イルカがヒトと泳ぐことを心から楽しめる施設になるために。独自の体験プログラム開発と、アメリカのイルカふれあい施設「Doplhin Recerch Center」との連携までの裏側
「壱岐イルカパーク&リゾート」は、1995年より長崎県壱岐市が運営していた「壱岐イルカパーク」が閉園に追い込まれていたものを再生することを目的に、市と内閣府の国境離島アドバイザーである私、高田佳岳が共同出資した第三セクターにおいて、2019年4月にリニューアルされたイルカふれあい施設です。「壱岐イルカパーク&リゾート」の再生と自走に向けて奔走する中で、体験プログラム開発と、施設の運営体制を新たに構築するために、アメリカフロリダ州のイルカふれあい施設「Dolphin Research Center(DRC)」との連携に至った裏側について、IKI PARK MANAGEMENT代表の高田佳岳がお話させていただきます。
当初、イルカパークのイルカ達は、9m四方ほどで囲われた小さな生簀で飼われ、来場するお客様に魅力となるようなプログラムも数少ないものでした。そもそも、飼われているイルカを可哀想だと思っていたため、安易に「ショー」や「ふれあい体験」を作ることにも、違和感を感じていましたが、私がどうしても実現したかったのは、イルカと自然に一緒に泳ぐ「ドルフィンスイム」でした。
「ドルフィンスイム」は多くの施設で行っているものですが、多くの人がイルカのヒレに掴まり、引っ張ってもらうというイメージがあるのではないかと思います。これは、一見楽しそうで素敵ですが、私はこのスタイルの「ドルフィンスイム」だけは、実施したくありませんでした。その理由は「イルカは本当に楽しいの?」と思っていたからです。
PPトレーナーのサインを受けて、お客さんを引っ張り、できたらご飯をもらうことの繰り返し。夏の繁忙期ともなれば、すごい数のお客さんを引っ張ることになります。果たしてイルカは本当に楽しいのでしょうか。何回見ても、私にはイルカが幸せに見えませんでした。というものの、私も幼い頃に「ドルフィンスイム」をしたことがありました。イルカに引っ張られる感じはなんとも言えない心地よさがあり、とても楽しくて、母に頼み込んで何回もやらせてもらったのを覚えています。
実際に物理的な距離が0になって、「一緒に泳ぐ」感じは本当に楽しく、ワクワクする体験であることは間違いありません。でもどうしても「引っ張らせる」ということが腑に落ちませんでした。この方法以外で「一緒に泳ぐ」ことはできないのでしょうか。私がイメージする「イルカと泳ぐ」というのは学生時代に太平洋のど真ん中でイルカの群れと一緒に泳いだ感覚でした。
私は、学生時代、関東の伊豆諸島にある国境の島・御蔵島に通い詰めていました。この島の周りには野生のイルカの群れが住み着いていて、常時20−30頭のイルカを見ることができます。そこで、小さな小舟に乗って島の周りで群れを探して、群れを見つけたら海に飛び込んでイルカと一緒に泳ぐのです。当然、触ることはできないし、ほとんどの場合泳いでいく様を見るだけで、ヒレに掴まるなんてもってのほかです。
しかし、壱岐と同じくらい透き通った太平洋の海で、たくさんのイルカの群れの中に飛び込んで、悠々と泳ぐイルカを眺めるだけでもなんとも言えない心地良さです。運が良くイルカの機嫌がいい時に当たれば、イルカが近くに寄ってきて自分の周りをぐるぐる回ってくれたりすることもあるのです。イルカの自由な感覚で、遊びたければ遊ぶ。イルカの自然な姿を人は傍から観察する。そして、たまに関わり合いを持つ。このくらいの距離感がとても心地よかったのを覚えています。とは言え、御蔵島の「ドルフィンスイム」も見方を変えれば、人間がいくつもの船でイルカの群れを追い回していると思うと、ここにも考えるべき課題はあるのですが。
しかし、私の思い描く「ドルフィンスイム」とは、御蔵島での体験を再現することでした。御蔵島のようなイルカとの関わり方を壱岐でも実現できないかと悶々と考えますが、イルカパークには何十頭ものイルカも、広大な海もありません。しかし、私が心奪われた「イルカとの出逢い」をなんとしても実現したかったのです。
そこでまず最初に、自分自身でイルカと泳いでみることにしました。当初、イルカパークではトレーナー以外の人がイルカと泳いだことはありませんでした。トレーナー以外の人間に慣れていないイルカは、私が水中に入っていくと距離を取って音波を使った警戒音を発します。私は、全身にイルカの警戒音を感じながら、潜行浮上を繰り返しました。
私は元々フリーダイビングやスピアフィッシングといった、素潜りの競技をやっていて、20数年前は日本のトップクラスにいました。体が馴染んでくると段々と水中にいられる時間が伸びていきます。1分、2分と潜っていくうちに、イルカの警戒音が減っていきます。距離も心なしか近づいてきている感じがします。まさに、この感覚が私が御蔵島で体験した「イルカとの出逢い」でした。結局、人と泳いでこなかったことで、飼育されているイルカであるにもかかわらず、良くも悪くも人に慣れていなかったために、この「自然」な感じが残っていたのです。
そこからはイルカに人間に慣れてもらうことが重要です。人が入るたびに毎回警戒されていては、プログラムにもならないし、イルカもストレスにしかならないでしょう。イルカにとって「人と泳ぐことを楽しめるように」することが、越えなければいけない大きな壁となりました。
まずはトレーナーをはじめ私も含めて、とにかく海に入る回数を増やし、「人と泳ぐこと」に慣れてもらうようにしました。そして、その時になるべく餌を使わないことにしました。餌を使ってコントロールすれば、寄ってくるということをしたいのではなく、イルカ自身の意思で、「人間と泳ぎたい」「人間が水に入ってきたから遊びたい」と思うようになっていって欲しかったのです。しかし、これには中々時間がかかりました。
そんな悩みを抱えているときに出会ったのが、アメリカ・フロリダ州にあるイルカ飼育および研究施設である「Dolphin Research Center(DRC)」でした。
最初に彼らのホームページを見た時には、お客さんがイルカのヒレに掴まって泳いでいる様子がありました。「なんだ結局これか・・・」と思いながら、数ヶ月後に現地に行って研修を受ける機会ができました。そして、2日目に私にこの「ドルフィンスイム」のチャンスが回ってきました。
通常、どこの施設もトレーナーの横にお客さんがいて、そこにイルカを呼んで、お客さんにヒレを掴ませて、トレーナーが泳ぐサインを出します。しかし、このDRCは全く違ったのです。DRCのトレーナーから「手を広げて浮いてみて。一緒に泳ぎたかったら勝手に引っ張るから。」と。言われるがままに手を広げて海に浮かびます。するとイルカがゆっくりと寄ってきて、自分の背鰭を私の手に当ててくるのです。自然に捕まえると、私を引っ張ったまま、勝手に自由に泳ぎ回ります。
そして、飽きたら力強く泳いで振り解くのです。もう何が何だかわかりません。この時、陸上のトレーナーは「いけ!」というサインを出しています。だからコントロールの内側であることは、わかりました。しかし、イルカは自分の好きなタイミングでいけて、好きなタイミングでやめられるのです。人によって距離も時間も違うし、場合によっては手を広げている自分のところにきてもくれないかもしれません。全ての選択権がイルカにあるのです。
そして、その次のプログラムでは自分がイルカと自由に遊ぶ時間になりました。この時にはトレーナーもサインも笛もありません。唯一、魚だけ渡されて、「いいな、と思ったら魚をあげて。このプログラムはイルカのやりたいことを感じて、好きなことをやっていい時間だから」と言われました。まずは触ったり、撫でたり、くるくる回ってみたり。
しかし、陸上から見ているトレーナーが、「泳ぎたいみたいだから水に入って、泳いでみて」と。言われるがままに水に入ってみると、グルグル自分の周りを回り、体を擦りつけてきます。ふと2、3m潜ってみると、潜った私の手の先にイルカの口先が当たるのがわかります。そのまま背鰭を掴んでみると、イルカは私を引っ張ったまま、水中を縦横無尽に泳ぎ始めます。ちょうどいいところに胸鰭があるので、もう片手で胸鰭を掴むと、スピードが上がり、ますます自由に泳ぎ回ります。こちらが苦しくなって、ちょっと手に力を入れると、一気に浮上して、呼吸をさせてくれます。そのまま手を離さずに、もう一回潜ろう、と手に力を入れると、またそのまま潜っていきます。
こんなことを何回も何回も繰り返して遊びます。その間、私は餌を与えていません。要は、餌ではなく「人と泳ぐこと」「人を引っ張ること」が楽しくて、やっていたのです。
DRCには、私の考える理想的なイルカとの関わりが実現するトレーナーの皆さんのマインドセットや、運営体制が出来上がっていました。この時に知ったのが、DRCでは、餌に頼らないトレーニング手法である「Relation Based Training」という、ヒトとイルカの信頼関係構築を基本とした飼育を実践してたということです。通常、日本のどこのイルカ飼育施設でも、イルカに触れる、イルカと泳ぐなどの体験プログラムは、トレーナーの指示とその後にもらえる餌があって初めて成り立つものです。
しかし、DRCでは、時折トレーニングの指示や餌をあげることももちろんありますが、毎回餌などなくても、イルカが好きなときにヒトに近寄り、一緒に泳ぎ、ジャンプをしたり、歌を歌ったりしていました。私はこれまで東京水産大学や、東京大学海洋研究所などで海洋学に携わってきたのですが、イルカたちが「心から楽しんでいる」ことが見て感じ取れる施設と出会ったのは、初めてのことでした。また、DRCでは、毎日のイルカの健康管理が徹底され、日本国内飼育下では、最高年齢が推定49歳とされる中、60歳を超えても元気に飛び回るイルカたちが過ごしていました。
DRCに初めて訪れた時の衝撃は本当に忘れられません。そんな衝撃的な出会いから、DRCの取り組みや研究を、「壱岐イルカパーク&リゾート」でも実践したいと考え、DRCの創業者に直談判を申し込みます。何度も話し合いを重ねるうちに熱意が通じ、日本で初めてDRCとの協働を開始できることになりました。後から聞いた話では、以前にも同様の相談はあったそうなのですが、日本では未だに捕鯨を続けている文化があることもあり、断ってきたそうです。
コロナの影響により、人材の行き来は難しいものの、2021年4月より、オンラインベースでトレーニングや健康管理方法、人工授精などの技術提携を本格的にスタートしました。DRCに訪れてからというもの、イルカたちも、イルカトレーナーたちもどんどん変わり、イルカとヒトの笑い声が絶えない施設へと変わりつつあります。この変化をさらに良い方向に伸ばしていき、日本で唯一無二の飼育施設に、そして最もイルカと距離が近い施設となるために、今後もトレーナー、スタッフ一丸となって取り組んでいきます。
壱岐イルカパーク&リゾートとは
1995年、長崎県壱岐市が市営でイルカの保護を目的に創業。創業以来、市営にて運営し、至近距離でイルカとふれあえる施設として、年間約2万人程の島内島外の来場者が訪れてきました。2018年11月、長崎県壱岐市と内閣府の国境離島アドバイザーである高田佳岳が共同出資し、「IKI PARK MANAGEMENT 株式会社」を設立。2019年4月25日(木)にリニューアルオープンを迎えました。また、2020年には、アメリカフロリダ州にあるドルフィンリサーチセンター(DRC)と世界で初めて施設としての飼育技術提携を行いました。DRCが提唱する“Relationship Based Training”を取り入れ、ヒトとイルカの信頼関係構築を基礎とした飼育を実践し、日本国内への技術普及を推進しています。
IKI PARK MANAGEMENT株式会社について
長崎県壱岐市と内閣府の国境離島アドバイザーである高田佳岳が共同出資し、2018年11月に設立。壱岐市内の公営遊休施設をファシリティマネジメントにより有効活用し、官民連携で潜在的な資源を磨き上げ、観光交流人口の拡大や、観光消費の拡大により、島の経済浮揚を牽引することを目的としています。その第一歩として、壱岐イルカパークのリニューアルに加え、バーベキュー、マリンアクティビティ事業、キャンプサービスなど島の自然を活かしたアウトドアやレジャーを軸に展開しています。
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