【地球の裏側で元ホストと旅をして学んだ魔法の言葉】

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しかし真夜中になっても、どうしてもやすが気になって眠れない。


宿は2階建てで、一階には私たち、2階に男の子たちが寝ている。

何となくやすがいるような気がして1階から階段越しに2階をのぞく。


すると廊下の長椅子に、彼は一人座っていた。


元ホスト やす
よ....起きてたんか。
うん寝れなくて...
よかった。なんとなくいる気がしたんよ。


高地のペルーの夜はとても寒い。息が白かった。

寒さに身体を丸めながら、私もやすの隣りに座る。


ふたりとも前を向いたまま、くっきりと見える星と月明かりを見ていた。

田舎の小さな街は電気がなくて星がとてもキレイだった。


長かったのか短かったのか、沈黙が続いたあと、やすがポツポツと話し始めた。



元ホスト やす
....ごめんな。みんなと最後の旅なのに....
元ホスト やす
胸がもやもやしてさ、なんか気持ち悪くて。
イライラしたり、悲しくなったり。
意味分かんねえ。
でも一人でいたくもなくてさ。


うんうんと、私は黙ってうなずく。



俺、すげえ楽しみにしてたのにさ
みんなにも気使わせて....


これ何なん?
ソウルカラーのせい?みんなと本音で話したせい?
こんなことになるんなら..やらなかったらよかった....


やすは、本当に辛そうだった。自分の大きな感情にとまどっていた。



ううん。やす。
違うよ、大丈夫。これは全然悪いことじゃないの。



私はやすのイライラの原因が分かっていた。それをどうしても伝えたかった。



あのね『感情の法則』ってあるんだよ。知ってる?

一度出てきた感情は、実は一生無視できないんだよ。

だから昔我慢した感情も、見ないふりした気持ちも、本当は心の奥にしまってるんだよ。


やすは真剣に聞いてくれている。


今、昔我慢した寂しい気持ちとか、悲しい気持ちが出てるんだよ。みんなで本音でぶつかってソウルカラーで自分を知って、ためていた感情の蓋が開いたんだ。

悲しいとか寂しいとか感動することに理由なんかいらない。泣きたいときは本当はいつも泣いていいんだ。

寂しかったらちゃんと寂しい自分を分かってあげる。寂しいのも悲しいのもイライラも感動も、ただ感じてあげればいいんだよ。


実は少し前まで、私も生きるのが難しくてしかたなかった。

自分が苦手で、全然自信が持てなかったのだ。


そして、とことん自分と向き合ってみた。

それは、悲しいも寂しいも辛いも、もちろん楽しいも全部、ちゃんと感じ尽くすということ。

自分が今どんな気持ちか、あのときどんな気持ちだったか、気づいてあげることだった。


こころのことを勉強して分かったのは、私たちの『感情』は、なかったことにはならない、ということ。

そして『自分と向き合う』とは『自分の感情』と向き合うことだった。


大丈夫。やす、あなたは大丈夫だよ.....!


こころの中で何度もつぶやく。


すると緊迫していたやすの空気が、急にふっと軽くなった。

うつむいているやすの、その肩が、震えていた。

やすは、泣いていた。



それは弱い涙じゃなかった。自分に向き合った真っ直ぐな涙だった。



たまらずやすをぎゅっと抱きしめる。

彼が小さな子どものような、でも大きな存在にも感じた。



彼の高く高く積んだ、何かから防御するかのようなプライドの壁は、もうなかった。

そのかわり、そこには深く深く根を張った、本当の自分らしさが芽を出していた。




そのままでいいよ。



やすは、小さいころから親に認められなかった。

自分の意思とは関係のない沢山の習い事と、そして自分の大好きなことはやめさせられてしまう。

それじゃダメだ!もっと頑張れ!もっと頑張れ!と育てられてきた。


本当はその時、とても悲しくひどく寂しかったんだ。

それは子供のこころじゃ抱えきれない程おおきな感情だった。



でも両親は”自分たちのように苦労してほしくない”という思いから、必死だった。

ただ不器用な愛情が、すれ違っていた。



でも、やすは言って欲しかったんだ本当は。



そのままでいい。”って。



そのままでいい。

そのままでいいんだ。

あなたは、そのままで、十分素晴らしいんだ。



それは、魔法の言葉だった。

何かを頑張らなくても、他の何かにならなくてもいい。

そのままの存在でちゃんと価値があること、

生きているだけで価値がある、その人をまるごと認める、魔法の言葉だった。



そして地球の裏側で偶然出会ってしまったはみ出し者の【チーム330】は、

みんながみんなを、そのままでいさせてくれたんだ。



はあ〜!...まじでスッキリした....。
....まじで、ありがとまほ...


感情を出しきったやすは、胸のもやもややイライラした感じが、嘘みたいになくなっていた。

ずっと抑えていた感情をちゃんと感じきったんだ。

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