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緊急事態宣言下、地方でひとり出版社を創業

著者: スタブロブックス株式会社

一度目の緊急事態宣言が発出された直後、なぜ地方で出版社を立ち上げたのか――代表取締役の高橋武男がその理由と思いを語ります。



兵庫県加東市――大阪市内から直線距離にしておよそ60キロの田舎町に2020年4月21日、出版社スタブロブックス株式会社を設立しました。たったひとりで経営する出版社ということで、「ひとり出版社」ともよばれます。


設立日からもわかるように、コロナ禍の真っただ中での創業でした。しかもコロナの実態がほとんど解明されておらず、世界中が恐怖と大混乱に陥っていた時期です。タイミング的には当然良いとはいえず、非常に厳しい船出となりました。実際、一冊目の発刊が半年も遅れる事態となり、いろいろな計画を見直さざるを得ないことに――。


なぜこんなタイミングで、しかも東京ではなく兵庫県の田舎でひとり出版社を立ちあげたのか。


理由は3つです。


1つ目は、読者に本当の意味で届く本づくりがしたいと思ったこと。

2つ目は、地方の地域資源の魅力を全国に伝えたいと思ったこと。

3つ目は、10年来のお付き合いのある著者さんに背中を押してもらったこと。


順に説明していきます。

読者に本当の意味で届く本づくりを


スタブロブックス代表の私は2008年にフリーランスのライターとして独立し、おもにビジネス書のブックライターとして70冊以上の執筆を手がけてきました。ブックライターとは、著者に成り代わって一冊の原稿を書き上げるライターのこと。昔はゴーストライターともよばれていました。



私が担当していたビジネス書の場合、著者は経営者や士業の先生方など超多忙な方々ばかり。そうした方々の経験やノウハウを知りたい人はたくさんいる一方、肝心の著者は忙しくて原稿を書いている暇はありません。仮に時間的な余裕はあっても読者に分かりやすく、読ませる文章を書くのは至難の業です。


そこでブックライターの出番です。著者に丹念に取材し、集めた情報をもとに原稿を書き上げ、著者の度重なるチェックを経てようやく完成に至ります。だからライターが書いているとはいえ、原稿はれっきとした著者のものであり、ある意味では著者ご本人が執筆するよりも著者の伝えたい内容が読者に伝わりやすいようにまとまっていたりします。


そんなブックライターの仕事に矜持をもっていました。しかし本づくりに携わるなか、次第に、「読者に本当の意味で届く本をつくりたい」と思うようになったのです。


本づくりは正解のない営みです。そのプロセスを有意義なものにして、誰もが正解と信じる何らかの答えを見出していく。そのためには本づくりにかかわる人たちが方向性とビジョンを共有しながら制作に向き合う必要があります。


かかわる人たちが心ひとつに制作を進めることで、本にゆるぎのない一本の軸が貫通し、読者の心に突き刺さる一冊に昇華させられます。そうやってメンバー全員の共通認識のもとに導き出した答えこそ、その一冊における正解なんじゃないかなと考えます。


そんな理想的なチームで本づくりができた経験も数多くある一方で、メンバーの方向性が一致せずに思うようにいかないケースもありました。本づくりにかかわる人が多くなるほど思惑が入り組んでしまい、いつしか本来の目的――著者のノウハウや経験や思いを、それを知りたい読者に届けること――からズレてしまうことも。


ところがライターはいち職人でしかないため、本づくりの全体を統括したり、方向性を軌道修正したりするのは難しいのです。


ならば自分が版元(出版社)になり、同じ方向をめざせる人たちと組めば、本当の意味で読者に届く本づくりが可能なんじゃないか――。


そんな思いのもと、出版社の設立を漠然と思い描き始めました。2017年ごろの話です。

地方の宝物のような地域資源の魅力を全国に


上記の理由は、いささか個人的な思いがベースになっています。


その私的な感傷に社会性がわずかに宿り、「地方にこそ出版社が必要だ」と本気で考え出したのが2つ目の理由です。地方の情報発信に関心をもつようになったのです。


2008年にフリーランスのライターとして独立した当時は兵庫県尼崎市に家族で住んでいました。阪急電車で大阪の梅田駅まで15分ほど。取材先は、大阪市内をはじめとした全国の都市部が中心でした。


出版に携わる人間としては、(東京ではないにしても)大阪市内に出やすい環境は便利で何不自由なく過ごしていたわけですが、いずれは兵庫の田舎にUターンしてライター業を続ける目標を抱いていました(そもそもライターになったのも、いずれ田舎の自宅で好きな仕事をして暮らしたいと思ったからです)。


そんなことで、2014年に地元の兵庫県加東市にUターンすることになりました。



Uターン以降もブックライターとしての取材先はおもに都市部でしたが、あるきっかけで兵庫の地元企業を取材する機会に恵まれたのです。


この経験が、「地方に情報発信の受け皿が必要」と考える契機になりました。


というのも、地元企業を取材するほどに、地方ならではの魅力的な企業や地域資源がたくさん眠っているとわかったからです。しかし情報発信の受け皿が十分整備されていないために、そうした宝物のような地域資源が地元の人たち以外にまったくといっていいほど知られていないのです。


たとえばスタブロブックスが所在する北播磨地域は、播州織という地場産業が脈々と受け継がれてきたエリアです。播州織とは糸を染めてから織る先染めが特徴の織物のことで、先に色づけした糸を使うことで豊かな色彩や自然な風合いを表現できるなどの特色があります。



この播州織はいまだに職人の手作業による分業体制で成り立っています。その技術の一つひとつを見学すると、それは人間技とは思えない精緻な作業が繰り広げられているわけです。もはや芸術とよべるような美しい技術ばかり。


そうやって手作業で織り上げられている播州織の生地は伝統の着物などだけで使われているのではなく、むしろ国内外の最先端のファッションにも積極的に採用されていると知りました。


そこで、はたと気づいたのです。


「海外のセレブが着ているおしゃれな洋服、じつはその生地の一部は兵庫県の片田舎でつくられているのに、生産地や職人技はまったく知られていないじゃないか」と――。


悔しいと思いました。もったいないと思いました。


同時に、「地方に眠る地域資源を発信する受け皿が、この地方にこそ必要なんじゃないか」と思ったのです。


実際、地場産業の企業の中には若手の二代目が奮闘し、伝統技術を活用した商品を開発してマーケットに投入するチャレンジを続けている会社があります。創業150年を誇る老舗企業は、伝統とは程遠いマニアックファッションに進出し、いまやカリスマ的な人気を誇っています。


そうした若手二代目のチャレンジ、伝統と革新を融合させる企業のノウハウを広く世に問うことができれば、地方発の情報発信として意義があるのではないか――そんなふうに考えるようになっていきました。

10年来のお付き合いのある著者さんの後押し


以上のように、「読者に本当の意味で届く本づくりがしたい」「地方の地域資源の魅力を全国に伝えたい」と何年もかけて意識を高めていたとき、ある著者さんとの再会が出版社設立の決定打となりました。


その著者さんとは十数年来のお付き合いで、これまで計3冊の書籍の編集を担当してきました(ブックライターだけでなく、編集者としても本づくりを一部で担当していた)。そのうちの2冊はおかげ様で何度も刷り部数を重ねるロングセラーとなりました。


その著者さんから、「3冊のうち1冊の改訂版を出したい」と相談されたのです。しかも希望が2つあり、1つは元の出版社からではなく、別の出版社から出すこと。そしてもう1つは、ありがたいことに私といっしょに改訂版をつくりたいと言っていただいたこと。


出版社にはそれぞれのカラーがあります。仮に改訂版の発刊を前向きに考えてくれる出版社があったとしても、編集者はその出版社の人になる可能性が高いはずです。そう著者に伝えると、それなら書店には流通しない自費出版でいいとおっしゃるのです。


これまで増刷を重ねてきた書籍の改訂版を自費出版で出すのはあまりにももったいない。そう考えた私は出版社をつくる構想を著者に打ち明け、最終的に、私が出版社をつくって改訂版発刊の受け皿になろうと、長らく模索してきた出版社の設立を決断したのでした。

突如、襲ってきた脅威


そのような経緯で著者さんからから背中を押してもらい、出版社の立ち上げを決めたのが2020年の12月ごろ。それから設立に向けて本格的に動き出した矢先、突然、世界中が大混乱に陥りました。


そうです、新型コロナウイルス。


なぜこのタイミングなのか。何か意味があるのだろうか。意味があるのならそれは何なのか。運命なのか。自問自答しても答えなんて出ないものの、自問自答するしかない日々が続きました。


それでも立ち止まることなく、計画どおりに出版社を設立する。考えるほど走るスピードがにぶるので、考えずに突っ走ったほうがいい、そんな気持ちで設立準備を続けました。


そして、2020年4月21日。


何とか無事に登記の手続きを完了できたわけですが、1冊目の発売までに半年の遅れが生じてしまいました。



(ちなみに、改訂版の出版の前に、私から著者さんに対して別の新刊本を提案し、制作も進めていました。ところがコロナでいったんストップし、再開して発刊にこぎつけたのは2020年11月末。


ところが、今後は出版と同時に予定されていた著者の1000人規模の講演会がコロナで中止となり、販売計画も大きな修正を余儀なくされてしまいました。この創業ストーリーを執筆している2021年4月現在もコロナによる混乱を引きずっています)

兵庫県から全国に


2020年4月21日に出版社スタブロブックス株式会社を設立し、1年が経とうとしています。この約1年で計3冊の新刊書籍の発刊が実現しました(3冊目は2021年5月末発刊予定)。


1冊目は、私の背中を押してくれた淡路島在住の著者さんの本。

2冊目は、神戸市で個性的な塾を経営する著者さんの本。

3冊目は、明石生まれ、神戸市在住の中小企業診断士の先生の本。


地元の地域資源をテーマとした書籍の発刊はまだ実現していませんが、すべて同じ兵庫県の著者の本です。これから(出版社設立のきっかけになった)改訂版の発刊を控えていますし、地方発本づくりをテーマとした自社企画本の発刊も予定しています。

地方で付加価値を生み出し、地方に利益を還元する


ここで、「地方発本づくりによるビジネスモデルの構想」をお伝えしたいと思います。


地方に眠る宝物のような地域資源を掘り起こし、全国の人たちに伝える受け皿になる。これが地方発本づくりの原点の思いです。これまで光があたってこなかった地域の魅力にフォーカスし、商業出版の本としてふさわしい内容に編集して世に問うていく。


そのうえで当社がこだわっているのは、地方を拠点にしながらも、都市部のリソースを最大限に活用しながら付加価値を生み出すこと。具体的には、出版社の拠点は地方に置きながらも、本の制作に関しては都市部のプロフェッショナルの力を借りること。


地元にもクリエイターはいますが、地元の力だけで制作することにはこだわりません。なぜなら、付加価値を最大化したいからです。本づくりのプロフェッショナルの多くは東京で活躍しています。


奇しくもコロナによって、地方にいながら都市部のプロとつながり、方向性やビジョンを共有しながら本づくりがしやすい環境になりました。


そうして地方を拠点に都市部とつながりながら付加価値(本)を創出し、その生み出した付加価値を都市部をはじめとしたマーケットに提供し、得た利益をふたたび地方に還元する――このビジネスモデル構想を「ローカルシティワーク」と名づけています。



つまり情報発信の受け皿になることだけが地方発本づくりの目的ではありません。地方で生み出した付加価値がマーケットに評価されると本が売れ、利益が生じます。その利益を地方に還元できれば、情報発信の受け皿になるだけでなく、利益面でも地域活性化に貢献できるようになる。


情報活性化と地域活性化の双発のエンジンで地元を元気にしたい――これこそが、兵庫県加東市という地方に出版社を立ちあげた最終目的です。

その一歩を後押しする本づくりを



ちなみに、つくりたい本は「スタブロブックス」という社名にあらわしました。


「スタブロ」の由来は、陸上競技の「スターティングブロック」です。選手はスタブロをけり、一歩を踏み出しゴールをめざします。


このスターティングブロックのように、読者の皆さんの一歩を後押しできるような本をつくっていきたい、そんな思いでスタブロブックスという社名に決めました。


兵庫県加東市というあまり知られていない地方での出版業――今後の活動にぜひ注目してもらえたら幸いです。






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