フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第23話

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「だから、にやけてなんかないし。

   そう見えるのはアキさんに心がやましいからじゃないの?」


「言うねえ」



「…アキさん」



「ん?」



「…今日はありがとう」



「…何だよ急に」


佐々木がまた新しいタバコに火をつけた。



「うん、 あれ以来 ずっと送ってもらってるのに。

   ちゃんとお礼言ってなかったし。

  私はなんだかんだアキさんに甘えてたんだよね。

  だから  もう、今夜あたり最後にしなきゃって思ってたんだ」


佐々木は無言で私の言葉に耳を傾けていた。



注文に来たウェイターにウイスキーの名前だけいうと


再び口を開いた。



「俺ね、地元じゃ札付きのワルだったけど家柄は割とよくてさ。

   親父は市議会議員とかやっててよ。今はどうなったか知らねえけど」




佐々木が自分の過去のことを話すなんて意外だった。

案外小さい頃はマトモだったのかもしれない。



「兄貴がいい子ちゃんで、弟がグレちゃいましたの典型。

  ま、それだけじゃないけどよ。

  本当に手のつけようのないワルだったよ。

  親もたまったもんじゃねーよな。あんなガキじゃ」



佐々木は自嘲気味に笑った。


珍しく、酔っているのかもしれない。


「俺さ…下に妹もいんだわ。それがね、お前に似てんだよ。

  顔っていうより印象っつーのかな、それが。

  前からそう思ってたけど、今日改めて思った。

  親も兄貴もどうなろーが知ったことじゃねえけど

  妹のことはさ、気になるんだ。結婚とか、もうしたかな〜とか」 



佐々木の顔は懐かしさで歪んでいた。



「お前がさ、あの男に襲われたとき本気であの男の

   ぶっ殺そうかと思ったよ」



「妹さんと重なって?」




「ごめんな。お前がどんだけ辛い思いしてんのか分かってるのに」


   

私は首を振った。



「お前のこと元気付けようとして

   自分が浸ってどうすんだって話だね。ざまーねえな」



佐々木は宙を仰ぐように首をコキコキ鳴らす。


ウェイターが注文したウイスキーを佐々木に前に置く。



「そんなことない」


やや、うなだれている佐々木の背中に

私は言った。



「いや、俺はどうしようもねえ奴だよ」




佐々木は、グラスを口元に運びながら言った。



「そんなお前にさえ手ェ出しそうになるんだから」


私は切ないほど佐々木を見ていた。


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