人生のレールを脱線してみたら、こうなった僕の半生記【前編】

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次話: 人生のレールを脱線してみたら、こうなった僕の半生記【後編】


石工職人として川の土石を作り、世界中に出向いていたという本木さんは、
自身のことを【おっちゃん】と呼ぶ。

『これだけでは足りないな。稲くん、おっちゃんちにおいで。』

年期の入った水筒を空にすると、
半ば強引に僕は近くにある本木さん宅にお邪魔することとなる。


本木さんの家は母屋と庭に離れの小屋があり、
奥さんが母屋、本木さんは離れに住んでいるらしい。

僕と同い年の娘さんがいて、高知市内で一人暮らしをしているとう。

『稲くん、娘はまだ独身なんだよ。』

そう言った本木さんの言葉に含まれる意味を僕は深追いしないようにした。

 

本木さん宅にお邪魔するや、芋焼酎で乾杯をし、宴(うたげ)が再開した。

『稲くん、内臓は好きか?』

これまた年期の入った七輪を持ち出しながら本木さんが言う。

『おっちゃんは内臓が大好きでな。

数年前に癌をやったんだが、そんなもの食べてるからよ。って母ちゃんに怒られたよ。』

本木さんの言う【内臓】とは【ホルモン】のことらしい。

指示されて冷蔵庫を開けた僕は、ひと塊のホルモン肉を取り出した。

まだ大丈夫だろう。おっちゃんはいいから、稲くん食べなさい。』

そう言って年期の入った七輪に炭を入れ、火を起こす本木さん。

母屋に奥さんがいるとはいえ、この離れでほぼ一人暮らしの初老が言う『まだ大丈夫だろう』。

この響きが気になったこと、それは言うまでもない。

しかし、本木さんのご厚意を断るほど僕は世間知らずではない。

“しっかり焼いて”頂くことにした。


芋焼酎を飲みながら本木さんは、趣味であるマス釣りの話や、写真を見せてくれた。

好きなことの話をしている本木さんは、子供のような顔をする。

僕もこんなおっちゃんになろうと思った。 


二人で芋焼酎のボトルを飲み干すころには、本木さんの目は30%ほどしか開いていなかった。

すると突然、眠そうな目で僕のほうを見た本木さんは、

『稲くん、おっちゃんが死んだら灰を川に流してくれよ。』

そう言って横になり寝てしまった。

あまりにも急な、そして意外な言葉に驚いた僕は、寝ている本木さんの呼吸を確かめた。

“ただ寝ている”本木さんを確認してから、母屋の奥さんに挨拶をして帰ることにした。

すると奥さんが車で僕を送ってくれた。

『ごめんなさいね。あの人は若い人と話すのが好きでね。よくこうやって連れてきてはお酒を振舞うのよ。』

送って頂いている車内で奥さんから聞いた。

『だからあんな表情でいられるんだろうな』そう思い僕は、

子供のように好きなことの話をする本木さんを思い浮かべた。

 

その日の深夜、

ものすごい吐き気とともに僕は目を覚ます。

外にでる間もなく、
キャンピングバスの窓から顔をだした僕は、

胃の中にあるホルモンをすべて吐き出していた。


小松さん

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~Life is a journey~四国編~⑨

  涙に浮かぶ満月



志藤さんはBBQ企画に賛成してくれた。

携帯の番号を交換していた僕は、
本木さんに電話をかけ、約束を取り付けた。


僕らは待ち合わせ時間に遅れぬよう、スーパーで食材を買い、
志藤さんの車でバスの停めてある海が見渡せ、普段は使われていない駐車場へ向かった。


駐車場では、すでに到着していた本木さんが芋焼酎を始めていた。


志藤さんは改めて挨拶をしてから家族を紹介した。


テーブルとイスを用意し、キャンピングバスのキッチンで食材をカットし、
本木さんの年期の入った七輪で焼き、みんなで食べた。

『志藤くんたちにも内臓を食べさせてあげたかったな~』と残念そうに言う本木さん。

その横で、【内臓】という表現に騒ぎだす子供たち。

その横で、嘔吐した異物をきれいに掃除しておいてよかった、と安堵する僕がいた。


その日は二月の下旬だというのに暖かく、

スピーチの切り口にもってこいの“雲一つない晴天だった”

クマジは子供たちと走り回る。

本木さんの言った冗談に僕が突っ込みを入れる。

それを見て、志藤さん夫婦がほほ笑んでいる。

僕は、自分が置かれている幸せな状況に胸が熱くなっていた。


昼過ぎから始めたBBQだったが、辺りはすっかり暗くなり、
冷たい風が二月だということを思い出させる。

本木さんはこのまま軽ワゴンに泊まっていくというので、
心配させないように僕は奥さんへ電話をかけるようにすすめた。


翌日仕事がある志藤さん家族は帰り支度を始める。


僕も明日、四国を出発する予定だったので、これでお別れだ。


『志藤さん、いろいろお世話になりました。本当にありがとうございました。』

僕は、涙をこらえながら握手をした。


『こちらこそ。稲さんと出会うことができて本当に良かったよ。』


そう返してくれた志藤さんの目にも涙が溢れていた。

奥さんにもお礼を言って、子供たちを抱き上げた。

『稲さん、またすぐにお家にきてね。』

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