キキへ 「才能」という言葉について、あなたに聞きたくて。

著者: たかやま ふゆこ

こんにちは、キキ。

ほうきの調子はどうかしら?

わたしも、小さな赤ちゃんのユッチも、ダンナもとても元気よ。

赤ちゃんの世話と家の仕事をしながら本の装丁や絵を描くのは

ときどき大変だけど、なんとかやっています。


冬が終わって少しして、私がひっこしたのは、あなたも知っているでしょう?

近所の人は、みんないい人ばかりよ。こどももたくさんいるわ。

とくべつ困っているとか、つらいことはないのよ。

でも、少しあなたに聞いてほしいことがあって、手紙をかくことにしたの。

わたしの仕事の話をすると、こう言われることがふえたから。

「絵の仕事をしているの?いいわね!才能あるってうらやましいわ!」

絵は好きでしょう?

森の中で出会った素敵な絵描きさんのことを話すとき、

あなたとても嬉しそうだもの。

でも、あの人のことをほめるとき、「才能あるっていいね」なんて

きっと言わないと思うわ。


いやな気分になる、ということではないのよ。そう言ってもらえるのは嬉しいの。

わたしも、気にせず誰かにおなじことを言ってるかもしれないし。

でも、こころに少しひっかかるものがあるのも確かなの。


キキは、魔女であることと、実際に空を飛ぶことは別だって、考えたことはない?

魔女であることは才能かもしれないけれど、

空を飛ぼうと思ったり、実際に飛ぶことは、あなた自身の選択じゃないかしら。

仕事なら、なおさらよね。


ともだちが展覧会をひらいて、
見に行ったんだよね。
とてもよかったんだけど、
どう感想を言っていいかわからなかったんだ
絵をかく人は、どう言ってもらえたら・・・
その、嬉しいんだろう?

以前、そう相談されたことがあったわ。

わたしはこう答えたの。

「1番好きな絵を撰んで、
 その中でさらに好きな部分・・・
 色やかたちを見つけて、
 それをともだちに伝えたらどうかしら」

自分の知らない世界のものや、人をほめるのって、

とてもむずかしいのかもしれないわね。

でも、わたしはなるべく「すごい才能ね」なんて言わないようにするわ。

だって、その人が才能だけでそれをしているわけ、ないもの。


こんどはユッチと会いにいくわ。

あなたのほうきは隠しておくこと。

あの子、部屋をそうじするモップが大好きなの。

ぜったいさわりたがるから、ジジにもそう言っておいて。


あなたの友達より


追伸:くしゃみの薬、ありがとう!

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