伝説のメイドインJAPANゲーム「スペースインベーダー」が世界を侵略した日【後編】

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前話: 伝説のメイドインJAPANゲーム「スペースインベーダー」が世界を侵略した日【前編】

※カニのキャラクターは、2016年現在、株式会社タイトーのコーポレートキャラクターになっている




ディスプレイに表示した、タコ、イカ、カニの宇宙人たちは、テケテケと可愛く動いた。

いい仕上がりだ。



ゲームの企画に、キャラ設定、それから音声、タイトルなどが仕上がり、

デモプレイができるようになった。

早速これを営業部の人に見せてみたところ、


営業部の人
なんだ、宇宙物かぁ


と一言。

まさか、がっかりされるとは思わなかった。


営業部の人
「スペース・ドッキング※」が収益的に失敗したことで、宇宙物はダメというジンクスがあるんだよ。


(※ソビエト連邦が打ち上げた宇宙船『ソユーズ』の宇宙空間でのドッキングをテーマに開発したメカゲーム)



しかし、いまさらゲーム企画や設計を変えるわけにもいかず、営業部も変更しろとは言わなかったのでそのままのかたちで進めることにした。ジンクスがどうであれ、自分自身のクリエイティブに対しての自信はあった。



コーガン社長にも見てもらうと、彼はゲームについては評価しなかったが、デモ画面を気に入ってくれたようだった。

ゲーム待ち受け画面の PLAYのYがひっくり返っていて、インベーダーが直しにくるという部分だった。




<インベーダーが逆さになったYを発見、近づいてくる。>







<逆さのYを回収。英語の書き損じは許さない構え。>






<用意してあったYの字が登場。宇宙船は、いろいろ収容できるのだ。>




<PLAYの文字が元どおりになった。満足である。>




コーガン社長
逆さ文字をインベーダーが修正するところは、アメリカ人が喜ぶよ。よくできてるね


と褒めてくれた。

それもそのはず、この文字を訂正するデモは、以前テレビで見たアメリカの教育用アニメをヒントにしたもの。

皆にプレイしてもらいながら、ゲーム難易度の最終調整をし、いよいよゲームは完成した。



「西角君、『スペースインベーダー』はだめだったよ」



1978年(昭和53年)6月16日、タイトー本社で卸売業者を呼んでの内覧会が開催された。

いいゲームがあれば、卸売業者はタイトーからゲームを買い、それをゲームセンター等に卸していく。そのための内覧会だ。

西角は内覧会場には行かず、いつも通り開発現場で黙々と開発を続けていた。その時、一本の電話が入った。朝一番で会場設営をしていた若い営業マンが驚いた様子でこういった。


若い営業マン
西角さん、画面の『Y』の文字が逆さまです

コーガン社長が絶賛してくれたモニター画面での遊びのことは、現場の営業マンには伝わっていなかった。そうこうしている内に、内覧会が終わって皆がぞろぞろと戻ってきた。

どうやら内覧会での『スペースインベーダー』の評判はあまり良くなかったらしい。


営業の上層部からも電話が入り、受話器からはがっかりした声で、


営業の上層部
西角君、『スペースインベーダー』はだめだったよ


と聞こえた。

どうやら同時に出展した他のシューティングゲームに人気が集中していたとのことだった。

人気が集まっていたシューティングゲームはタイマー制で、誰でも一定の時間内は遊べる従来のシステム。一方で「スペースインベーダー」は時間は無制限なものの、持っている砲台の数がなくなるとゲームオーバー。


ゲームマシンの卸売業者の人が、ゲームをスタートして、「このゲームはどんな風に遊ぶのかな」とキョロキョロしているうちにインベーダーにミサイル攻撃されてしまいゲーム終了という感じだった。従来のゲームと勝手が違い難しいという評価で注文がほとんど無かったそうだ。


ルールもよくわからず、ノーガードのまま撃破され落胆するプレイヤーを見れば、営業が肩を落とすのも無理もない。


内覧会での「スペースインベーダー」の評判は悪く、その結果を受けて社内にはがっかりムードのようなものが漂っていたが、意外なことに、あれだけ手間暇をかけて作ったゲームに対する酷評を、西角は大して気にとめていなかった。それよりも、


西角
これから先のゲーム開発を見据え、ゲームボードの処理能力の低さを改善しなくては……。

と頭がいっぱいだった。

ゲームボードの処理能力は、グラフィックの綺麗さ、スピード感と同時に、ゲーム内容にも影響をもたらした。ゲーム自体の処理能力が高くなれば、より手の込んだ設定のゲームも楽しめる。

西角は、インベーダーの開発をする中で、ゲームボードの処理能力に頭打ち感を覚えていたのだった。


そのため、「スペースインベーダー」を出荷した後も、インカム(売り上げ)がどうなっているのか気にならず、ゲームセンターにも足を運ばず、ゲームボードの改善のため昼夜、開発部に籠っていた。

 

マシンの故障は、侵略の狼煙


スペースインベーダーをゲームセンターに設置してから1ヶ月も経たない頃、

ふと一本の電話がゲームセンターからかかってきた。


ゲームセンターの人
スペースインベーダーが、
故障したみたいなので見に来てほしいんですが


西角は、


西角
(プログラムに何か不具合でもあったのか...)

と内心ドキリとした。サービスマンが現場を見に行き、急いでマシンの箱を開けてみたところ、信じられないものが目に飛び込んできた。



ゲームマシンに投入された100円玉が、未だかつて見たことのないくらい、コインボックスに山盛りになっている。故障した原因は、コインボックスから溢れた100円玉が回路基板上に落ち、ショートを起こしていたことだった。


サービスマン
これは大変だ。


西角が歳月をかけて生み出した「スペースインベーダー」は、西角を含むタイトー社員全員の予想をはるかに超えた売り上げを叩き出していた。


実は、ゲームに夢中になった人のほとんどは若者だった。内覧会が不評だったのは、年齢層が高かったのが原因。”撃たれたら終わり、撃たれる前に撃ち落とせ”という、「スペースインベーダー」の新しいシューティング方式が新鮮でスリルがあり、若者に大ウケしたのだ。


スペースインベーダーの、日本侵略が始まった。



インベーダーに侵略される社内と日本列島


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