リモートワークが違法?歯科技工士の在宅ワークを可能にしたキット作成の道程
歯科技工士って誰?
皆さんは、歯科技工士という職業をご存じでしょうか?
私は、7年前に歯科業界に関わるまではその存在を知りませんでした。
歯医者さんが治療で使うかぶせ物や詰め物、入れ歯などは
全て歯医者さんで作っていると思っていました。
でも、実際は、歯科技工士という専門の職人さんが
ほとんど製作しているのです。
※日本では、国家資格である歯科技工士免許(もしくは歯科医師免許)を
持った人しか歯科技工は行えません。
歯科技工士が絶滅?
そして、今、歯科技工士は存続の危機に瀕しているとも言われています。
(以上、厚生労働省「歯科技工士の養成・確保に関する検討会」資料より)
平均年齢は50歳近くとなり、歯科技工士学校の卒業生は20年前の1/3以下と減ってきています。
理想の歯科技工所を目指して
当社「QLデンタルメーカー株式会社」はそんな状況の中、
”歯科技工士を一生続けられる場を作る”こと経営理念の1つとして
2014年に設立した歯科技工所です。
現在の歯科技工はコンピュータ化が進み、セラミックス技工物の場合、
3D-CADを用いた歯のデザイン・設計は必須となっています。
当社では、デジタル技術を活かすことで、
効率的で働きがいのある仕事環境を構築してきました。
きっかけとなる或る事件
そんな中、ある社員が朝礼で当社への想いを話してくれました。
「知人の技工士が激務で亡くなり、技工業界に愛想を
尽かして縁を切ろうと思ったけど、どうしても技工が好きで
ネットで技工所を探していたら、この会社を見つけました。
ホームページの『創業の思い』を読み、見学に来て、そして勤めて、
ここなら業界を変えられると思って、今も頑張って仕事をしています。」
今でも本当に忘れられない言葉です。
ところが、この話をしてくれた技工士さんが当社を辞めることに
なったのです。
女性でお子さんがいて、ご家庭の事情から勤務時間の問題が理由でした。
その時、私は在宅ワークができたら、彼女は辞めないでも
済んだのではないかと思ったのです。
在宅ワークに立ち塞がる法律の壁
歯科技工は「歯科技工士法」という法律で規定されています。
患者さんの健康に関わる仕事ですから、法律で認めれた設備を整える必要があります。
ただ、PCでの歯のデザインであれば、パソコン一つあればできますし、
在宅での作業が品質に影響することもありません。
そこで、2018年11月に厚生労働省に問い合わせたところ、
業で歯科技工を行うのなら歯科技工士法で定められている場所で
行う必要がある、
という内容の回答をもらいました。
しかしながら、歯科技工法は昭和30年に施行されたものであり、コンピュータ化・機械化が進んだ現状とは乖離した部分が残っています。そのため、歯科技工所として認められるためには、使わなかったとしても集塵機等の各種設備を用意する必要がありました。
そのための費用は100万円以上であり、コスト面で実現は難しいものでした。
神奈川県の無料の弁護士相談を活用して、弁護士さんとも協議したのですが、法解釈の余地はあるが、その方向で進めていくには多くの時間とリソース(訴訟の提起等)が必要で、(零細企業には)現実的ではないことが分かりました。
コロンブスの卵
暗礁に乗り上げたまま、数カ月たったある日、
ネットショップでIT機器を探していた時に、似たような機器が格安で多数売れていたのを見て、「ひょっとしたら・・・」と思いました。
そして、個人で開業している歯科技工士さんで、集塵機(が高価なので)
として掃除機を使用している人がいるという話を聞いたことも思い出しました。
歯科技工の専門の機器でなくても、流用できるような機器をネットやホームセンターで探せば、現実出来なコストで設備をそろえることが出来るのではないか?
そこで、実際に集塵機に使えそうなものを調べると、ネイルアート用のコンパクトなものが数千円で売っていました。スペック等を技工士さんに確認すると使えないことはないとのことでした。
2019年の夏の事でした。
業界の内にいたため、業界の常識(=歯科技工所の設備基準を満たすには高額が必要)に縛られていたことに気が付きました。起業して経営してく中ですっかり考えが染まっていたのでした。
そして、どうせ在宅ワークを行うのであれば、当社だけではなく広く業界全体で共有できるようにしたいと思い、当社の試みを「在宅ワークキット(セット)」として広く発信したいと考えました。
川崎モデルの支援、在宅ワークの実現
そんな時に以前からこの件で相談に乗っていただいていた川崎市産業振興財団さんにキットの件を話したところ、川崎市で募集している「働き方改革推進事業」に応募してみてはとの提案をもらいました。
何とか資料を用意して申し込んだところ(期限の最終日)、
採択していただき、
働き方改革⇒産業労働局
保健所⇒健康福祉局
という川崎市の役所の垣根を越えて、ご支援いただきました。
そして、2019年12月に
費用7万5千円ほどで在宅ワークを実現いたしました。
その後の表彰や広報活動は、コロナ禍によって延期・中止となってしまいましたが、コロナ禍だからこそ在宅ワークが重要ということで、
2020年春~夏に新聞等で取り組みを取り上げていただきました。
(神奈川新聞2020年5月18日)
また、在宅ワークキット中身は当社のホームページで公開しています。
小さな試みかもしれませんが、情報を共有することで、
多くの歯科技工所で在宅ワークが実現できればと願っております。
QLデンタルメーカー株式会社 取締役 川村孝士
(創業時の3名の写真 右端が筆者)
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