、この黄金のじゅうたんを生みだしている遠くの山々から吹き荒れる風がどこから来てどこまで行くのかを知りたいと思っていた。

そして少年はその新しい世界が目の前にあることに気付いてしまい、いつの間にか自分自身で我慢ができなくなっていることも知っていた。それは世界を冒険したいという純粋な感覚が芽生えて表れたもの、いつか叶えようと思っていた夢だったからだった。

 ところが少年の親はこのまま安定した人生を少年に続けて欲しいと望んでいた。それは先祖代々培ってきた水田でこれからもイネを収穫し、いつか現れる素敵な相手を見つけ、さらに子供をもうけて幸せに暮して欲しいと願った。だから少年はその親の願いに答えるようにこれまで何も疑うことなく生きてきた。それは安定した人生を歩むことが人間にとって最も幸せなことだと教わっていたからだった。

 しかし最近はそう思わなくなっていた。それは少年の親が願っていた保証された人生は確かに魅力的かもしれなかった。でも全ての行動は縛られて何かに挑戦したいと思う心さえも縛っているように疑問を持ったからだった。

 それでもこれまで築いた安定した人生から外れることはできなかった。それは冒険の道を選んでしまったら不幸せな人生を歩むことになるかもしれないと不安になって夢を諦めた。

だから人が自分自身の人生を選ぶのがこんなにも苦しいと初めから知っているものであるならば、いっそうのこと全てを捨てて一からやり直すか、何も知らずに生きていくほうが本当は幸せじゃないかとさえ思えた。

第二回に続く。。。。

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