受験に失敗した引きこもりが、ケンブリッジ大学合格に至った話 パート2(完)

2 / 4 ページ

前話: 受験に失敗した引きこもりが、ケンブリッジ大学合格に至った話 パート1

しかしその後、僕は時折イギリスに来たことを後悔し出すようになってしまいます。

「なんでわざわざ、こんなところまで来てしまったのだろう・・・?」

いっそ全部投げ出して、日本に帰ってやろうかと何度も魔が差します。

当時の僕に要求されていたのは、ネイティブと全く同じ条件で受験し、その中でもトップの成績を取ることでした。

留学生に対しては、いろんな特別扱いがあるかと当初思っていましたが、所詮は儚い幻想でした。容赦なく、ガチでネイティブと同じ条件です。それ以外に入学する方法はありません。

そして僕のいた外国人学校では、だれも僕に英語を教えてくれませんでした

受験科目の勉強をひたすら進めるのみ。しかし僕の限られたリスニング力では、授業の内容が全く理解できません

僕は毎日必死で、教科書を自力で理解して生き延びるしかありませんでした。

朝から夕方まで毎日授業を受け、それからは人の2,3倍は勉強するようにしていました。
授業に喰らいついていくだけで毎日必死です。生き延びるために、どんな時でも、決して手を緩めるわけにはいきませんでした。

しかしとにかく、「なんでこんな大変な道を選んでしまったんだろう・・・」とつくづく考えます。

しかし、日本に帰った後を想像してみます。

そこにはどう考えても、また引きこもりになるしか選択肢がありません。

何十回何百回と魔が差して考えますが、いつも結局は同じ結論に至ります。

「ここで生き延びるしかない」

逃げようったって、逃げる手段なんかありません。他に逃げる場所もありません。

そして、絶対に手ぶらで日本には帰れないという、覚悟がありました。どんなに追い詰められても、自分の人生を賭けて、絶対逃げ帰るわけには行きませんでした。



必死で生き延びる一方で、それとは別種の問題も生じてきます。


重度のアスペルガー症候群


(ケンブリッジの町を流れる”ケム川”では、"punting"と言って、小型の舟で誰でも川下りをして景色を楽しむことができます)


パート1で軽く触れましたが、僕は高校生のころまともに人と会話しないで過ごしていました。

アスペルガー症候群とは、簡潔に言えば以下のような特徴を持っています。

・相手の感情や立場を理解できない
・社会生活上の「暗黙の了解」を理解できない
・会話の行間を読むことができない
・言葉や文字を字面通りにしか解釈できない
・ルールや約束事に異様にこだわるところがある
・表情や動作にどこか不自然なところがある

一言で言ってしまえば、空気が読めないのが主症状です。

かと言って知的障害や言語障害があるわけではなく、一方で天才肌の人が多いとも言われています。世間の常識や価値観に囚われない、独創的な発想が得意なのも特徴です。例えばダーウィンやアインシュタインなどの偉人も、アスペルガーだったであろうと言われているほどです。

(典型的なアスペルガー症候群の人の会話例。この女の子、決して悪気があってこうしてるわけではありません・・・笑)

KYという言葉が流行った時に、僕は「自分は絶対空気ぐらいは読めている」との確信がありましたが、当時はそもそも空気とは何かが分かっていませんでした
自分にそうした自覚さえ、全くなかったのです。

アスペルガー症候群という言葉を知るのは、塾講師として勤務し出した24歳の時。
自分はこれまでの四半世紀の人生、ずっと空気を読まずに生きてきた・・・。
そんな事を知ったときは、本当に驚愕でした(笑)


教室では、ジャンパーを脱ぐべきか、脱がざるべきか


 
これが当時の僕にとっては、大問題でした。

誰も教えてくれないし、どこにもルールとして書いてないので、混乱します(笑)

教室に入って、どきどきしながら周到に周りの人を観察します。

しかしある人はジャンパーを着たまま。脱いでるような人もいます。

で、自分の場合どうしたら良いかが全く分からないわけです。

脱ぐにしても、その後どうしたらいいのだろう?椅子にかけるにしても、何かかけかたがあるのかもしれない、無いのかもしれない・・・。

混乱しながら、ある時はずっと授業中手に持っていたり、ひざかけみたいにしたりして(隣の女の子が、カーディガンでそうやっていたのをマネして)、ずっとびくびくしていました。

人に聞けばいいじゃん?と思うかもしれませんが、そもそもどう聞いていいかが分からないわけです。


こんな感じで、日常生活の様々な場面で混乱し、戸惑い、人とつきあうのを不得手と感じていました。他にも例を挙げると、
・買い物は基本苦手(どこに何が置いてあるか分からない。スーパーの商品棚はカオスにしか見えない)
料理は重さや長さが具体的に書いてないとその都度混乱する(「○○を少々」「中くらいの大きさに切る」などの表現はムリ。「適量」など、もってのほか)
服は無地しか買えない(服の組み合わせをどうしたら良いのか分からないので、とりあえず無難な無地無色のものを買う⇒タンスの中がボーダーの服でぎっしりに。。。)

など、ネタを挙げればきりがありません。

(アスペルガー症候群の人は、言われたことを字面ごと取ってしまう傾向があります。
さすがに、僕でもここまでやったことはありませんが。多分・・・笑)


そんなわけで、僕は当時、社会生活上の様々な場面で困難を抱いていました。

留学当初は、周りから「こいつヘンな奴だな」と思われても、「英語が苦手なんだな」と思ってある程度は済まされていたところがありました。

ところが英語がペラペラになってくると、今度は「こいつ本当にヘンな奴なんだな」と思われるようになってきてしまいました。



人と接するとき、どうしても怖いわけです。知らないうちに、自分はルールを破っているのではないか、知らないうちに、誰か人に嫌な思いをさせているのではないか・・・。

それが理由で子供のころから人間関係が苦手で、挙句の果てには人間嫌いで人間不信になってしまったわけです。

そして実際、人と接する時には本当に色々な人に迷惑をかけていたと思います。
傍から見ると、協調性が無いし自分勝手な行動しかしない。ゴミを散らかすブルドーザーみたいだったと思います。

思い返せば、当時の僕に周りの人はよく付き合ってくれていたなと、今は本当に心から感謝したい気持ちでいっぱいですm(__)m

著者のKato Yukiさんに人生相談を申込む

著者のKato Yukiさんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。