「再エネ+新電力」で実現するゼロカーボン 分散型エネルギーシステム「エネプラザ」開発秘話
2021年2月、さいたま市は同市緑区美園に計画中の「スマートホーム・コミュニティ街区(第3期)」の進捗をホームページで発表しました。この計画は、株式会社Looop(本社:東京都台東区、代表取締役:中村創一郎)が開発したスマートシティのための分散型エネルギーシステム「エネプラザ」をもとに、ハウスメーカー3社(株式会社アキュラホーム、株式会社高砂建設、株式会社中央住宅)が家づくりの知見を結集し、2021年度内の竣工を目指しているものです。「エネプラザ」開発プロジェクトリーダーの荒井綾希子が開発の裏側を語ります。
荒井綾希子プロフィール
電気設備の保守・保全業務に従事しようと、第三種電気主任技術者と大型免許を取得した電力女子。北海道大学工学部卒。2019年7月Looopに入社。「エネプラザ」プロジェクトリーダーとして、各家庭および町全体の電力使用シミュレーションから特定送配電プランを策定し、ハウスメーカーや機器メーカー、行政等との調整を行う。電力事業本部事業開発課再エネ推進チーム主任。
みんなで発電し、融通しあう
スマートホーム・コミュニティ街区(第3期)には、住宅メーカー3社が51戸の住宅を建設し、全戸にLooopが太陽光発電設備を設置し、分散型エネルギーシステム「エネプラザ」を構築します。街区内51戸で発電した電力は、中央のチャージエリアに設置された蓄電池とEVにいったん貯めた後、各戸の電力使用状況に応じて分配されます。さらに各戸に設置された給湯器を独自のロジックで制御し太陽光の自家消費率を最大化させることで、街区全体の再生可能エネルギー自給率を60%以上に引き上げることを見込んでいます。一般に、家庭で発電した電力を単独で消費する場合の自家消費率は30%程度、蓄電池を入れて50%を超える程度と言われており、エネプラザはその先を目指す先進的な取り組みと言えます。
発電と消費の両方を制御
街区内で電力を効率的に融通する仕組みを実現するため、Looopは地中化配電網の構築及び制御システムの構築(マイクログリッドの構築)に着手しました。「日本各地に普及できる再現性の高い事業モデルとするために知恵を絞った」とエネプラザ開発プロジェクトリーダーの荒井綾希子は言います。
「エネプラザ」は、再生可能エネルギーの使用率を高めること、レジリエンスを担保すること、経済性を成り立たせることの3つを兼ね備えた仕組みを実現しようとしています。いろんな課題がありましたが、なかでも頭を悩ませたのは、太陽光が需要に対して余剰した場合でも、街区外の電力系統へ戻すこと(逆潮流)ができない点です。逆潮流ができないので、発電が需要に対して余剰する時は、太陽光を抑制することになります。しかし、抑制すると、せっかくの再生可能エネルギーを無駄にしてしまうことになり、できるだけ抑制をかけない仕組みとしたいと考えました。
そこで蓄電池やEVという蓄電リソースを導入するのですが、余剰を全て蓄電しようとすると蓄電池のコストが膨大になります。「エネプラザ」では、街区外の系統が停電した際に自立運転をすることになっていますが、その時に電圧源として機能できること、太陽光の余剰分もある程度蓄電できること、かつ経済性が成立することを条件に蓄電池の容量を選定しました。また、EVは、動く蓄電池として停電時にチャージスポットに走り充電し、戻ってきて街区に放電することも可能です。そのような運用ができれば、系統停電時でも永続的に電力を供給し続けることができます。このようなレジリエンスの観点からも、蓄電池に加えてEVを導入することにしました。また、車社会である浦和美園においては交通の脱炭素化も重要な課題であり、EVの導入を決めました。
さらに需要サイドのコントロールにも取り組みます。第一に注目したのが給湯器です。一般に、電気給湯器は一日のうちどこかでヒートポンプを動かして一日分のお湯を作り、タンクに貯めています。この機能を活用して、太陽光が余剰している時に湯を沸かせば、太陽光発電設備で作った電力を有効利用することができるのではないかと考えました。さらに、夏と冬の発電量の違いや、朝と夜の電力使用量の違いなどを考え合わせて、制御ロジックを作り遠隔制御します。
次に住民の行動変容に着目しました。太陽光が余剰している時に電化製品等を動かしてもらえれば、自家消費率が上がります。そのためには、住民の関心を高める工夫が必要であり、当社独自に開発したスマートホームデバイスを各戸へ設置することにしました。電気代や電力使用量等を画面に表示し、「見える化」します。住民が見て分かりやすく、楽しく計画が立てられ、また教育的要素もプラスできるようなUI/UXにも非常にこだわっています。これらの仕組みを導入することで、需要サイドのフレキシビリティも創出しています。
新電力小売のデータがあればこそ
「エネプラザ」の実現には、太陽光発電の知見と電力小売事業者としての供給実績の両方が欠かせないと、電力事業本部長の小嶋祐輔は言います。
Looopはもともと太陽光などの発電所建設と運営を行う会社として2011年に設立されました。太陽光発電は化石燃料由来のエネルギーと違って、燃料費がかかりません。このような再生可能エネルギーを最大限に普及すれば、だれもがエネルギーを無料(フリー)で使える社会ができるのではないかと当社は考え、「エネルギーフリー社会の実現」をビジョンとしています。
再生可能エネルギーを普及するためには、発電するばかりではなく、それらを使っていただくお客様を増やしていくことも大切です。ですので、2015年に一般家庭向け低圧電力小売事業が自由化されることが決まったとき、「これは絶対にLooopがやるべき事業だ」と参入を決めました。翌年の2016年4月から、新電力小売事業「Looopでんき」を開始し、2021年1月時点で28万件のお客様に電力を供給しています。
創業以来の発電所運営を通じて得た知見と、新電力小売事業を通じたエネルギー利用に関するデータの蓄積があってはじめて、当社は町全体のエネルギー利用を構想することができるようになりました。未来都市実現に向けた自治体の熱意や、高機能住宅の開発に邁進しておられるハウスメーカーの皆様とともに、第二・第三の「スマートホーム・コミュニティ」を全国に作っていきたいです。菅政権の掲げる2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、発電とエネルギーマネジメントの知見を磨き、我々も貢献し続けたいと考えています。
プレスリリース:
Looop 分散型エネルギーシステム「エネプラザ」構築に着手
https://looop.co.jp/info/2094_20201130
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