受験に失敗した引きこもりが、ケンブリッジ大学合格に至った話 パート2(完)

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前話: 受験に失敗した引きこもりが、ケンブリッジ大学合格に至った話 パート1
それから面接の対策を考え出しましたが、しかしそもそも根本的な問題がありました。

渡英して1年が経ち、僕の英語力は当初より格段にレベルアップしていました。が、思い返してみると、1年目はA-levelの対策に必死で、リスニングとスピーキングに関して結構なおざりにしていたところがあったのです。

特に、リスニング。このままでは、面接官の質問がそもそも聞き取れない可能性があったんです。

これはやばいと思い、とりあえず面接の当日まで、毎日死にもの狂いでリスニングの修行に励みます。テレビのニュース番組をかじりつくように聞きまくり、ディスカッションの仕方や表現方法も徹底的に頭に叩き込みました。

結果、何とかネイティブのナチュラルスピードでも、大方のことは理解できるようになりました。

が、やはり声が低かったりやたらと早口だったりすると、全く何も聞き取れない可能性は排除しきれません。この点だけは正直祈るしかなく、本番まで博打を打つような感覚は常にありました。



そして更に、面接で中身のあることを答えるにはどうしたら良いかと、必死で考えました。

大学がどのような人材を求めているのか、大学が面接で何を指標として判断しているのか、大学が面接の場でどのような答えや姿勢を求めているのか・・・。

あらん限りの情報をかき集め、必死で分析しました。そしてなるべく、物事の本質を見るように努め、面接はアピールの場なんだと考えました。

思考力を問われている以上、前もって答えを用意したところで意味は無い。だから、本番でどうしたら自分の思考力や分析力をアピールできるか。そんなシミュレーションを、頭の中で何百回何千回と繰り返していました。


(いよいよ面接。こんな建物の中に入っていくだけで、胸がバクバクしました)


そうして面接当日。まずは面接官が40代くらいの女性だったので、一安心します(女性の声の方が男性の声より、高くて聞き取りやすいため)。

しかしいざ面接が始まると、自己紹介も挨拶も無くいきなり、

What's "anomie"? (「アノミー」とは何ですか?)

との質問が。

僕は面接の前にエッセイを提出するように言われていたのですが、What's "anomie"?とは、そのエッセイについての質問でした。(「アノミー」とは、著名な社会学者エミール・デュルケームの主著書「自殺論」で用いられている概念です。いきなり、文字通り殺人的な質問です。)

僕の面接官は、後々分かりましたが、やはり当代きっての一流の教授でした。一対一で面と向かうと、何といっても剣幕がものすごい。一つ一つの質問に緊張しまくります。

他にも質問としては、
If suicide is a social problem, what about euthanasia? (自殺が社会問題だとすると、安楽死もそうだと言えるのか?)

What is the difference between the Christmas in Britain and in Japan? (イギリスと日本のクリスマスの違いは何ですか?)

まさしく、「考えさせる質問」の連発でした。しかも容赦なく連発で切り返されるので、頭がパンクしそうになってきます。

しかし質問に答えるだけでなく、聞かれていないことでも僕は必死にアピールをしていきました。イギリスになぜ留学しにきたのか、ケンブリッジ大学のどんなところに惹かれているのか、学部のどんなところに魅了されているのか、これからどんなことを学んでいきたいのか・・・。こういったことは、自分の軸がしっかりしていたので、熱意をバンバン伝えていくことができました。

そして最後に、こんな質問が。

What is the biggest threat for democracy in the world? 
(世界の民主主義にとって、最も脅威であるものは何か?)

僕は思わず、「サダム・フセイン」と反射的に答えそうになりました(当時2006年は、イラク戦争の真っ只中でした)。

が、「ちょっと考えさせてください」とあえて言います(面接の間、僕はこの「ポーズ」を意図的に何度か使いました)。求められているのは、単純な答えではなく、答えに至るまでのプロセスなわけで・・・。

それから、「多国籍企業」と答えを述べます。「民主主義とは、もし~~~と定義するならば、世界を見渡した時に、戦争や専制君主といったものよりも、人々の権利を世界規模で一番脅かしているのは、多国籍企業である。具体例を出すと・・・。ゆえに.....。」

と、こんな感じで答えていきました。ペラペラ喋る必要はありません。ただ一つ一つの言葉を明瞭に、はっきりと、自信を持って筋道立てて伝えていく。そのことだけに集中しました。

しかし言っている最中はもちろん極度の緊張状態なので、言うだけで精一杯です。が、今思い返すとこの時はかなり理想的に、当初のシミュレーション通りの答えを無意識に出すことができていました。

すると面接官が、まじまじとこちらの方を見つめながら、うんうんと頷きながら話を聞いてくれています。

Well, I think, you're right....(確かに、あなたは正しいと思います・・・)

面接官のこの一言で、面接が終わりました。

そしてその時の雰囲気や語調から、僕は直観的に合格を確信することができました。


面接が終わった後は、本当にヘロヘロです。全ての力を使い果たし、極度の緊張を乗り越えて、それでも全力を出し切ることができた感触で、僕の心は芯から満たされていました。


終わりに・・・



年が明けた1月のある日、こんなメールが僕のところに届きます。

Dear Yuki

Thank you for your email and a Happy New Year to you.

I am very pleased to inform you that you have been made an offer to read SPS at Trinity in October 2007. The offer is conditional on the following grades:

AAA

A letter from the Tutor for Admissions was posted to your home address in Japan yesterday.

Many congratulations!

With best wishes,

○○(送信者の名前)

(Yuki さん

メールをありがとう、そして明けましておめでとう。

あなたは2007年10月から、トリニティ(ケンブリッジ大学の"カレッジ"の一つ)でSPS(政治社会科学部の略称)を学ぶオファーを受けることができました。私はあなたにその知らせができて、とても嬉しいです。オファーは、次の条件付きです:

AAA (A-level 3教科全てで"A"という意味)

入学に向けて、チューターからあなたの日本の住所へ、昨日手紙が送られています。

本当におめでとう!)



なんというか、あっさりし過ぎです(笑)

こうして僕は、無事念願のケンブリッジ大学に合格することができました。
(ちなみに2年目のA-levelは、"A"を取るのに70%で大丈夫だったので(最終的に1年目の得点と合算されるため)、1年目と比べるとかなりゆとりがありました。)




以上、これまで駄文長文にも関わらず、最後までご一読いただき本当にありがとうございました。

まとめると、僕がケンブリッジ大学に合格できたのは、
・具体的な受験対策本があったから
・面接官が女性でゆっくり喋ってくれたから

そして紛れもなく、僕が自分をいつでも信じ続け、不断の努力を続けることができたのは、僕の家族や学校の先生、友人やホームステイの家族など、多くの人がこんな僕をいつでも支えてくれていたからです。

本当に、当時お世話になった方々には、心から感謝したい気持ちで一杯です。




ただ実際のところ、ケンブリッジ大学は入るよりも出る方がずっと大変でした。

そしてもちろん、大学に入ること自体が、すごいわけでも何でもありません。

ただ少なくとも、僕はその過程で、あきらめないことの大切さ、夢を大言壮語し続ける大切さ、自分を最後まで信じ切ることの大切さを、骨の髄まで学ぶことができました。

たとえ海外に行ったことが無くても、英語が全く話せなくても、アスペルガー症候群だったとしても、元ひきこもりだったとしても、ケンブリッジ大学に合格できるのだということ。

信じ続ければ、人生を変えることは必ずできるのだということ。

そうしたことが、このストーリーを通して、一人でも多くの方にが伝わっていれば幸いです。



終わりに、僕の今の目標は、40歳までに学者として、自分のフィールドで世界一になることです。

そのために、これからスイスの大学院に進学して、また一旗揚げてきます。
こんな自分ですが、今後ともみなさまからの応援や叱咤激励をいただけますことを、心から願っています。何卒、よろしくお願い致しますm(__)m



重ねてこの度は稚拙な文章ながら、貴重なお時間を割いてご一読いただき、みなさま本当にありがとうございました。



(p.s. 今後も機会を見つけて、今回盛り込めなかった留学体験譚をストーリーにしていきたいと思っています。
みなさま誠にお手数ですが、下の「読んでよかった」のボタンをクリックいただけますと、私自身が今後の執筆の意欲に繋げていくことができますので、何卒よろしくお願い致します^^)

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