「元素の勉強」に驚きと感動を!!熱狂と興奮を!!とある塾長の実録奮闘記

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次話: 驚きと感動の元素編 第2章


そして最後の決め手はこれ。さも自分たちで元素の美しい並べ方=周期表を作り上げたように錯覚させること。この最後のポイントは非常に重要だ。なぜなら人は他人から教えられるよりも自分で発見する方が気持ちいい生き物だからだ。


勉強のコツだろうとビジネスの法則だろうと「もしや!」と思うときは、人生の中でも心踊る瞬間だ。だから子ども達は、自分の力で「できた!!」「見つけた!!」という瞬間に快感を覚え、その対象には深い愛情を抱く。


よく子どもがその辺の石や貝殻を拾ってきて大事にする心理も同じである。教わるものは他愛もないが、発見したものは愛しい。この心理を巧みにつくのだ。


自ら見つけた元素の順序を眺め、きっと子どもは得意げだろう。そして完成した表を眺め、きっと愛しい感情を抱くに違いない。その感情はやがて「美しい!!!」という感情に変わるのだ。




さらに!!




多くの人に実感はないだろうが、周期表こそ人類が長年に渡って求めてきた「この世界の素とは何か?」との謎の答えであり、人類の知の結晶なのだ。古代の時代から、人はこの世界を構成する素について考えを巡らせてきた。古代ギリシャ人は「火・空気・水・土」こそが全ての源だとする、まるでポケモンのような世界観を構築して納得する。そこから2000年、いまから約400年前に初めてギリシャ人の世界観にヒビが入れられる。一度壊れ始めた世界観にブレーキをかけることはできない。人類は次々と元素を発見し、世界を構成する素はもっと多様であることを知って驚嘆する。そしてさらに、その多様な元素の世界に「秩序と原理」があることを知って再び驚嘆する。その秩序と原理を求めた探究がメンデレーエフによって始まり、今なお続いているのである。


そんな壮大なドラマに触れて、心が震えずにいられるだろうか?驚きや感動を感じずにいられるだろうか?



周期表を巡る旅。


それは人類の知の大冒険なのだぁぁぁぁ!!




と、一番言いたかったことを言わせていただきましたが、とにかく!そんな壮大なストーリーつきなわけです!!これで感動しない方がおかしいぜちくしょう!!


さて、このコラムの趣旨に戻りましょう。


このコラムは最近よく耳にするアクティブラーニングとやらについて、「ワタシはこんな授業だと思ってるけどどうよ!?」とモノ申しつつ、そんなことより「子どもが最高の学習体験を得る」とはどういうことなのか?についてのとある塾長の思索の記録である。教室で実施された元素の授業を図や写真を用いて詳細に記録し、どんな哲学やテクニックを用いれば「最高の学習体験」を子どもは受け取ることができるのかを浮き彫りにする。


ときには従来の学校的学びを批判することになるだろう。賛否両論あるだろう。でもこのコラムがきっかけで読み手である保護者・教育者・学生・そのほかの教育に関心がある人に、何らかの気づきがあればと思って書き記す。


さて、授業の柱は決まった。自分で周期表を作り上げる(という錯覚を得る)体験。そして周期表に愛おしさを感じ、美を感じる。このユーザー体験を作り上げる授業、それが「元素編」じゃあ!


ではこの体験を山の頂に位置した場合、スタートはどこから攻めるべきか?どんなルートで頂を目指すべきか?それではここからは実際の授業の実録をご覧いただこう。





驚きと感動の元素編 第1章


元素という世界に対して、どこから道案内を始めたら良いだろう?そもそも「元素」という言葉を聞いたことも「世界の素」というコンセプトをもったこともない子どもに、どこから攻めるべきか?


いくつかの選択肢があったが、ここはダイレクトに「元素」という言葉から攻めて見ることにした。


注:プロジェクターで投影される資料です。

まずはタイトル画像をババーンと表示。


ワタシ
さあ!今日から元素編がスタートします。みんな元素って言葉聞いたことあるー??
う〜ん、知らなーい
あ!俺それ聞いたことある!


とまあこんな感じでやんわりスタート。1〜2分やりとりしたところで問いかける。

これはジャブから展開したちょっと攻め気味のストレート。グループで元素について話し合ってみようと指示をする。ポイントはお互いに知ってることを共有させること。もちろん的確な知識が出てくることはほぼないのだが、ここで対話をすることにより「元素」という言葉・コンセプトがぐーっと自分に近づいてくるのだ。テーマが他人事のまま進めるのではなく、少しずつ自分事化させながら徐々に掘り下げるのが基本。そして対話は自分事化を進める力強い手法。

はい!じゃあどんな話し合いになったか教えてー
えっとー、元素っていうのをくっつけるといろんなものを作ることができる!そういうやつ!!


だいたいこういう時は自信があるでしゃばりな子がでてくる笑。そして結構ポイントをついてくる。


ほほ〜!元素ってくっつけることができるんだ!じゃああれも元素かな?アイハーバーペーン、アイハーバーアッポー、ん〜〜っあぁ!アッポーペーン!!PPAPだとペンとアッポーをくっつけてるから、ペンとアッポーは元素だね!!
(へぇ〜、そうなんだ)


何も知らないピュアな子はなるほどという顔をしている。


いや違うって!ペンとアッポーは元素じゃない!
なんでなんでー?だってくっつけるといろんなものを作ることができるのが元素なんでしょ?だったらペンとアッポーは元素じゃん!
いや、だからぁ!!う〜ん・・・


基本的には問いに対してどんな回答が返ってこようと全力で受け取る。そして全力で攻める。切り返す。ここでの狙いは、誰も正確に元素を説明できないという状況を作り出すこと。そうすることで、「じゃあ元素ってなんなんだ?」と、心の注意が集まってくる。


授業というのは知識をベルトコンベアのように運ぶことではない。そこにあるのは呼吸でありであり人間の心理だ。「う〜ん・・」「なぜ?」「知りたい!」「わかりたい!」という子どもの気持ちがあって初めて成立するもの。つまり知識を触媒とする心の体験なのだ。だからこそ、心の動きを作り出し、適切なタイミングでテンポよく次の展開へと進める。


では教えよう。元素というのは「地球の材料」のことなんだ!


(へぇ〜、そうなんだ)
そうそう!俺が言いたかったのはそういうこと!


ここでは「全ての物質を構成する最小単位の・・・」などと正確な知識は扱わない。そんなことをしても「は?」「わからないヤダ!」となるだけでむしろマイナスだ。だからここはサクッと「元素=地球の材料」と定義して、子どもの心理に「なんだそういうことか」という納得をつくる。その納得を足がかりに、じゃあ「元素=地球の材料」なら具体的になんだろう?と問いかける。


ここはテンポが重要なので、こっちから「地球の材料といえば、空気とか石とか土とか水とかが思い浮かぶよね!こういうのを元素っていうのかな?」


あーそうだ!これ元素だ!


もちろんこれは元素ではない。でも「地球の材料」と伝えたのだから、ここでいきなり「テクネチウム!」とか登場しようがない。繋がっている糸を確かめながらちょっとずつ。時に間違えながら、紆余曲折経ながら、徐々にゴールへと近づける。まるで主人公がボスを目指して冒険するかのように。


たまに学者や教師の中にも「正確な知識をきちんと身につけさせること」が授業の役割だと思っている方がいらっしゃるが、それは甚だ見当違いだ。授業の役割は興味を喚起することであり、正確な知識を身につけるのは本人の課題なのである。もし授業を通して「知りたい!」いう気持ちが芽生えれば、あとは本人が自分の力で知識を身に付けるだろう。授業を通して「相対性理論」についての「知りたい!」を作れれば、あとは本人次第。どこまでいけるかは彼次第なのである。しかし逆に、授業を通して「相対性理論についての正確な知識を身につけさせよう」としたらどうなるか。それこそ解説ばかりの退屈な授業となり結局どちらの効果も得られない。


新しい世界に人を案内してその素晴らしさに魅了されて欲しいとき、正確さという道(一直線の近道)を選んで案内することほどヤボなことはない。それよりも「この先に何があるんだろう?」とワクワクドキドキする曲がりくねった道を選ぶべきだ。そうなれば相手の方から「早く連れてって!あの先の景色を見たい!」となるだろう。その気持ちこそが、道の途中で本人が正確さをも手に入れる原動力となる。


元素=地球の材料=空気・石・土・水??となったところで、それでは地球の材料である元素をいくつか紹介しよう!という展開に。


炭素、子どもにとっては炭。


金、誰にとっても金(笑)


これは知らない子もいる銅。そしてこれらの元素は私たちの身の回りで使われていることを伝える。




こうして少しずつ元素の世界に子どもたちを連れ込んでゆく。そして10個の元素を紹介し終わる。




では誰が一番最初にこの10個の元素の名前を覚えられるかな?よーいドン!


「よーいドン!」という掛け声は面白いもので、ほぼ十中八九何の説明もなしに競争を始める魔法の合言葉のようだ笑。一生懸命覚え始める子どもたち。ちなみにこの10個をとりあえず暗記させることが第2章以降の布石となる。ところで、なぜこの10個なのか?実は古代より人間が発見していた元素がこの10個なのだ。アンチモンというのは、細かくすりつぶして粉にしてエジプト人が化粧の道具として使っていたようだ。


よく見るエジプトの壁画の濃いアイラインと眉毛は、アンチモンの粉を塗りたくって作られたもの。元素記号はSbだが、ラテン語のStibiumから由来し、意味は「眉墨」。あのクレオパトラも愛用していたという。こんな小話も入れながら古代から親しまれてきた元素を手に入れた子ども達。レベルアーップ♪


しかしここでふと我にかえる。


ねえねえ、でもこの10個って地球の材料って思えないんだけどー


イエーーース!!!ザッツライ!!!そうだよね!!地球の材料ってんだから水とか空気じゃんね!こんなマニアックな素材達が地球の材料って言われたってピンとこないぜこんちくしょう!!その心の動きを待ってましたぁー!

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