1位は2,500万円 山田錦コンテストを旭酒造が開催したワケ
2019年産の山田錦を対象に1位に50俵で2500万円という破格の買い取り金額を提示して開催された「最高を超える 山田錦プロジェクト」。
全国の旭酒造と取引のある山田錦生産者から160名のエントリー、45点の出品がありました。
日本酒「獺祭」を製造する旭酒造がなぜこのようなコンテストを主催したのか。
そして華やかな表彰式に臨む前、生産者の皆さんにはどんな動きがあったのか、今回は当プロジェクトの裏側についてお伝えします。
(写真左から特別審査員弘兼憲史氏、旭酒造会長桜井博志、同社長桜井一宏、グランプリ・坂内義信さん、準グランプリ・藤原健治さん、優秀賞・白井勝美さん)
チャレンジが難しい農家の課題
日本国内で作られている酒米の中で最も生産量の多い品種として知られている山田錦。生産量数は約3万4000トン(2018年、農林水産省調べ)で、年々その生産数を増やしています。
一方、自然を相手に地域での連携した共同作業が必要な農業社会は、思い切った新規技術の導入がしづらい環境でもあります。
その上地方は高齢化し、仕事を継ぐ若手人材が不足していることも問題です。
山田錦のみを原料米として獺祭を醸す旭酒造にとっては、山田錦の品質はお酒の出来を大きく左右します。
「昨日より少しでも美味しいお酒を作ること」モットーとしている旭酒造にとっても、山田錦生産がより魅力的な産業になることは文字どおり必要不可欠な事柄でした。
「酒米の王様」として1俵2万~2万5千円程度(通常の米は1万5千円程度)で取引され、その価値は認められている山田錦ですが、現状に甘んじることなく、今の最高を越えてより良い品質を目指すことを生産者さんにもお願いしたいと考えました。
そのためには、ただでさえ通常の米より難しいとされる山田錦の栽培において、リスクを取って挑戦してもらうことが必要です。
ならばその努力に見合うだけの価格で購入させていただき、価値あるものを作っているという自信をしっかりと持っていただきたい、そのためのコンテストを開けばよいと思い立ったのです。
獺祭に使用されている山田錦については実際にお召し上がりいただけます!
詳しくは下記プレスリリースをご覧ください。
衝撃的だった評価基準の高さ、しかし買い取り額は惜しみません
「最高を超える 山田錦プロジェクト」の概要が発表されると、1位に50俵で2,500万円という、通常の25倍もの高値での買い取りが話題となりました。
しかし評価基準を見るとあまりにも厳しい評価基準の高さから「そんな山田錦ができるわけがない」と参加をためらう生産者さんも続出。
旭酒造で製造部長を務める西田も何度も説明と話し合いを重ねました。
波紋を呼んだ始まりでしたが、7月に記者発表とともに生産者さんを招いての「決起集会」を開催。
旭酒造の思いを直接伝え、プロジェクトに賛同された漫画家・弘兼憲史先生からエールも頂きました。
「獺祭で夢を見よう!」と山田錦の栽培歴の浅い生産者さんが名乗りを上げ、さらに若手が親世代とは別にチームを作ってエントリーを開始するなど動きが広がります。
「2,500万円がもらえたら、豪華な車に買い替えて、社員で慰労旅行に行こう!」
「これだけのもんにチャレンジさせてもらえる、全国放送のテレビが何社も取材に来る、そんなことは獺祭さんとじゃなきゃできない、せっかくだからやってみよう!」
稲を田に植え終わるころには、冗談半分だった顔も真剣な目つきに。
これを機に数百万円単位の機械を買い替えたり、肥料の量や種類を変えたりと、取材に行ってみるとそれぞれの地区での工夫を精一杯されていることが分かりました。
日に焼けた顔に、目元に笑い皺をくっきりと刻み、目をキラキラさせて自慢げに田んぼを案内してくださいました。
(案内してくださった岡山県 山雄会の皆さま)
難航した審査と挑戦故の敗退
生産者さんたちの努力は出品されたお米にしっかりと表れていました。
コンテストの審査は予審と決審の2回行われ、いずれも穀粒判別器と社外の審査員の目視が実施されました。
全国から送られた山田錦は45点。黒いカルトンに並べてみると、どれも山田錦としてかなりの出来が良いものが並び審査員を唸らせました。
目視では粒張り、粒ぞろい、心白、被害粒、着色、色沢の6つのチェック項目を設定し、目合わせと呼ばれる審査基準の統一をしてから、完全ブラインドでの厳正な審査を行いました。
審査は難航。特に決審は1時間以上延長して白熱した議論が交わされました。
出品するお米は各生産地で整流、つまり割れたり傷ついてお米の割合を上げるために選別機にかけるのですが、この機械に通常より多くかけたために、せっかくのお米表面の光沢が失われ、評価が低くなったものもありました。
収穫までは自信満々だったものを、選別機にかけすぎて出品を最終段階で見送った生産者さんもいらっしゃいます。それでも、普段とは違った試みが見られたことに感謝しています。
競争ではなく、共創の世界が山田錦プロジェクトにはあった。
結果はグランプリに栃木県の坂内義信さん、準グランプリに兵庫県の藤原健治さん、優秀賞・白井勝美さんも栃木県との生産者さんが選ばれました。
山田錦を栽培してわずか5,6年の栃木県の生産者さんが1位と3位を占め、表彰式会場をざわつかせました。
暖かい気候の西日本での栽培が主流とされていた山田錦ですが、近年は温暖化の影響で栽培エリアが広がり、品質においてもその常識が過去のものであることを示しました。
(グランプリを取られた栃木県の坂内義信さん)
とはいえ、2位の山田錦は厚みがありふっくらとしており、ほかの山田錦とは見た目からタイプが異なることがわかるほど。
実は2019年は特に西日本で天候に恵まれず、山田錦の出来が悪いと考えられていましたが、兵庫県は伝統に胡坐をかかずにこのようなコンテストにも実力を見せつける形となりました。
2020年1月に開催された表彰式の会場では、上位入賞者同士が、互いの生産地へ足を運んで情報交換したいと話し掛ける場面がところどころに見られました。
ふるまわれた獺祭を飲みながら、「賞金は来年さらに良い山田錦を栽培できるよう、設備投資に充てたい」と語った生産者の皆さん。
果敢な挑戦をしてくださったすべての参加者に深く感謝しています。そして私たちはもっとおいしい獺祭を目指して、努力を惜しまないことをお約束いたします。
コンテストを通して日本をもっと元気にしたい
2020年の今年は、さらに整粒歩合と心白率を重視した審査が行われる予定です。
日本の農業の底力を見せてほしい、そしてもっと農業が若い人にとって魅力的な産業になってほしい。
獺祭の夢は、山田錦生産者さんを巻き込んで、さらに大きく広がっていきます。
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