毒親両親に育成された私の本当の志命 1

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時々観る程度の可愛いらしいお楽しみで満足するタイプだったから、母という女性が

他所の家の躾の悪い卑しいふしだらな女性にしか、私は思えてならなかった。


実母なのに、『お母さん』と普通に呼べない心苦しさ、実の姉妹なのに

『お姉ちゃん』と親しげに会話できない微妙な距離感、外に出ても家の中も

常に監視下に置かれた女性だらけの生活に、新風も吹きこむような爽快な

出来事を期待する気力すら、私は既に失っていた。


一日も早く大人になって、自立して、この家を出て独り暮らしがしたいと、

そればからりを誰にも伝えることなく、心のなかで小さく願う私であった。


姉は勉強を頑張ることで虐めに耐えて、孤独な寮生活の時間がトラウマになったのか、

当時離れて両親と暮らしていた私を恨むようになっていった。

姉は身の危険を感じる事態を何も見ていないし聞いていないから、

私が親子三人名古屋で幸せに暮らしていたと思い嫉妬していたのだ。

この辺りから、隠し切れない姉妹の学歴格差以外の心の奥に隠された確執が生じ始めた。

事務仕事をしたことがない母は、運よく契約社員の事務仕事に就き、生活の為に働き、

やはり二人の私学の学費捻出は大変で、夜には掛け持ちバイトに出るようになった。

同じ屋根の下に住む家族でありながら、それぞれ生きる目標が異なっていった。


姉は勉強ができ、姉妹都市の交換留学生に選ばれたり、スピーチコンテストに出場したりと

校長先生含め他の先生からも一目を置かれる存在だった。

それに対して、私は学年でも後ろから数えた方がマシなぐらい学力も存在感も無い、

目立つお姉さんの妹というあだ名で呼ばれ、廊下で先生に『お姉さんはお元気?』と

いうお声掛けを有難く頂戴し、黙って会釈するのが精一杯の大人しい生徒だった。

牛乳代を回収するときも、後ろから順番に封筒が回されて、金額が少ないと、大人しい私が

犯人呼ばわれされ、下駄箱で上靴が盗まれたり、ゴミ箱に入れられたり、私だけ座席を遠くに

させられたり、女性特有の陰湿な虐めは在学中ずっと続いた。


ミッションスクールに通い聖書を読み讃美歌を歌い年に何回かの奉仕活動することで、

私は心の鬱積としたものを静かに解消し内省し続けた。

洗礼も受けず無宗教であるが、日曜日には近くの教会にも通った。

今のようにIT社会ではなかったし、家の恥を姉妹家族親戚に言うことすら憚れた。

母の夜のバイトは蕎麦屋からスナックの洗い場に変わったようだった。

母はお酒が飲めないので、容姿的にもホステス向きではなかった。

得意の家事の延長の洗い場なら、できると思ったのだろう。

そうは言ってもお店が忙しくホステスさんの手も足りなければ、素人の母ですら

お手伝いに駆り出され、慣れないお酌をすればお店のママからもお客さんからも

喜ばれたのであろう。

悪いお客はいなかったというが、母は何かにつけそこで知り合ったお客に何らかの

助けを求めていたに違いない。

母は昔から本心を語らない。家庭の内情を一切口にすることがなかった。

『離婚が世間に知られると、学校での評判も良くない。だからお父さんは死んだことにしよう!』

母のこの提案で、私たち姉妹の生きている父は死者へと葬られた。

『父との離婚も、お父さんはノイローゼだった。だから私は離婚しても仕方がなかった。』

母から今まで一度たりとも、私たち姉妹が実父を失った悲しみへの懺悔や、憎しみや苦しみを

理解しようとする受容の発言は聞いたことがない。

『ごめんね』という、心無い挨拶だけが交わされた。




娘たちに心配をかけさせないという思いが、返って私たち姉妹の不信感を買うことになった。

姉も私も根が真面目で、どんなに虐められても、不良になるという発想が全くなかった。

子供の頃から表と裏の顔を使い分ける所作を身に着ける術を、家庭内教育で習得したからだ。

同時に『家での恥は決して外には漏らさない』も頑なに守秘された。


ある夜いつものように姉と二人で勉強しながら留守番をしていると、電話が鳴った。

基本的に電話は出るなと母から言われていたが、母がいなかったので出てしまったのだ。

受話器を耳に当てると、男の声で慣れた感じに母の名前を呼んでいた。

私は、母は留守だと言おうとしたが、親子声が似ているせいか、相手の男は気付く様子はなかった。

『いつもいろいろお願い聞いてあげてるのに、どうして僕の言うことは聞いてくれないんだ!』と

男は酔った勢いもあり、怒りも露わにしていた。そして、『今からそっちにいくから待ってろな!』と

言い切った後、ガシャリと思い受話器を置く音がした。


私は不吉な予感が駆け巡り、急いで端的に姉にこの電話の要件を伝え、家中の電気を消し、

玄関や全ての窓に鍵をかけ、110番し、サイレンを鳴らさずに巡回に来てほしいとお願いした。

姉と居間で震える手で電話器を何枚も座布団で包み、二度と電話が鳴らないことを祈って縮こまっていた。

1時間もしないうちに、玄関ガラス越しに大柄の黒い人影が見えた。

郵便受けを何度も開け閉めする男らしき人影が、真っすぐ私たちを見据え、『お~い いるんだろう? 家にいれてくれ! 外でもいい。ゆっくり話そう~や!』と言ってきたのだ。

日曜の深夜に突然現れた見も知れぬ野太い男の声が、静まり返った暗闇に広がり、心臓の音が

バクバクと高まり、恐れのあまりに気を失いそうになった。

しばらくするとどこから持ち出したのか鉄パイプと思われる長い棒でカンカンと力強く何かを叩く物音がした。

自転車置き場の私たちの自転車をバコバコ叩いて、それだけでは気が済まないと言わんばかりの

勢いで、その長い鉄パイプを郵便受け口に差し込み、再び『お~い 外の自転車俺が上げたやつだよなぁ~ 大事に使えよな~』と命令口調にドスを利かせて鉄パイプをぐるぐる回して玄関口を壊し

乗り込むような勢いを見せた。

姉も私もお互いの顔すら確認できない黒闇の部屋で、ただ手を握り合い体温伝いに生命を感じるのが

精一杯だった。

もうダメだ。殺されるかもしれないと私は本気で思った。

姉はそこまで思ってはいなかったに違いない。

私は父の狂気的奇行を何度も見てきたせいか、ほんの少しの恐怖も、生死に繋がるぐらい

絶望感に陥るようになっていたのだ。

どれだけの時間が経っていただろうか。怖くて何も見たくないし、聞きたくないから、

知らぬ間に両手で、耳を塞いで、その場に縮こまっていた。

巡回中のパトカーが男を捕まえてくれたらしく、最悪の事態はなんとか免れた。

カーテンを少し開け、気づけば夜明けの白々とした空に、カァーカァーと烏の鳴き声が響き渡った。

新聞配達のバイクの音も響き渡り、月曜日の朝という日常的光景が戻っていた。

母は何食わぬ顔で朝帰りをし、事の顛末に驚く様子も見せず、『この家は私の家だから、気に入らなければ、いつでも出ていけばいい!!』と言い放ち、姉妹の制服と鞄を道路に投げつけた。

私たち姉妹は、母の性格を熟知していたから、裸足で道路に制服と鞄を取りに行き、急いで身支度を

整え、何事もなかったように平常心を取り戻し、姉は一足早く自転車に跨り、私は出遅れパンクした

自転車を引っ張って登校したのだ。

これが後に、姉は皆勤賞、私は精金賞での卒業と格差に繋がった。

私は何をしても姉に負けるのだ。姉は私に『私は、あんたを蹴落としてでも、幸せになる』

と常々言っていた現実なのだ。

私は母の離婚後は、祖父母の家に遊びに行くことが多く、何度も助けを求めたかった。

だが、母の失態を告げると、怒られるのが分かっていたし、育ててもらって文句を言ううなと

言われるのが嫌で、私の身に起こる恐怖や苦悩を誰にも打ち明けず成長せざるを得なかった。

父のこと、母の交際相手のこと、学校の虐めや姉との確執、一杯話したいことがあった。

聞いて共感してもらいたかった。本当に怖かったと言いたかった。

でも、この事を誰にも言うことができない。

いつまで良い子の仮面を着けて生きて行かなければいけないのだろう?

誰の為?誰が幸せになれるというのだろう・・・?

ずっと悩み内省をし、それでもイエス・キリスト様は、汝を愛し、貴方の隣人を愛せよと

仰る。私には自分を愛する余裕もお金も時間も無い。

ただ一日も早く卒業をし、社会に出て自立をし、お金を稼ぎ、親代わりに育ててくれた

祖父母孝行をしたいと願った。形式的にも母には親孝行をしたいと思った。

私は看護師やボランティア活動に関心があった。本気で世界平和を願ったりもした。

自らの置かれる立場が苦境になるほど、生きる困難を知り、こんな思いをするのは、

私一人で十分だと本気で思ってきた。

同時に私のような醜い存在は要らないのだし、私が子供を持つことは考えられなかった。

この不運は後世に繋げてはいけないと頑なに思った。


高校卒業と同時に社会に出て就職を願う私だったが、先に推薦で大学進学を果たした姉が

ここでもまた一言私に告げた。『あんたは馬鹿だからこのまま卒業しても就職はできない。

進学しないと就職はできないと。』

またまた立ちはだかる壁に、私は無い頭を使って真剣に考えた。

少しでも多くの収入を得て自立をしたい。

その為には・・・。

姉と同じく奨学金申請をし、私は短大で十分だが実家から推薦を取りエスカレーターで

皆と同じ進学をするのは絶対に嫌だ!!と思い、皆が推薦で東京の大学に進学するなか、

受験で関西の短大を目指した。

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