人生のレールを脱線してみたら、こうなった僕の半生記【前編】

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次話: 人生のレールを脱線してみたら、こうなった僕の半生記【後編】


仙人はそう言うと、角ウィスキーをストレートで一口飲んだ。

 

『山の中に住んでいるなんて、本当に仙人ですね~。』僕が返すと、


『浮世(うきよ)にうんざりしたからな。』


そう言って、また角ウィスキーを一口飲んだ。

 


そこから、仙人が経験した若い時の話に僕はのめり込んでいくことになる。

 


『お前さんと同じくらいの時にワシも旅をしていてな。あるとき、森の奥地でキャンプをしていたんじゃ。

すると一台の大型バイクが近づいてきた。

よく見ると運転しているのは若い女性だった。

大型バイクに積めるだけの旅道具を乗せた女性はわしに話しかけてきた。』

 

『おじさんも旅をしているの?よかったら一緒に魚を食べようよ。』

 


彼女はそう言うと、ハンドルに引っ掛けてあるビニール袋から魚を数匹とりだしたという。


その魚はどうしたのかと仙人が聞いてみると、手ですくい上げたと答えたらしい。


彼女いわく、手の平を上にして川に突っ込む。


しばらく待つと、好奇心旺盛な魚が近寄ってくる。

そして手の上を通った瞬間にたたき上げるのだという。

 


『それ、熊が鮭を捕る手法じゃないですか!』


僕は思わず口をはさむ。

 


満足げにほほ笑んだ仙人は、話しを続けた。


『しかも面白いのがここからじゃ。


ワシと彼女はそこでキャンプをすることになった。


お酒好きという彼女の荷物がほとんど酒だったことには驚いたもんじゃよ。』

 


仙人の話によると、彼女は大学生。


親の教育で無理やり大学に通わされていたものの嫌になり、勝手に大学を辞め、返金された親のお金でバイクを購入して旅にでたという。

 


僕は今まで自分は変わり者だと思ってきた。

でもその考えをあらためなくてはならない。


世の中は、僕が考えているよりもずっと深そうだ。

 



仙人は続けた。


『ワシらは酒を飲み、いろいろな話をしとった。』
すると彼女が言った。


『おじさん野生の熊を見たことある?私は友達になれるんだよ。』


見たことがないと言ったワシに、明日連れて行ってあげるというのじゃ。


内心怖かったが、ひと回り以上も若い彼女に

かっこ悪い返事はできんからな。』

 


翌日、彼女のバイクに乗り、近くの山まで行ったという。


途中でバイクを停め、歩いて山を登っていると、
『ここだよ。』

彼女は振り返り、にっこり微笑んだ。

 


『ワシはそこで周りを見た。すると横の獣道から顔をのぞかせている熊と目が合ったのじゃ。
気が付けば周りは数匹の野生の熊に囲まれておったよ。

もう震えが止まらなくて、その場で小便を漏らしてしまったわ。』


話し終えた仙人は、残りの角ウィスキーを一気に飲み干した。

 


すごい話に僕は興奮した。


『そんな女性がいたら、惚れちゃいますね?』


僕がそう言うと、仙人はまんざらでもない顔で笑みを浮かべた。


その後、彼女と仙人がどうなったのかは聞かないでおくことにした。


想像するということも人生の楽しみなのだと思う。

 

 


それからの数日間、
サーフィンをしながら仙人たちと過ごした僕は、

『またお会いしましょう』。

と、旅人の決め台詞を残し、四国へ向かった。


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~Life is a journey~四国編~⑦

  リアル『田舎に泊まろう』 志藤さんファミリー



仙人と過ごした和歌山県を出発した僕は、淡路島を経由し四国に入った。

徳島県にも有名なサーフポイントはいくつかあるが、
僕は気の向くままに高知県までキャンピングバスを走らせた。

直観といったら聞こえはいいが、【なんとなく】という感覚を頼りにして進む。

旅をしていると《この感性》が磨かれていく気がする。

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