人生のレールを脱線してみたら、こうなった僕の半生記【前編】
『何とか沖に出た俺は、ゲンさんの姿を探した。
すると、荒れ狂う大波の中に必死で泳ぐゲンさんをみつけることができた。
生きてたんだ。
次の瞬間、突風とともにゲンさんのボードが俺の頭上を飛んでいった。
取りに行かなければ…。
そう思った俺は、ゲンさんのボードに追いつき、抱え込むことができた。
でもさすがに無理がある。一人でも必死な状況だったわけだからな。』
結局アタルさんは、ゲンさんのサーフボードを保守できなかったという。
その後、極力小さい波を選び、アタルさんはなんとか大海原から生還できた。
全エネルギーを使い果たしたアタルさんは、砂浜にうずくまる。
そこへ先に生還していたゲンさんがやってきた。
『すみません。ゲンさんのボード、一度は掴んだんですが…。』
『アタル、俺には仲間がたくさんいるけどな、お前はその中でも一番だ。』
そうほほ笑んで、ゲンさんは去っていったという。
『うれしくてさ。あの時のことは忘れられないよ。』
アタルさんの目には涙が溢れていた。
人の数だけ世界があり、物語がある。
旅を始めて最初に感じた出来事だった。
今でもアタルさんにはとても感謝している。
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~Life is a journey~近畿編~⑥
和歌山の仙人
夏から秋にかけて東北地方を巡った僕は、
年末に向けて一度、東京の実家へ帰ることにした。
正月を家族や仲間と過ごし、二〇一七年一月中旬から旅を再開させる。
冬の間は南に向かおうと考えていた。
太平洋沿いを気の向くままに南下していった僕は、一月の下旬には和歌山県に入っていた。
ここでまた面白い出会いがある。
串本町にあるサーフポイントをみつけ、何日か滞在するために駐車場を探していたところ、
たまたま海を見渡せる丘の上に駐車場を見つけた。
車通りの少ない県道の山道脇にあるその駐車場には二台の軽ワゴンが停まっているだけだった。
邪魔にならないように隅のスペースにキャンピングバスを停め、クマジを連れて散歩にでかけた。
しばらくして駐車場へ戻ると、先ほどの軽ワゴンの横に椅子を出し、二人の男性が会話している。
僕が挨拶をすると、
『それ兄ちゃんのか?』
バスを指さして一人がいった。
『はい。そうです。お邪魔しています。』
そう言いながらキャンピングバスから椅子を持ち出し、
『ご一緒していいですか?』と横に座った。
普段より大胆になれることも旅の魔法かもしれない。
一人は六十歳くらいの短髪のおじさん。
見るからに人が良さそうだが、前歯がすべてない。
もう一人は、七十~八十歳くらいに見える。
薄くなった髪の毛は真っ白な長髪で、伸ばしっぱなしの長いヒゲも真っ白だった。
『仙人と呼びなさい。』
唐突にそう言われた僕の頭の中では、
子供の頃に夢中で集めていたビックリマンシールの神様、【スーパーゼウス】が浮かんでいた。
相手を認識する際、顔のパーツのどこを中心に識別するかは人それぞれ違う。
と以前何かの本で読んだことがある。
目を中心に識別する人、鼻や口など、中心に見る箇所は十人十色のようだ。
しかし仙人に限っては、この理論は通用しないのではないだろうか?
誰がどう見ても仙人なのである。
横に腰かけた僕は、昼間だったこともあり、コーヒーを振舞おうと勧めた。
すると二人とも
『酒のほうがいいわぃ』
と言って、お互いの車から大五郎のペットボトルと角ウィスキーのボトルを持参した。
僕も負けずと飲みかけのジンビームで応戦させて頂き、即席の宴(うだげ)が始まった。
二人とも車中生活を何年も続けており、数年前にこの駐車場で出会ったという。
『ワシは普段、山の中に住んでるんじゃが、冬になるとここにきて車中泊をするんじゃよ。
全国旅したが、冬は和歌山が一番暖かいぞ。』
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