(1)バンド で成功する方法、知りたいですか?【第1話】 原宿歩行者天国

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「俺っちの店の前に来んじゃねえよ、タコ」


頬に長い切り傷があって、手にはタコ焼きの千枚通し持ってるでしょう? 刺されるかと思ってさ、ひやひやした。


「ヤバいんじゃないの? やっぱり・・・帰ろうよ


弱気になるメンバーをなだめて、


「スイマセン、オレたち、今週からここでやらしてもらおうと思って」


高いテキ屋の缶ビールを買って、飲みながら


「迷惑かけないようにやりますんで、駄目ですかね?」


他のメンバーもぞろぞろやってきて、皆でビールを買った。スタッフも、友人たちも。。

一気に何10本かビールが売れたら、少しおじさんも柔らかくなったんだよね。


「そうかぁ、本当は困るんだけどな。どういう音楽? ロック? うーん、ちゃんと毎週来れるのか? 毎週来るなら 俺んとこの店の専属バンドにしてやってもいいんだがな」


「はい。そりゃあ もう」


「来たり来なかったりじゃ駄目だぞ」


「わかってます」


店の専属って言ったって、屋台だし、ホコ天だし・・なんて理屈こねたら大変なことになる。ここは素直に、今 味方になってくれそうなものにはしがみつくんだ。溺れないように。


そうやって、認めてもらって。

やっと自分たちの場所。「溜まり場」を確保できたんだ。


「ようし、いよいよだ。おい、みんな 見回してみろよ。客がうじゃうじゃいるじゃないか! 早く演ろうぜ」


いそいそ準備をして。


ところがさ、いざ演奏をはじめてみると ぜんっぜん受けないんだな、これが。それ以前に客が寄って来ない。素通りして行くの。


「アレ? おっかしいな。音が小さいのかな? もっと大きくしてやってみようよ」


ボリューム上げたら、今度は耳をふさぎながら通り過ぎて行くんだもん。もう、どうしようもない。


結局、初日は惨敗だった。


打ちのめされて、スタジオに帰ってから大ミーティング大会を開いた。


「やっぱりさ、皆バラバラに勝手なこと演奏してるって感じだからさ。もっとリズム合わせていこうよ」


「そうだねぇ。まずリズムだよ。リズム」


トミノスケのタイコは、どんどん早くなってっちゃうし。全員それにつられて、ワーッと走っていっちゃう。


なぜ早くなるかというと、それはヘタだからだ。


悔しいからあんまり言いたくないけど、当時のオレたちときたら・・・ ヘタくそ素人だったんだよ。ライブハウスでしかやったことがない。ライブハウスなんて超ぬるま湯だ。身内が見にきてるんだから厳しいことも言われない。心の中じゃ「ド下手」と思っても、友達だから、そこはまぁまぁまぁ。。まぁ、まぁ、で済んじゃうなんて過保護な場所だよ。いきなり見知らぬ道行く人の冷たく厳しい目にさらされてやっと自分の立ち位置、実力のなさに気づいた。オレたちはヘタなんだ、ってことに。。




ヘタは「音のスキマ」を楽しめない。その「空間」が恐い。だから、スキ間が出来ると、すぐ誰かがそこを埋める。テンポを早くしていけば、スキ間はできづらいからね。どうしても 走った演奏になっていっちゃうんだ。


てことは、うるさいってことさ。スゴく耳障り。全員でガチャガチャ、音をかき鳴らしてるだけだから、音楽でも何でもない。歌なんか聞こえやしない。おかげて声は強くなったけどね。


当たり前だ。あの大音量と戦ってたらさ。イヤでもロックボーカリストが出来上がる。


次の週は―――雨で、歩行天中止だったのかな?


うん。ここぞとばかり、徹底的にリズム合わせの練習をした。


ドラムとベース、ギターとキーボードっていうふうに。2人ずつがまず合わせて、徐々に全員が参加していく。

リズムの「表」と「裏」を取る練習とかね、タンタンタンタン、 ンタンタンタンタ、 タンンタ、ンタタン、 タタン、ン、ンタタ・・・


やる事にはこと欠かないよ。素人さんたちだから。


あと、客寄せ用の「オープニングテーマ」を作ったんだ。「いきなり演奏するより、まず人の気を引いて立ち止まらせようよ」ってね。


「ジャーン」って白玉でコードを伸ばして、音と同時に全員がパッと散らばるの。ダーッ、と駆け出す。

あるいは「ティン、コン、ティン、コン」 オルタネイトピッキングで、客が寄ってくるまでずっときざんだりして。


そういう練習を動き付きでやった。公園で。

ラジカセに練習テープを吹き込み、それを鳴らしながら「ウォリャー」とキメのポーズを作る。フォーメーションで、この音の時、誰々はどこに移動する、みたいにね。公園にいる人には笑われたけど、カンケーないさ。そんなこと。


「スコーピオンズ」っていうバンドのビデオを見ながら、皆で「うわぁ、スゴいね。誰かのヒザの上に乗って弾いたりするんだあ」ちょうど、運動会の人間ピラミッドみたいにね。人の上にのぼって弾く。


「マコトはさぁ、ギターとか回してみたら?」


ストラップごと回すのが、海外でハヤっていたし。

実際やってみたら「ガシャーン!」 ストラップ・ピンが抜けて レスポールが飛んでった。 砂利の上を自慢の「タバコ・レスポール」がガリガリガリ・・ レスポールのサーフィンだよ。何十万もするギターがサーフィンしたおかげで擦り傷がついたけどボディーは助かった。マコトの顔は真っ青になってたけどね。


「太くて長いロック・ピンで ネジがぬけないようにしなきゃ駄目かぁ」


こりないところがあいつのいい所なんだよな。



そういう準備をして、再びストリートに出たんだ。


まあ。そう簡単には変わらなかったけど、それでも徐々にね。ポツ、ポツと立ち止まる人が出てきた。


「いいか。1人だけでいい。1人が1人、客をつかまえろ。1人だけに向かって演奏しろ。1人だけの目をずっと見つめて演奏するんだ」


オレが言うと、女のメンバーは張り切った。


「よォーし。あたし、あのシマのシャツ着た男の子にするよ」


「じゃあ あたしは、あの坊主頭の少年担当!」


「自分の客を100%納得させるんだぞ。よっしゃ、行け。GO !」


ダーッと駈けてって、ヘタくそな割りに情熱のこもった目で、自分だけを見つめられると、何だか自分のためだけに演奏してくれているように思えてくる。悪い気はしない。その姿を見た第三者の客も、思わず 「熱い2人の関係」を面白がって見たりして。


そんな所から、客は食いついてきた。


オレは集まって来た客を少しでもつなぎ止めようとして、ヤマハの箱型スピーカーにのぼった。それを見ていたマコトが真似して反対側のスピーカーに飛び乗る。


「ウォーッ」という拍手がわき起こった。


よしよし、受けてるぞ。爆音とケンカするように、オレはシャウトする。


情けないことに、すぐノドがつぶれて声が出なくなった。

発声法もへったくれもないから。ただバックの音に負けないようにシャウトするだけだから。でもね。オレ、これで発声を覚えたんだ。


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