人生のレールを脱線してみたら、こうなった僕の半生記【前編】
僕の勝手で旅をしているが、出会う人達の温かさを感じることが何よりの贈り物だった。
時間には制限がなかったこともあり、移動は基本的に国道を使った。
八月の上旬、僕は東北・仙台まで来ていた。
東北にも有名なサーフスポットがたくさんある。
僕はまず、以前にも何度か訪れたことのあるサーフポイント【仙台新港】へいった。
丘の上にある駐車場から太平洋を見合わせる人気のポイントだ。
台風のときには、ビックウェーブが期待でき、
丘の上の駐車場は、大波に挑む怖いもの知らずのサーファーや、それを見に来るギャラリーの観客席となる。
駐車場に着き、波チェックができる場所にうまく停めることができた。
すると、三台ほど隣に停めてあるキャンピングカーが目についた。
運転席にはキャップをかぶり、サングラスをし、真っ黒に日焼けした男性がこちらを見ている。
軽くお辞儀をした僕は、車から降りて海を見渡していた。
するとその男性が近づいてきて話しかけてくれた。
『どこから来たの?すごいバス乗ってるね~』
僕は自己紹介し、東京から旅をしていることを話した。
『へー、そうなんだ。俺はアタル。東北のサーフポイント教えてあげるよ。』
アタルさんは僕より五つほど年上で、
家はあるが、一年のほとんどをキャンピングカーで過ごしているという。
まさに僕がやりたかったライフスタイルだ。
キャンピングカーとサーフィンの共通点もあり、僕らはすぐに意気投合した。
『これから先輩のサーフショップにいくけど、稲も一緒に来ない?』
初めから名前を呼び捨てにしてくれ、引っ張ってくれる兄貴タイプのアタルさんに僕は好感を持てた。
初めて会う人との距離感はとても重要だと思う。
気を使って接すれば、相手もそれを感じ取り距離が縮まらない。
アタルさんの距離感は、知らない土地に来た僕にはちょうどよかった。
アタルさんのキャンピングカーに先導され、僕らはサーフショップ【グレイスサーフ】へ到着した。
隣にコンビニがあったので、お邪魔する意味も含め、ビールを数本買って入った。
日曜日だったこともあり、店内にはショップメンバーの仲間が数人いた。
サーフショップは、その名の通りサーフィンの道具が売られている。
普通の商売に比べ、そもそもサーフィン人口は限られているため、地元に住むサーファーは友達を紹介したりして、ショップメンバーという形で深く繋がるスタイルが多い。
そのときいた人たちもみんなつながりのあるメンバーのようだった。
アタルさんが僕を紹介してくれた。
オーナーの大坪さんファミリーと数名のショップメンバーがおり、みなさんとても良い人達だ。
僕の買ってきたビールで乾杯し、話しをしているうちに、
この場にいる全員がキャンピングカーを愛車にしていることがわかった。
なんともすごい状況に僕はテンションが上がりまくりだ。
どこのポイントがどうとか、今まで一番良い波はどこだったとか、日本各地のポイント名が飛び交う。
まだキャンピングカーライフをスタートしたばかりの僕には、すべてが新鮮だった。
ビールも追加で買い出しに行き、奥さんや子供たちが帰ってからも、野郎だけでの宴(うたげ)が続いた。
『稲ちゃん、お盆まで仙台にいなよ。みんなでキャンプするからおいでよ』
オーナーの大坪さんが誘ってくれた。
『是非、行かせてください』
僕は即答した。
気が付けば、日付が変わる時間まで宴(うたげ)は続いていた。
みんな気持ちよくお酒がまわり、酒飲みの性(さが)ではあるが、お開きが寂しいという時間帯になっていた。
『稲、今日は駐車場で寝ていきな。明日も俺は休みだから、一緒に岩手県のポイントでサーフィンしようよ』
アタルさんがそう言ってくれたことを合図に僕らは渋々お開きを受け入れた。
どんなに酔っぱらっていても、その場が自宅になる。
お互いがキャンピングカーである上の特権だ。
キャンピングカーを利用したことのない方も多いと思うので、少し内装をお伝えしたいと思う。
僕のマイクロバス型は、再度のドアを開けると、正面に四人掛けのテーブルがある。その横に小さいけれどキッチンスペースがあり、モーター式の蛇口とシンク、ガスコンロが置けるスペースがある。大がかりな料理さえしなければ、何の不自由もない。
後部座席はベットスペースで、大人二名が寝られる。組み立て式のため、コの字型のテーブル席にも代えられる作りだ。
アタルさんのキャンピングカーは、外見は一般的に見かけるタイプのあの型だ。
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