バッドエンドな恋と人生

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「乗り物酔いをする方はご遠慮ください」
と書かれている。

――俺、めっちゃ乗り物酔いするんですけど。他人の車に乗ったら10分も持たずに気持ち悪くなるんですけど

しかし、今更ここまできて引き返すことなんてできるわけがなかった。
俺は覚悟を決めた。

よく見ると所々に同じような張り紙が貼ってある。
ハリーポッターのキャラクターまでもが注意してくる。

嫌な予感しかしなかった。

ようやく俺たちの番が回ってきた。不安いっぱいな俺とは違い、Eさんはとても楽しそうだった。なによりだ。
そして、俺たちは魔法の世界へ――



アトラクションはたしかに凄かった。臨場感もさることながら、ハリーポッターファンであればたまらないだろう。
だが、俺はそれ以上に気持ち悪さと、吐きそうになるのを我慢することでそれどころではなかった。
俺は何度も願った。

――ハリーよ。今こそその魔法で俺を助けてくれ。今すぐだ!

なんとか耐え抜き、吐くことなく俺たちは無事帰還した。

――もう二度と乗らない

俺は心の中で静かに誓った。

外はすっかり夜の世界となっており、ハリーポッターエリアは幻想的な雰囲気に包まれていた。
俺たちが訪れた時期はちょうどハロウィンの季節で、一部のエリアではゾンビが徘徊しているようだった。まぁこの時の俺がすでにゾンビみたいなものだが。
その前にアトラクションの記念写真を購入した。この経験を絶対に忘れないために。

ハリーポッターエリアでお土産も買い、他のエリアへ行ってみると、リアルすぎるゾンビがウヨウヨしていた。
元々その手のものに耐性もあり、なによりも気持ち悪くてそれどころじゃなかった俺は怖がらせようと必死に襲ってくるゾンビたちには申し訳なく感じたが、全く怖くなかった。
一方Eさんはというと、女の子らしく怖そうにキャーキャーと何度も叫んでいた。俺の後ろに隠れようとするEさんは可愛かった。



適当な所で夕飯を済ませるべく、俺たちは食べる場所を探した。どこも混んでいたが、すぐにでも座って休みたかった俺はなるべく空いてそうな店を探し、適当な店で夕飯を食べることにした。
本当は食欲もなかったが、何も注文しないわけにもいかず、俺はコーヒーとパン的なものを頼んだ。Eさんも俺を気遣い、心配してくれた。

俺はこの日、ある決意をしていた。それは、Eさんに告白することだ。
俺はタイミングを見計らい、気持ち悪さを堪えながら勇気を出してEさんに告白した。
「Eさんと一緒にいると楽しいし、自然と笑顔になれる。これからは俺がEさんを支えていきたい。守りたい。だから……これからもずっと隣で笑っててほしい。俺が守るから。Eさんを守るから。だから……その……俺の、俺の彼女になってください!」
俺とEさんの間に短いが重い沈黙が流れた。
「はい」
Eさんは恥ずかしそうにしながら、一言だけそう答えた。
その答えを聞いた俺は一気にテンションが上がり、気持ち悪さなんてどこかへ吹き飛んでしまいそうになった。俺は声を出して喜んだ。

こうして、俺に初めての彼女ができ、彼女との遠距離恋愛が始まった。30歳を迎えた年の秋のことだった。
それからEさんと色々話をし、結婚前提のお付き合いとなった。
時が来れば同棲することも約束した。

人生の色が一気に華やかに変わり、生きるのが楽しくさえ思えてきた。
暗い暗いトンネルをやっと抜け出せたような、そんな心境だった。



その日はお互い電車の時間もあったため、駅の改札口で別れた。
自宅に着くまでの間もずっとEさんとメールで話していた。

――俺はもうぼっちじゃない!リア充だ!!

俺は心の底から生きる喜びを感じていた。





初デート

USJから帰宅後、早速俺とEさんはSkypeで通話した。その際にこれからお互いなんて呼び合うか改めて決めることに。
俺は名前が"ゆうじ"なので親戚からは"ゆうちゃん"と呼ばれていた。そのことをEさんに伝えると
「それなら、ゆうじくんと、ゆうくんどっちがいい?」
と提案してくれた。
俺は即答
「じゃあ、ゆうくんで」
と答えた。当然の選択だ。
俺はEさんのことを名前に"ちゃん"を付けて"Eちゃん"と呼ぶことにした。
「ゆうくん、私のこと好き?(はぁと)」
「好きだよ(はぁと)」
「私もゆうくん好き(はぁと)」
なんてやりとりを何回かした。夢にまでみたやりとり。それを今俺は実現した。謎の高揚感が俺を包み込んだ。はたから見れば完全なるバカップルだったかもしれないが。

――あぁ、これが彼女がいる生活か……!なんて、なんて素晴らしいんだ!!畜生!!

俺はこの上ない幸せを噛みしめていた。



そんな彼女とのラブラブな生活がしばらく続いたある日。彼女が俺の地元へ遊びに来ることになった。今度は日帰りではなく、泊まりで。2人っきりで一泊二日の旅行だ。
付き合い始めて最初のデート。自然と気合も入った。俺はデート当日ギリギリまで入念にデートプランを練った。

そして、初デート当日――。
その日は天気にも恵まれ、絶好のデート日和となった。俺のテンションは100%を裕に超え、120%まで達していた。

待ち合わせ場所の駅前付近に車を停車し、車内で今か今かと彼女を待った。待っている時間さえ愛おしく感じられた。
LINEで彼女から連絡が入った。
「今着いたよ」
自然と視線はバックミラーに向いていた。サイドミラーもチェックする。ミラー越しに彼女の姿が早く映らないかと、少し挙動不審になってしまう。

しばらくして、サイドミラーにこちらへ向かってくる彼女の姿をようやく捉えることができた。深呼吸をし、心を落ち着かせ、バックミラーで自身の髪型がおかしくないか確認した。

彼女は助手席に座り、俺は彼女の荷物を後部座席に置いた。
「待った?」
「ううん。全然。今来たとこ」
なんというカップルっぽい会話であろうか。

――これ一度やってみたかったんだよねぇ!

念願も叶ったところで、俺は早速車を走らせた。目的地までは約2時間程の道程。1人でドライブしてる時とは全く違った感覚。とても新鮮だった。
車のスピーカーからはスピッツの"空も飛べるはず"が流れていた。
「スピッツ好きなの?」
「うん。曲の歌詞が好きなんだ」
「私も好きだよ。スピッツ」
そんな他愛もない会話を彼女と楽しんでいたら2時間という時間はあっという間に過ぎていき、ホテルへと到着した。駐車場に車を停め、荷物を置いて少し休んだ後、俺たちは改めて車で目的地へと向かった。

目的地に着くと駐車場に車を停め、2人で手を繋ぎながら中へと入っていった。彼女の手はとても暖かかった。
その目的地というのは、県内でもイルミネーションが綺麗なことで有名な場所だった。今回の目的もそれだった。しかし、それ以外にも地元にはこんなジンクスも伝わっていた……。

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