フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第13話
「おいコラ!テメーら見世物じゃねーぞ。とっとと店開けるぞ!」
いつもの調子でボーイたちをどやしに行った。
私はまだ立ちすくんでいた。
「ミホ」
私の声は玲子にかき消された。
「帰りなさい」
低いがはっきりした声だった。
私は玲子の方を見た。
そこにはいつもの微笑は一切なかった。
代わりに恐ろしいほど冷淡な表情があった。
「痴話喧嘩ごときでよくも、ここまで大騒ぎしてくれたわね。」
ミホはうずくまったまま動かない。
「早く出て行けって言ってるの。それから、もうここへは顔出さないでちょうだい」
玲子さん…
いつもとのギャップに私はただただ驚いていた。
「杏もそんなとこに突っ立ってないで、接客の準備して」
「でも…」
私はミホを見た。
ミホはゆっくりと起き上がると
服の乱れを直そうともせず
カバンを掴んでヨロヨロと出て行った。
追いかけたい気持ちを必死で堪えた。
玲子さんの視線もあったし…
ここには私が必要としているものがある。
それより、何よりミホが今私を必要としているのか。
本音は怖かった。
今出て行ったミホは
私の知っているミホではなかったから。
私はどうすれば良いのかわからなかった。
この時ミホを追いかけなかったことを
私は後々までずっと後悔することになる。
でも、その時はそんなことを知る由もなかった。
玲子が私を見て言った。
「杏、まだそこにいたの?早く行きなさい」
私は声を振り絞るように呟いた。
「なんで、ミホだけなんですか?アキナにはお咎めなしですか?」
「何を言ってるの、逆恨みして大騒ぎしたのは誰?!」
「それは…でも、それだけ酷い事されたんですよ、ミホは」
「杏、あなた全然分かってないようね」
玲子さんがまっすぐ私を見据えた。
「あの子とアキナとどっちが店の売り上げに貢献してると思う?」
「そ、それは…」
「アキナは1日に必ず指名をとる子よ。若いしこれからまだまだ伸びる。
それに引き換えミホはどう?ここのところ週に1本でさえ取れない。
それはまだいい。向上心のない子は嫌いなの、私」
私は、言い返せず俯いた。
「そう思わない?あなたなら分かるでしょう?
あなたこそ向上心の優れた人だものね」
玲子の目は有無を言わせない鋭い光が宿っていた。
こんな目…できる人なんだ。この人…
私は玲子に軽く頭を下げ背を向け更衣室を出た。
売り上げ
所詮は金なんだ。
私はほんの一口、アルコールを摂取しただけで
スカイみたいに赤くなっている常連の顔をしげしげと見つめ
力なく笑った。
こいつも
あいつも
今私がいる世界は金にモノを言わせる人間の溜まり場だ。
そして
そんな中で誰より金に執着しているのは私なのかもしれない
そんな私にミホを弁護する力も資格もありはしないのだ。
思えば、あれが私の見たミホの最後の姿だった。
彼女は永遠に姿を消した。
強烈な置き土産を残して。
それは、騒動から1週間も経たないでやって来た。
騒動に続く騒動だ。
いや、これは事件と言った方が良いのかもしれない。
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