終末期の支援

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次話: 終末期の支援②
著者: 大輔 福永

私は山田の言葉にショックを受けた。SPO2とは「酸素血中飽和度」と言われる値だ。つまり、血液中の…

 

「酸素濃度」

 

の数値となる。通常であればSPO2の数値は「100%前後」が通常だ。したがって、SPO 2の数値が70%というのは、…

 

「危機的な状況である」

 

ということだ。山田はAさんの状況を更に詳しく話してくれた…

 

Aさん…酸素吸入しているらしいぞ」

 

確かに、SPO2が低いと酸素吸入が必要だ。しかし、そこまでAさんの状態が悪化していたとは…

 

「予想外だった…」

 

山田は、なおも説明を続けた…

 

「もしかしたら、Aさん。看取り支援になるかもな…」

 

山田は悲痛な表情をしながら、私にボソッと呟いた。その時、主任が私を呼ぶ声がした…

 

「福永くん。Bさんが、浴室で転倒したんだ。手伝ってくれ」

 

私は主任の声を聞いて、急いで浴室に向かった。山田も別の職員に呼ばれていた。浴室に向かうと、Bさんが転倒して、頭部を…

 

「床にぶつけていた」

 

意識が朦朧としているようだった。私と主任は慎重にBさんを椅子に移乗させた。そうこうするうちに時間は…

 

「矢のように」

 

過ぎ去っていった。夕方になると、日は薄暗くなってきた。介護施設の一日は早い。時間に追われる仕事の為に、時間が…

 

「あっ」

 

と言う間に過ぎていくのだ。入職して最初の一年間は辛いこともある。しかし、1年を超えると、だんだんと慣れてくるものだ。介護職のメリットは…

 

「休み」

 

の感覚が短い。ということだ。シフト制の為に、通常は2~3日、出勤をすると休日になる。そのために、休みが多いように…

 

「錯覚」

 

するのだ。そして、日勤帯や遅番で夕方が近づくと、皆の気持ちも緩んでくる。夕方になると、夜勤者が出勤してくる。職場にもよるが…

 

「楽しい」

 

こともあるのだ。介護職も職場によるが、基本的には残業は無い。労働基準監督署が厳しくチェックしているために…

 

「サービス残業が無い職場が多い」

 

しかし、職場により異なる。この日も9時出勤の18時退勤だった。帰り際に、本屋に立ち寄るつもりだった…

 

「待望の小説」

 

が発売するのだ。そして、18時になるとタイムカードを押して、引き継ぎの準備を行なう。気心の知れた夜勤者から、冗談っぽく…

 

「私は今から朝の9時まで働くのよ」

 

と声をかけられる。そして、私は笑顔で返事するのだ…

 

「お疲れ様」

 

そして、利用者さんにも挨拶をする。中には、冗談を言う人もいる…

 

「今から、彼女とデートにいくの?」

 

私も冗談を返す…

 

「…現在、募集中ですよ。」

 

「あなた、若いのに頑張らないとね」

 

「…あはは。又、あさって出勤ですよ」

 

「気をつけてね」

 

私は利用者さんと、冗談を言い合うのが、好きだった。そして、Aさんの顔が頭に浮かんだ。駐車場に行くと、山田が私を待っていた…

 

「今日も、無事に終わったな」

 

山田が缶コーヒーを投げて寄こした。

 

私は、缶コーヒーを受け取った。少し温かい。山田の風貌は田舎のヤンキーあがり。という感じだ。しかし、外見とは裏腹に高齢者に優しかった。そして、…

 

「信頼されていた」

 

私も山田のことを信頼していた。山田はAさんのことが気になっていたようだ。山田はマイルドセブンに火をつけて美味しそうにタバコをふかした…

 

Aさん。大丈夫かな」

 

山田は心配そうにつぶやいた。Aさんは我々が入職した同じ時期に施設に入所していたのだ。施設に入所した時点では、認知症はそれほど…

 

「進行していなかった」

 

しかし、年月の経過と共に、認知症の症状も進行していたのだ…


 

 

しばらくすると、Aさんの退院の日が決定した。最近では、医療改革の影響で、病院に長期間入院することは、困難なのだ。ましてや施設に入所している場合はそうだ。施設では、Aさんの退院が決定した為に…

 

「退院準備」

 

をしていた。職員が慌ただしく業務を行っていた。病院からの申し送りでは、Aさんの状態は、芳しくない。ということだった。年齢的な問題もあるために、これ以上…

 

「治療」

 

を行なうことは、限界がある。ということだった。そして、家族の意向により、終末期は「介護施設」でお願いしたい。ということだった。Aさんは転倒前…

 

「自立歩行」

 

だった。一部介助が必要であるが、基本的には一人で移動することは可能だった。認知症を有していたために、トイレ介助や入浴介助は必要だった。しかし…

 

「歩行」

 

は独力で可能だったのだ。しかし、骨折により、自力歩行は不可能になっていた。したがって、車椅子が必要となる。介護ベッドも必要となる。そのために…

 

「福祉用具」

 

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