バッドエンドな恋と人生
と言ったが、彼女の考えは変わらなかった。
その時、俺はふと冷静に思った。
――今俺がしていることは本当に彼女の幸せのためなのか?今俺がしていることは彼女の幸せのためなんかじゃない。自分のためじゃないのか?本当に彼女の幸せを願うなら、ここで引くべきではないのか
俺は彼女の申し出を受け入れ、別れる決意をした。
彼女は何度も申し訳なさそうにしていた。
でも、俺はそれは違うと思った。
彼女は俺に忘れられない楽しい思い出をいくつもくれた。
彼女と付き合わなかったら一生体験することのなかったであろう想いを感じさせてくれた。
短い間だったけど、彼女がいる生活を送ることができた。夢を見ることができた。
彼女に感謝こそすれど、怒りの感情なんて微塵もなかった。
俺は最後に彼女へこう伝えた。
「幸せになってね」
そして彼女もこう言ってくれた。
「ゆうくんもね」
それ以降、彼女と、Eさんと会うことも、連絡することもなくなり、俺はまたぼっちな生活へと逆戻りすることとなった。Eさんとのトーク履歴は全て削除した。
きっとEさんは俺を哀れんだ神様が慈悲をもって遣わした女性だったのだろう。
「こいつ30歳まで彼女なしとかちょっとかわいそすぎやな。ここいらでちょっと良い思いでもさせたるか」
てな具合で。
――神様、ありがとうございます。おかげで良い夢を見ることができました。感謝いたします。しかし、一言だけ言わせてください。あなたは残酷な人ですね
所詮俺に彼女なんて過ぎたるものだったのだ。"夢から醒めた"ただそれだけの話だ。
でも、俺だって人間だ。悲しいものは悲しいんだ。
俺は気を紛らわすため、ドライブへ出掛けようとした。
車にキーを差しこみ、エンジンをかけるとスピーカーから音楽が流れてきた。
スピッツの"空も飛べるはず"だった。
堪えていたものが心の奥底から溢れ出てくるようだった。
俺は泣いた。泣きまくった。脳裏に彼女との思い出がまるで走馬灯のように思い出された。
助手席のドリンクホルダーには、あの日彼女が付けてくれたマグネットクリップがあった。
結局その日はドライブには行かず、仲の良いSkype友達と通話をしながら酒を呑みに呑んだ。
Skype友達は俺を何度も慰めてくれた。
「結局見た目なんだよ!俺みたいなキモイ奴はイケメンには一生勝てねぇんだよ!!俺みたいなコミュ障は面白い奴には勝てねぇんだよ!!畜生!!」
酒を呑むと本音が出るって話は本当だった。
「まぁそのうちまたいい人が見つかるって。ていうか、大丈夫か?いくらなんでも呑みすぎとちゃうか?」
「呑んで誤魔化さないと死にたくなりそうでこえぇんだよ……」
結局その日は朝方まで呑んだ。もちろん、次の日は当然の如く二日酔いとなった。
あの日以来、俺に彼女はできていない。うつ病の方もだいぶマシにはなってきてはいるが、まだ正直完治したとはいえない状況だ。吃音も相変わらず。
これがドラマや映画なら、あのままEさんとゴールインして幸せな家庭を築いてハッピーエンドとなるんだろうが、そうは上手くいかないのが人生というものだ。なんともシビアである。
今でも時々辛くて死にたくなることがある。しかしそんな時、ふとこういう風に考えるようにはなった。
――これから起こるであろう楽しいことや嬉しいことを全て捨ててまで、今死ぬメリットははたしてあるのか?
俺の答えは"No"だった。
どうせこの先良いことなんてない?はたして本当にそうだろうか。予想だにしないことが起こるのが人生だ。人生において予想や断言なんてできるはずがない。実際、俺にとってEさんと付き合えたことも、別れたことも予想外の出来事だった。人生なにが起こるか分からない。良い意味でも、悪い意味でも。
それに、死んだところで時とともに次第に忘れられて終わりだ。そこから得られるものなんてなにもないし、その先になにがあるのかも不確かな以上、それに賭けるのにはあまりにもデメリットが大きすぎる。
それなら、たとえどんなにカッコ悪くても、笑われても、馬鹿にされても、這ってでも生きてみることに賭けた方が無難だ。
そう思えるようになった。
これから先どうなるかなんて誰にも分からない。見えないなにかに怯えていたってしょうがない。
今は目に見える現在(いま)を自分なりに考え、後で後悔しないよう生きるしかない。まぁ俺は後悔続きの人生だったけどね。
手から零れ落ちた水が二度と戻らないように、過ぎた時間も取り戻すことはできない。過去の誤った選択をやり直すこともできない。後戻りができない以上、前へ前へと進むしかない。
後、今回のことで分かったことは――
ジンクスは馬鹿にできない
ということだ。
人生は生きるには長すぎる。でも、楽しむには短すぎる。
できればその終わりがバッドエンドじゃないこと今は祈るばかりだ。
俺の人生はこれからだ!
著者の木下 裕滋さんに人生相談を申込む
著者の木下 裕滋さんにメッセージを送る
メッセージを送る
著者の方だけが読めます