【地球の裏側で元ホストと旅をして学んだ魔法の言葉】
しかし真夜中になっても、どうしてもやすが気になって眠れない。
宿は2階建てで、一階には私たち、2階に男の子たちが寝ている。
何となくやすがいるような気がして1階から階段越しに2階をのぞく。
すると廊下の長椅子に、彼は一人座っていた。
よかった。なんとなくいる気がしたんよ。
高地のペルーの夜はとても寒い。息が白かった。
寒さに身体を丸めながら、私もやすの隣りに座る。
ふたりとも前を向いたまま、くっきりと見える星と月明かりを見ていた。
田舎の小さな街は電気がなくて星がとてもキレイだった。
長かったのか短かったのか、沈黙が続いたあと、やすがポツポツと話し始めた。
イライラしたり、悲しくなったり。
意味分かんねえ。
でも一人でいたくもなくてさ。
うんうんと、私は黙ってうなずく。
みんなにも気使わせて....
ソウルカラーのせい?みんなと本音で話したせい?
こんなことになるんなら..やらなかったらよかった....
やすは、本当に辛そうだった。自分の大きな感情にとまどっていた。
違うよ、大丈夫。これは全然悪いことじゃないの。
私はやすのイライラの原因が分かっていた。それをどうしても伝えたかった。
一度出てきた感情は、実は一生無視できないんだよ。
だから昔我慢した感情も、見ないふりした気持ちも、本当は心の奥にしまってるんだよ。
やすは真剣に聞いてくれている。
悲しいとか寂しいとか感動することに理由なんかいらない。泣きたいときは本当はいつも泣いていいんだ。
寂しかったらちゃんと寂しい自分を分かってあげる。寂しいのも悲しいのもイライラも感動も、ただ感じてあげればいいんだよ。
実は少し前まで、私も生きるのが難しくてしかたなかった。
自分が苦手で、全然自信が持てなかったのだ。
そして、とことん自分と向き合ってみた。
それは、悲しいも寂しいも辛いも、もちろん楽しいも全部、ちゃんと感じ尽くすということ。
自分が今どんな気持ちか、あのときどんな気持ちだったか、気づいてあげることだった。
こころのことを勉強して分かったのは、私たちの『感情』は、なかったことにはならない、ということ。
そして『自分と向き合う』とは『自分の感情』と向き合うことだった。
大丈夫。やす、あなたは大丈夫だよ.....!
こころの中で何度もつぶやく。
すると緊迫していたやすの空気が、急にふっと軽くなった。
うつむいているやすの、その肩が、震えていた。
やすは、泣いていた。
それは弱い涙じゃなかった。自分に向き合った真っ直ぐな涙だった。
たまらずやすをぎゅっと抱きしめる。
彼が小さな子どものような、でも大きな存在にも感じた。
彼の高く高く積んだ、何かから防御するかのようなプライドの壁は、もうなかった。
そのかわり、そこには深く深く根を張った、本当の自分らしさが芽を出していた。
そのままでいいよ。
やすは、小さいころから親に認められなかった。
自分の意思とは関係のない沢山の習い事と、そして自分の大好きなことはやめさせられてしまう。
それじゃダメだ!もっと頑張れ!もっと頑張れ!と育てられてきた。
本当はその時、とても悲しくひどく寂しかったんだ。
それは子供のこころじゃ抱えきれない程おおきな感情だった。
でも両親は”自分たちのように苦労してほしくない”という思いから、必死だった。
ただ不器用な愛情が、すれ違っていた。
でも、やすは言って欲しかったんだ本当は。
”そのままでいい。”って。
そのままでいい。
そのままでいいんだ。
あなたは、そのままで、十分素晴らしいんだ。
それは、魔法の言葉だった。
何かを頑張らなくても、他の何かにならなくてもいい。
そのままの存在でちゃんと価値があること、
生きているだけで価値がある、その人をまるごと認める、魔法の言葉だった。
そして地球の裏側で偶然出会ってしまったはみ出し者の【チーム330】は、
みんながみんなを、そのままでいさせてくれたんだ。
....まじで、ありがとまほ...
感情を出しきったやすは、胸のもやもややイライラした感じが、嘘みたいになくなっていた。
ずっと抑えていた感情をちゃんと感じきったんだ。
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