私はここにいる
これがほまれの初恋となった。
「俺、あと一週間で退院出来るんだ。電話番号教えてよ。ご飯でも食べに行こう」
二人は電話番号を交換した。
その日は母親の病室にも寄らずほまれは家に帰ってしまった。母親に悟られたくなかったから。
あと一週間。平田は私を抱きしめてくれるだろうか。あの心地よい平田の鼓動が聞けるだろうか。
部屋のベッドに大の字になり平田に渡された電話番号が書いてある紙をいつまでも眺めていた。
ほまれは一週間、毎日病院に行った。まず先に平田の病室へ。
「目を見せて」
平田は毎日言った。
そして抱きしめてキスをした。
ほまれは平田に溺れて行く自分を見失っていた。
嫌いだった自分の目を好きでいてくれる平田に初恋と言う人間の本能、いや欲望とさえ言えるものがメラメラと燃え上がって来ていた。
退院の前の日もほまれの目を見つめて強く抱きしめ熱いキスをした。
「ほまれを抱きたい」
ほまれは17歳だ。クラスメイトの女子は平気で彼氏とのセックスの話をしている。中には中絶した女子生徒もいた。
ほまれは平田に抱かれたいと思った。セックスはどんなものなのか知りたかった。
平田が首のギブスを外し退院して行った。
病院の外は報道陣でいっぱいだったので後ろ姿しか見れなかった。
三日たっても平田から電話かわかかって来なかった。あれだけ約束したのに。
テレビをつけてみる。
平田がコントをやっている姿が映し出されていた。
病室の平田の顔とは違う顔。
お兄ちゃん、私を忘れたの?
画面に向かって話しかける。
平田に対する思いは膨らむばかり。イライラがつのる。
二週間ほどして夜中の12時に電話がかかって来た。
電話機は親子電話だったのでほまれの部屋に電話が置いてあった。
「ほまれ?お兄ちゃんだよ。忙しくて電話出来なくてごめんな」
「良くテレビに出てるもんね。お兄ちゃん忙しいんだろうなって」
明日、朝ロケで終わりなんだ。会えるかな?でも学校だよね?」
「休んじゃう!お兄ちゃんに逢いたいから」
「いいのか?まぁ、それも青春だハハハハ!ドライブに行こう 」
電話を切ったあとほまれは眠れなかった。洋服は何を来て行こうか、メイクはキッチリしていったほうがいいのか…
「抱きたい」
その言葉が頭をよぎる。
下着は?そんな勝負下着なんて持っていない。
どうしよう…どうしよう…
朝まで眠れなかった。
約束の時間は午前11時。赤坂プリンスのロビー。
ほまれは淡いピンク色のワンピースにちょっと大人っぽく見せるためのメイクをした。
腕時計を見る。もう午後12時になろうとしている。
それでもほまれは期待に胸を膨らます。
ホテルに入って来る男性が平田であるかのように幻覚まで見るようになる。
昨夜寝ていなかったので眠くなって来た。ロビーのソファーは心地よい。
夢を見ていた。
暗い海の底で淡いピンクのワンピースを着た自分が膝を抱えて座っている。ほまれは海の流れの中に身を任せ、まるで人魚のように泳ぎ出す。空の方を見る。揺らぐ海面に乱反射のようにキラキラと太陽の光が波打っている。綺麗だと思った。
著者の大塚 真理亜さんに人生相談を申込む
著者の大塚 真理亜さんにメッセージを送る
メッセージを送る
著者の方だけが読めます