偏差値40の浪人生が、半年で20万人以上を追い抜いて第一志望の国立大学に合格した話

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著者: Kato Yuki

こんな風に、アイちゃんの想像と実際の現実は大きく乖離している状態でした。その乖離が大きいということにまずは気付かせてあげて、その後もあの手この手で、なんとか帯広畜産大以外の大学受験に気持ちを切り替えてもらおうとしていったのです。

 

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そして後日。

 

最終的に、私はアイちゃんに帯広畜産大学受験を諦めるよう直接伝えていくことになりました。

 

私が話を切り出す前に、私の意図を察して既に涙ぐんでいるアイちゃん。最終的に決めるのはアイちゃん自身だと言いつつも、国公立でなく私立大学の受験を目指していくのが得策だと、きっぱりと話していきました。

 

アイちゃんには話していませんでしたが、この時私は最悪のシナリオを心に描いていました。国公立大受験に失敗し、私大受験にも全て失敗。二浪もさせてもらえず、かといって就職もできずに、最終的に家にひきこもってしまう。いや、滑り止めレベルの私立大学に合格しても、本来行きたい大学ではないために途中で退学してしまい、結果人生の全てが中途半端になってしまう。。。

 

それであれば、今から3教科に絞って対策し、できるだけレベルの高い私立大学に合格した方が、真剣にアイちゃんのためだと思いました。教科数が少なければ、偏差値5560のいわゆるMARCHレベルの大学にチャレンジしてもよいのではと思ったのです。その方がアイちゃんの将来の選択肢が広がるし、きっと大学に行ってからの可能性も広がるだろうと。

 

しかしアイちゃんはそんな私の気をよそに、全く自分の気持ちを変えようとはしませんでした。私から諦めるように言われたのは少なからずショックだったようですが、その後もアイちゃんの変化が見られません。お母さんとも相談して、ひとまずは9月末まで様子を見ようということになりました。9月末の模試でB判定以上が出なかったら、帯広畜産大はきっぱり諦めること。これがお母さんからの条件でした。

 

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9月末。

 

模試の結果、英語は200点中87点(前回よりちょぴっと伸びました)。全教科得点率は58%、これまでの模試の結果の中では1番良い結果となりましたが、それでも帯広畜産大学はD判定。滑り止めに考えた私大でもC判定という結果に。

 

この結果を受け、再度アイちゃんに話をしていきましたが、しかし頑なに自分の意思を曲げる気配がありません。お母さんにも相談していきましたが、結局のところ、お母さんの方が折れてしまいました。お母さんも、最終的にはアイちゃんの意思を尊重したいとのこと、親として自分の子をとにかく信じて応援していきたい…、とのことでした。

 

私もこれ以上は、アイちゃんの気持ちを変えさせるのは難しいと判断。というより、9月末の時点でこれ以上もう志望校を変えるうんぬんの話をする時間がありません。タイムリミットでした。私は自分の力不足を感じつつも、なんとかアイちゃんの人生にとってこの受験が少しでもプラスの経験になればと、できる限りを尽くそうと心に決めたのでした。

 

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しかし9月の時点で、実はすでにアイちゃんの姿勢に少しずつ変化が表れてきていたのです。私は当初から、アイちゃんには英語のみでなく、総合的な学力アップのてこ入れが必要だと考えていました。指導時間の半分にコーチングの手法を採り入れた学習の振り返りと計画作り、残りの時間を英語指導、といった形で進めていきました。

 

私が指導の初期に、特に注力したのは以下の4点です。

・時間の使い方への意識の改善

・週計画の作成と行動の記録

・各教科での演習量の増加

・個々の行動への目的意識の向上

 

まず、時間の使い方への意識について。アイちゃんは普段自分で学習に取り組む際に、どんな内容にどれくらい時間を費やしているか、ほとんど意識を払っていない状態でした。ある時に数学の問題に取り組んでいたら、気づいたら3時間くらい過ぎていた、といった感じです。学習を時間内に行う計画性が無いこともさることながら、考え事をしているといつの間にか数十分、数時間と時間が経っている、ということが日常茶飯事の様子でした。

 

多くの人が、時間への意識を持つことは当然と感じるかもしれません。しかし実際のところ、時間への意識を改善すべき受験生は非常に多く、それだけで学習効率が2倍、3倍になったりすることも決して珍しくはないのです。

 

アイちゃんの行動を変えるために、まずは20分ごとに携帯のアラームを鳴らすよう提案しました。「携帯が自習室で鳴るといけないから・・・」などと最初はあまり乗り気でなかったアイちゃん(だったらマナーモードにすればいいんじゃない・・・?)。それでも徐々に自分で工夫して、普段の学習でこまめに時計を見る癖をつけていくことができました。

 

 

2つ目に、週ごとの学習計画を作り、それに自分の行動記録を綿密に記していくよう指導していきました。先の時間への意識とも絡め、毎日必ずその日の振り返りをして、どのように時間を使っていたかを記録すること。そして自分が週ごとの目標をどれだけ達成しているか、目を背けず必ず振り返ること。そうしたことを日々繰り返しながら、毎回の指導で必ず前週の振り返りと次週の計画作り・目標作りを一緒に行っていきました。

 

(アイちゃんの実際の週計画。9月の段階ではまだ大雑把で中身の薄い感じです。「ふく」=予備校の授業の復習、「よ」=予備校の授業の予習と、予備校の授業のために大半の時間が使われてしまっている状態です)

 

こうして日々自分の行動を記録することで、主観的になんとなく頑張った・頑張っていないと感じるのではなく、客観的な事実として学習の進捗を把握することができます。さらにその事実に基づき、指導では必ず良かった点・もっと改善していける点をアイちゃん自身に挙げてもらい、それを元に次週の過ごし方を毎回考えてもらいました。

 

こういったことは、適切な指導者による個別の指導で初めて効果が出ると考えています。通常生徒は行動の記録をなかなか取りたがりませんし、仮に記録していたとしても、適切なフィードバックを行える指導者は思いのほか少ないのが実際です。

 

 

3つ目に、各教科で問題の演習量を大幅に増やしていきました。アイちゃんはそれまで予備校で毎日朝から晩まで授業をひたすら受け身に聞いて、日々予習と復習に追われる生活を送っていました。しかし残念ながら、授業を聞くだけでは成績や能力は決して上がりません。世の中の多くの生徒がそうであるように、アイちゃんも授業は真面目に聞くしノートも丁寧に取るのですが、いざ実力問題を解こうとすると全く何もできない。名付けて、「定期テストで点がとれても実力テストで点が取れない症候群」です。

 

これは決して地頭が悪いとか応用力が無いといったことではなく、単純に初見の問題への演習量不足に起因している場合があります。学校で習った既知の問題でなく、全く初めて見る未知の問題への演習量を増やすだけで、すぐ得点アップに結び付く場合も多いのです。

 

私はまず「アウトプット」の重要性を伝えながら、各教科で演習用の問題集に取り組んでもらいました。また指導中にアイちゃんに理解した内容を説明してもらったりして、アウトプットが積極的にできるよう促していきました。予備校の授業もただ聞いて終わりにするのではなく、必ず類題を自力で解いてみるなど、演習に力を入れるよう指導していきました。

 

 

 

最後に、目的意識について。アイちゃんが一番私の指導の中で印象に残った話だと、後日教えてくれました。

 

「○○大学に行きたい!」と言う割に、普段の行動が散漫になっていたり、大学合格に関係の無い事に取り組んでいる受験生は、意外なほどに多いのです。本当に心の底から何かを成し遂げたいのであれば、常日ごろの一挙手一投足、全ての行動をその目標のために向けていくことができるのではないでしょうか。また不可抗力で自分の目標や行動が叶わなかったり妨げられたとしても、その中で少しでも目標に近づくための工夫を重ねることはできるのではないでしょうか。

 

はっきり言って、気持ちも弱ければ考えも浅い受験生がほとんどなのです。そしてそうした受験生は、目標が達成できなかったことを自分の意識の低さではなく、才能や環境要因といったことを引き合いに出したがります。意識が高ければ、自ずと日ごろの自分の行動や学習の仕方を振り返り、少しでも目標に近づくための工夫をしていけることでしょう。

 

例えば、今覚えようとしている英単語は、本当に自分の夢の実現や志望校合格に必要なものなのか?それが志望校の入試にどのような形で出題され、その問題を解くことは志望校合格にどのようなに重要で、それが自分の将来にどのように影響するのか・・・。そうした問いかけを、日常の全ての行動に対して繰り返し、思考し工夫し続けることが大事です。

 

目的意識を日ごろから高く持っている人は、発言や行動全てが「一本の線」でつながっているかのような、ある種美しい所作に表れてきたりします。なぜなら、全ての所作が一つの最終目標にいつも結びついていて、無駄が無いからです。私はアイちゃんにたびたび、「その問題を解くことは、帯広畜産大学合格ととどのように関係があるだろう?」というふうに問いかけ、その「一本の線」が少しでもできるよう、指導を繰り返していったのです。

 

特に最初のころは、アイちゃんはノートの取り方に多くの無駄がありました。名付けて、「きれいなノートを取りたがる症候群」。特に女の子に多いケースですが、丁寧にノートを書くことそれ自体がゴールとなってしまい、なぜノートを書いているかの目的意識が欠落してしまう状態です。ノートを取る目的は、結局のところ自己の学習であり、そこに結びつかなければ全てのノート取りは無駄になってしまいます。

 

アイちゃんの場合は特に、長文問題で英文全ての和訳を丁寧に毎回ノートに書き続けていました(センター試験にも帯広畜産大の二次試験にも、和訳問題は全く出ないにも関わらず)。また予備校の授業のノート取りも、先生が喋った内容を何から何まで全部ノートに書き写してしまっていました。

 

目的意識を高く持っている人のノートは、乱雑な走り書きが多くともどこか整然としていて、個々の内容にしっかりとした意図が感じられます。私は指導の中で、度々アイちゃんに目的意識について問いかけ、日々の自主学習が少しでも目標達成に近づくよう促していったのです。

 

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10月。

 

指導の成果が徐々に表れ始め、明確にアイちゃんの日ごろの行動に変化がみられるようになりました。

 

日々の行動を15分刻みで記録し、また自分で問題演習を行う時間も以前から格段に増やしていくことができるようになりました。

 

10月末のマーク模試で、英語は一気に35点アップの122点。偏差値も51.2と、前回より「5」以上アップに成功。

 

指導した感覚として、正直これくらいはいけるだろうな、というのはありました。アイちゃんは英語の実力が無いというよりも、実力を得点に結びつける過程でたくさん躓いていたからです。これまでの指導の中で、個々の問題へのアプローチの仕方や試験中の時間配分など、得点アップに結び付く多くのポイントを伝えてきていました。

 

しかし英語・地理以外の全教科で6割を切り、総合得点は900点中511点、全教科の偏差値は50.4と依然かなり厳しい状況。帯広畜産大に合格するには、総合得点をここから優に100点以上は上げなければなりません。

 

なおも絶望的な状況。しかしアイちゃんは、決してあきらめたり落ち込んだりという様子は見せませんでした。

 

アイちゃんが素晴らしいのは、自分がやればできるということを、根拠が無くてもとにかく信じきっていることでした。そしてそれ相応の努力をちゃんと日々行っていて、私の指導を素直に聞いてすぐ行動に採り入れていたのです。アイちゃんの成長スピードが速かった理由は、まさにこうした点にあると強く感じています。

 

11月に入り、赤本を使った二次試験の過去問演習も各教科で始めていきました。当初は帯広畜産大受験を諦めさせようと躍起になっていた私ですが、ここに来て「もしかしたら」と思わせられたのです。それほどこの3カ月のアイちゃんの意識と行動には、大きな変化がありました。

 

しかし過去問の各教科の得点率は軒並み45割といったところ。センター試験の結果が仮にボーダーちょうどだったとしても、二次試験では6割の点数がほしいところです。それでもアイちゃんは、決してめげたり希望を捨てたりすることはありませんでした。毎回徹底してそれぞれの問題から気付きや学びを見つけ、それをノートに書き留め定期的に振り返りをする。そういったことを、ただ愚直に繰り返していきました。

 

同時にセンター試験の過去問演習もペースを上げ、全教科でこれまで学習した知識の総復習を行っていきました。

 

11月末の模試の結果、英語の点数はほぼ変わらなかったものの、特に理系教科で点数が伸び、全体の得点率は900点中558点までアップ。初めてセンター試験の平均点である、6割を超えることができました。少し希望は見え始めたものの、しかしまだまだ厳しいのが現実。アイちゃんには引き続き、手を緩めず学習に取り組んでいくよう、発破をかけていきました。

 

12月は専らセンター試験の対策。11~2教科の問題を解いて、添削と振り返りをして、ノートにまとめて復習、というプロセスを延々と繰り返していきました。ノートのまとめに手抜きがあった場合には、厳しい言葉をかける場面もありました。またセンター試験で致命的なマークミスについて、マークのミスが無いかの確認を「少しはしている」といった体だったので、「死ぬ気で確認しなさい」と認識の甘さを叱る場面もありました。

 

12月末、英語のセンター過去問演習で、自己採点が139点、157点と大幅にアップ。実力的に本番で7割を取っても不思議ではないレベルまで持ってくることができました。特に12月は速読の演習に力を入れたことが、得点アップに直結したと考えています。また地理や理系教科も、60点台を安定して取ることができるようになってきました。良い感じで入試前の追い込みが進み、いよいよセンター試験本番を迎えます。

(センター直前期の週計画。ひたすら過去問を解いて振り返りをして、の繰り返し。各教科で実力がメキメキと上がってきています)

 

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113日、センター前の最後の指導でした。

 

この日は専ら、アイちゃんに成功イメージを持ってもらうためのイメージトレーニングを行っていきました。まずは自分が絶対成功すると信じきること。その姿を思い浮かべながら、それが実現するプロセスを一つ一つ具体的にイメージしていくこと。朝起きてからどのような食事をして、どんな服を着て荷物は何を持っていって、家を出てから何時何分の電車に乗って・・・と細かく一つ一つの行動をイメージし、抜けや漏れが無いかの確認をしていきました。さらに各教科の試験で、問題に取り組む手順や段取りをできるだけ具体的にイメージしていきました。

 

ここまで来れば、私もアイちゃんに成功してほしいと心の底から願うようになり、最後まで自分を信じてほしいとアイちゃんに強く伝えていきました。誰がなんと言おうと、どれだけスタートが出遅れていようとも、これまで努力してきたことを信じてほしい。自分が成功すると最後まで強く信じてほしい。

 

アイちゃんは特に最後の数か月、見違えるように積極的に学習に取り組めるようになりました。そして努力を常に惜しまず、いつも希望を持って淡々とやるべきことを積み重ねてくれていました。しかし試験の結果は時に残酷で、私もこれまで本番で実力を出し切れなかった生徒を何人も見てきました。入試に絶対は無く、良くも悪くも当日の巡り合わせや運に大きく左右されることもあるのです。

 

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