フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第23話
「じゃあ、何を…」
「あっち」
煙りをはきだしながら、彼は後方を指差した。
そこには派手な照明の建物がそびえ立っていた。
豆電球がチカチカと灯る看板に「カジノBAR」とあった。
店内は割と狭いが中二階と二階があった。
何パターンかのゲーム台が置いてありその前にはディーラーが立っていた。
入り口で佐々木がチケットを買い、渡してきた。
私はゲーム台の前の佐々木の隣の席に着いた。
いつの間にか注文したアルコールが目の前に置かれていた。
佐々木は私に分かりやすいルーレットやブラックジャックを選んだ。
「カジノっていっても、ここは金を賭けるわけじゃねえから
ま、ゲーセンと変わんねえよ。でもゲーセンてなんてとこは
ガキの溜まり場だろ。そこへいくとここはオトナのゲーセンてなもん」
佐々木を見習って、私は自分のコインを
いくつかに数字の上に置いた。
ディーラーが鐘を鳴らし、ルーレットが回る。
その中で赤い玉が勢いよく飛び跳ねては転がり続けている。
佐々木は隣で、来いよぉ〜と唸っている。
私は赤い玉をぼんやりと見つめていた。
「ルーレットってうちにあったなあ。父親が出てってから親戚づきあいなくて
母と2人だったから遊べなくて」
佐々木がショットグラスを煽った。
「切ない話だねー。お前も苦労したんだな。
初めてお前見たとき、ただの何の苦労も知らねえ
女子大生かと思ってたのによ」
「ひどい。アキさんは?家にルーレットあった?」
シっ!見ろよ!
佐々木がそう言ってルーレットを見た。
赤い玉は止まっていた。
当たったのは私のコインが5枚も置かれた数字だった。
ディーラーが鐘を鳴らし祝福する。
私は思わず手を叩いてはしゃいでしまった。
佐々木は悔しそうに唸った。
私たちは、ひとしきり遊んだ後
中二階のバーで飲んでいた。
結局、私は勝ち続けたもの最後は大負けしてゼロになった。
その点佐々木は、地味にコツコツ勝ち続けた挙句コインを
カウンターに預けた。
一時期は粗野で雑なだけの男だと思ってたのに
意外と繊細というか綿密なところがあるもんだな。
人は分からない…と私は思った。
そう、パテオで働いてから嫌というほど、それを思い知ったはずだ。
でもなぜか佐々木には
そう言った類の怖さはなかった。
第一印象から最悪だったせいかな。
私は心の中で笑った。
「なに、にやけてんだよ」
トイレから戻った佐々木が言った。
「え?別にそんなつもりないけど」
「顔に出てたぞ、お嬢ちゃん。
お前それで本当にパテオで3本の指に入る売れっ子ホステスかよ。
あそこの女たちはみんな鉄の仮面被って客取ってんだぜ」
私はムッとして言った。
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