車いすの男性と出会って結婚するに至るまでの5年間の話 その3

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取材じゃなかったらよかったのに

毎週日曜日、“取材目的”でテニスコートに通うようになった。ただ、テニスをしている間は、やっぱり他の人の目が気になって、あまりいろいろ話せなかった。気軽に話せるのは、帰りの車の中。あの雨の日、お互いに送り&送られそびれた反省から、帰りは車で駅まで送ってもらうのが約束事のようになった。最寄り駅までだったので、短い時間だっけれど、気兼ねなくいろいろ話せるので毎週楽しみだった。

車いすの人の車

少し補足を。車いすの人の移動手段なんて、それまで考えたこともなかったけど、夫と知り合ってからいろいろなことを知りました。車いすを利用している人の多くは、車を第1の移動手段にしているです。
足が使えないのに、どうやって車を運転するの!? どれだけ費用をかけて車を改造しているんだろう?? みんなお金持ちなの?? と疑問は尽きませんでしたが、オートマチック車に手で操作できるアクセルとブレーキを取り付けているだけなのだと教えてもらいました。もちろん、足での操作も可能。知ってました?
それじゃ、どうやって車に乗るの? ちなみに夫は全く歩けません。運転席の扉を全開にして、運転席のすぐそばまで車いすを寄せます。そして腕の力だけで、よっこらしょっと運転席に乗り移ります。それから両足を車に自分の手で乗せて、そして車いすを折り畳んで車に乗せます。このころは後部座席に車いすを乗せていたので、助手席はわ・た・し・の・も・のでした。
だから、だからなんです。車いす専用の駐車場が幅広くスペースが取られているのは、扉を全開にしないと車に乗れないんです!! 車いす専用スペースに車が止めてあって、そこに立って歩いている人が乗り込むのを見る度に切なくなります。
話を戻します。


テニスコートでは、ゆっくり話す時間が取れないということで、出会ってから1カ月くらいしたある平日の夕方、彼は仕事終わりに、私は学校が終わってから“取材”という大義名分を持って、食事をすることにした。待ち合わせは彼の自宅の最寄り駅。駅の改札を出たら、ペデストリアンデッキになっていた。ここでは車いすで上がって来れないだろうと思った私は、階段で地上の降りてきょろきょろしていた。すると頭上から声が掛かった。単に、ペデストリアンデッキの端にエレベーターが設置されていたのだった。それに気付かなかったため、びっくりしてしまった。
彼が案内してくれた居酒屋は、エレベーターを利用しなければいけなかった。ビルのエレベーター乗り場に行こうとしたら、自転車が通路を塞いでいたため、自転車をずらしながら進まなくてはならなかった。歩いてだったらすり抜けられるのに、こういうのが困るんだな、と思った。
居酒屋に着いたら店の厨房の裏だった。よく利用しているようで、お店の人も理解があって、通路を作ってくれたけど、こんなところを通らないとこの店には来れないんだなあと思った。他の店を利用すればいいだけなのかもしれないけど、好きなお店に自由に入ったりできないんだな、と実感した。
彼と行動を共にするようになって、本当に世の中の見方が変わった。ここはスロープあるのかな? ここはエレベーターかエスカレーターがあるのかな? ここには車いすで入れるのかな? トイレはどんなトイレかな? 今まで考えたことのなかったことで、頭を使うようになった。ちょっとしたことで、見える世界は変わるんだと思う。
取材なので、お酒を飲んで食事をしながらも、私はペンを持って聞いたことをノートに書き込んでいった。車いすになったきっかけについて。留年して高校を卒業し、大学はアメリカで卒業したこと。偶然と幸運が重なって、今の仕事に就いたこと。そして、テニスのこと。
本来は、親しくなるにつれて、少しずつ知っていくようなことを、文字通り根掘り葉掘り詳しく聞き出していく。彼は楽しそうに話してくれたし、私は車いすの人ってそんなに活動的なものだというイメージがなかったから、とにかく驚きの連続だった。
お互いにたくさん話して、相手の話を聞いて、おいしい食事もして、ほろ酔いになって。でも、もう時間も遅いので帰ることに。帰り際、彼が聞いてきた。「オレは取材対象者ですか?」。私は答えた。「そうですよ。取材対象者ですよ」と。そう答えなくては失礼だと思ったから。本当はそんなふうに答えたくなかった。取材なんかじゃなかったらよかったのに。

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