人々に美を届ける「架け橋」へ。工場・物流・コンシューマーセンター・見学コースの4機能を持つ「新サプライチェーン拠点」の誕生秘話
資生堂は、2030年にスキンビューティー領域における世界No.1の企業を目指しています。その取り組みの一環として、日本の匠のものづくりの価値や、長年研究を積み重ねている当社の強みでもあるスキンケアを通じて人々が追求する美についてこれまでよりもさらにリードするため、このたび、大阪府茨木市に新たなサプライチェーン拠点を始動させました。
この拠点は、工場・物流・コンシューマーセンター・見学コースの4つの機能を持ちます。2020年12月には、当社におけるプレステージ領域のスキンケア製品を持続的にグローバル展開する目的として「大阪茨木工場」と「西日本物流センター」を新設。生産と物流を一気通貫させるという、資生堂では初の試みです。そして、工場内にはお客さまから寄せられたご相談・ご要望などをものづくりへとフィードバックする部門である「コンシューマーセンター」と、一般の方に見学いただける「SHISEIDO BEAUTY SITE」を併設しています。
この新拠点が目指すのは、より質の高い美を世界中の人々に持続的に提供するしくみです。新拠点設立のプロジェクトをどんな思いで進め、実際にどんな取り組みを行っているのか。大阪茨木工場 工場長の中島亮平、西日本物流センター長の井上 諭、大阪茨木工場 管理部 渉外総務グループの金沢章子に、話を聞きました。
より高品質な美をお届けするサステナブルな新拠点を目指して
—「新サプライチェーン拠点」設立の背景や思いを教えてください。
中島:このプロジェクトは、2016年3月に「100年先の未来を見据えて、資生堂の高品質なものづくりを発信する拠点を作る」というビジョンを掲げ、スタートしました。ただ一言で100年先と言ってもあまりに壮大で、正直なところ現場はなかなか飲み込みづらい部分もありました。そこで現場の若い社員の意識と足並みを揃え、チーム1人ひとりがしっかりと「自分ごとに取り組んでもらう」ために、「ブリッジプロジェクト」というプロジェクトを始動しました。これまで出来なかったことを実現するため、そして現場が一丸となり自分たちが主役となって、さまざまなモノやコトを繋ぎ合わせて、ありたい姿を実現するという思いから「架け橋」という意味の「ブリッジ」をプロジェクト名にしました。自分たちの生産プロセスに新しい技術を導入することも架け橋ですし、新しい生産拠点である大阪茨木の地から世界に製品をお届けすることも架け橋です。
そしてこのプロジェクトにおいて絶対的に欠いてはいけないものとして「地域社会との共存共栄」「高品質」「PEOPLE FIRST」の3つコンセプトを設定しました。
大阪茨木工場 工場長 中島亮平
—1つ目のコンセプトである「地域社会との共存共栄」について、大きな工場を設営するということで地域のみなさまとの信頼関係はどのように構築されたのでしょうか。
中島:プロジェクトを始動するにあたり自治体へのご挨拶に行ったところ、建設的な意見をいただけた一方で、やはり反対意見も多くありました。その反応を見て、少しでも早いタイミングで地域のみなさまへの説明会をしよう、ということになりました。説明会を重ねて行い、地域のみなさまの率直な意見をお伺いし、設計に反映できるように努めました。プロジェクトをよりよい形で持続可能なものにするためには、周辺への押し付けの上では当然、成り立ちません。地域のみなさまとの信頼関係構築が必要不可欠です。私たちと地域のみなさまがお互いにわかり合えるまで、何度も議論しました。そして浮かび上がってくる1つひとつの課題について、私たちの計画をオープンにして、地域のみなさまへ丁寧にお伝えしました。地下水を有効利用する計画についても話し合いを重ね、双方がよい形で進めることとなりました。理解を得ながら課題を解決し、おかげさまで現在では、「この街に資生堂の拠点があることが誇りだよ」とおっしゃっていただけたり、「地元の祭りで神輿を担いで」などと誘っていただけたりするまでになりました(笑)。長い時間をかけて地域のみなさまとは関係性を構築してきましたし、これからもそれは変わらずに続けていきます。
—建物自体も環境に配慮したサステナブルな設計になっているとのことですね。
中島:環境配慮という点で重視したのは、まず建物自体の構造です。熱が外に出にくく中に入りづらい魔法瓶のような構造となっており、気密性に優れていて熱効率が高いので、必要以上に空調を稼働させることなく、CO2の排出量が圧倒的に少なくなっています。同規模の工場と比較すると、CO2換算で30%削減できているというデータがあります。また、建築工程においても廃棄物を極力出さないようにするなどにも配慮し、埋め立て廃棄ゼロを達成しました。建築物の環境性能を評価する基準である「CASBEE(キャスビー、建築環境統合性能評価システム)」において、Aランクの評価を取得しています。さまざまな工程があり、廃棄や騒音を免れることが難しいこの規模の工場においてAランクを取得できるのは、非常に珍しい例だそうです。
「PEOPLE FIRST」がすべてのクオリティーにつながる
—2つめのコンセプトである「高品質」は、具体的にどのようなことですか。
中島:高品質は、私たちにとって譲れないこと、実現しなければならないことです。まずは、生産エリアを国際規格ISO22716(化粧品GMP)に準拠した建屋構造を設計し、医薬品レベルの空気清浄度とすることで、クリーンな⽣産環境を実現しました。また、ユニフォームについても、中味が曝露するエリアについては、人に付着した微細なものを持ち込まないよう2回着替える二次更衣を行い、粉塵等を持ち込まない徹底したゾーニング(クリーンエリアの区域分け)を実現しています。
また、厳しい品質基準と徹底した品質管理に関しては、カメラ技術を駆使し人の目で判断できないキズを感知すると同時に人による品質チェックを行うなど、最新のIoT技術と当社が生産現場で長い間培ってきた経験値を活かした匠な技術を融合することにより、不良品を後の工程に流さない仕組みを構築しました。
クリーンな環境で高品質なスキンケア製品を生産
—「IoT×人」だからこそ、高品質が成せるということですね。資生堂が企業として大事にしている「PEOPLE FIRST」の部分では、具体的にはどんなアクションをされているのでしょう。
中島:工場運営においても人は最も重要です。まずは、職場環境への取り組みです。以前、社長の魚谷さんが国内工場を訪問した際のディスカッションで、若手社員より「より資生堂らしい工場にしたい」という意見が出ました。それがきっかけとなり、食堂、トイレ、シャワールーム、パウダールーム、休憩室など、工場で働く従業員がワクワクし、業務と休憩時間のオン・オフのスイッチが切り替えられるような環境作りや、福利厚生施設の充実など、今までの工場のイメージを刷新する取り組みを行いました。
さらに、「人に優しい現場」を目指しました。例えば、中味を製造するエリアでは、原料を溶かしたり、熱湯を使用するプロセスを大幅に改善して、涼しい製造エリアの実現や、床をドライに保つことで、長靴を履かなくとも普通の靴で動きやすく作業できる環境にしました。また、化粧品を生産するために必要な材料が、必要な数量、タイミングで、作業する人のもとに自動搬送される「Just In Timeシステム」を導入し、人がモノを運ぶ重労働を軽減しました。これにより現場で働く従業員のみなさんが安心して働ける、安全な職場となって、高品質な製品をお客さまにお届けし続ける環境が実現できたと思います。
開放的な食堂
—「西日本物流センター」の新設備「GP3」システムもその1つでしょうか。
井上:はい。このシステムが物流センターにおいて「PEOPLE FIRST」をもっとも体現している部分だと思います。物流は、一般的に仕事がきついイメージがあるので、従業員を集めるのが難しい業界です。例えば、以前の物流センターでは製品を集めるために、100kg近い重量のカートを押しながら800mほどの距離を1日に何周もまわる体力が必要な作業でした。誰もが働きたいと思っていただくことが難しい環境だったと思います。こうしたマイナスイメージを払拭し、年齢や性別を問わず、多くの方が働きやすい環境を設計することで、従業員を集めることが出来ると考えました。そのために導入したのが「GP3」というシステムです。簡単に説明すると、作業をする人もとに製品が届く「歩行レス」のシステムです。その他にもパレットへケースを自動で積んだり、降ろしたりするロボットを導入するなど、自動化を積極的に図りました。その結果、効率化が実現し、以前別の物流センターでも働いていた従業員からは「ものすごく仕事が楽になった」というコメントも頂けました。
西日本物流センター長 井上 諭
—GP3の導入は、世界初なのですね。
井上:GP3を構成するマルチシャトルという設備を導入した事例はあります。GP3内に出荷に使用する段ボールを取り込むことや、2フロアを立体的に使い作業のステーション数を増やす設計が資生堂オリジナルであり、世界初と言われる部分です。以前の物流センターでは、製品を集める作業と出荷の段ボールへ梱包する作業が分かれていました。GP3は、製品と一緒に出荷用の段ボールをピッキングステーションに自動供給することで、ピッキング、梱包、荷札のラベリングまでを同じステーションで完結できるシステムにしています。私たちはGP3導入を前提に倉庫を設計していますので、床をなくし2フロア(二層構造)でGP3を使用することによるスペースの有効活用も達成できました。
—大阪茨木工場では、生産と物流が一気通貫していますよね。それも資生堂で初めての試みということですが。
井上:プロジェクトの発足当時は、生産と物流が同居するプランではありませんでした。それぞれが能力を高めることをお互いが模索していました。しかし関西エリア圏に新しい大きな物流拠点をおかないとこれから先の物流が立ち行かなくなるというタイミングと、大阪茨木工場の設立が同じスピード感、スケジュール感で動いたことから一気通貫させるしくみづくりに発展しました。こうしたことから、ここ大阪茨木工場は、資生堂で初めて物流機能を併設した工場となったのです。
—その結果、どのような効果が得られましたか。
井上:物流機能を併設しベルトコンベアでつながることで、従業員が手を動かさずに荷物を受け取れ効率化が生まれました。これも「PEOPLE FIRST」であり、供給スピードと作業効率のアップ、さらには、輸送コストの削減、輸送時にかかる CO2削減効果など、さまざまな点でプラスの効果を生み出していると言えます。
これからの資生堂を支えるものづくり・物流文化をつくっていきたい
—工場にはコンシューマーセンターも設置しているのですね。
金沢:コンシューマーセンターは、お客さまから寄せられたご相談・ご要望などを製品開発などに活かす取り組みを管轄する部門として東京に設置されています。この分室を新拠点にも設け、大阪の地でもお客さまの声を直にお聞きし、その声を製品開発や改善に反映しています。私の業務は見学コースのアテンドがメインであり、コンシューマーセンターが併設されていることで、お客さまのご意見をより近くに感じられ、業務にも活かせると実感しています。
大阪茨木工場 管理部 渉外総務グループ 金沢章子
—今後はお客さまの見学も可能になるということですが、どういった内容なのでしょうか。
金沢:お客さま向けの見学施設である迎接棟「SHISEIDO BEAUTY SITE」は、2022年以降に見学受付をスタートする予定です。資生堂の安全・安心、高品質のものづくりを体感していただく場所になることはもちろん、より資生堂に興味を持ち、ファンになっていただけたら嬉しいです。大阪茨木工場の見学コースのコンセプトは、「The journey to beauty(美の旅)」です。「SHISEIDO BEAUTY SITE 」が1つの街のようになっていて、資生堂の歴史や製品を展示したミュージアム、フレグランスづくりなどが体験できるワークショップスクール、五感を使って化粧品の品質検査を体験できるラボ、製品を実際にお試しいただけるマルシェといった、さまざまなコンテンツを用意しています。年齢・性別問わず多くの方に美に対するさまざまな発見をしていただき、小・中学生の方には学校の授業では学べないような新しい体験をしていただけたらと思います。今のコロナ禍が落ち着いた際にはイベントや楽しい企画を用意して、地域のみなさまとの交流活動にもつなげられたらと思っています。
生産工程を見ることができる見学コース
—最後に、みなさまの未来に向けた思いをお聞かせください。
中島:建築や行政交渉などの現場に関することについては、工場長である私やプロジェクトに任せていただき推進できました。これも多くの方のサポートがあったからこそだと思っています。私がそうしてもらってきたように、この新しい工場で働く従業員や、これからを担う若い社員がチャレンジすることを全力でサポートしていきたいと思っています。そして、工場で働く従業員が誇りを持って仕事してこそ、いいものづくりができ、世界中の人々に高品質な製品をお届けできると思っています。その積み重ねが、「100年先の未来を見据えて、資生堂の高品質なものづくりを発信する拠点」につながると、信じています。また、近隣・行政との共存共栄の姿勢を、今後も継続していきたいです。
井上:従業員が気持ち良く働けること。そしてここ大阪茨木の地に「次の100年の資生堂の物流文化をつくっていく拠点」があることを、この物流センターに携わる多くの方が誇りに思えるようにしていきたいです。そのためには需要が増えても従業員の負担を増やすのではなく、より最先端のテクノロジーを導入すること、また、ここで得た知見をほかの施設にもつなげていくことが私たちの使命だと考えています。
金沢:アテンド業務はお客さまと接することが多い立場だからこそ、お客さまから多くの声を聞き、魅力的な見学コースになるよう、常にアップデートし続けていきたいです。
お客さまにとって、この「SHISEIDO BEAUTY SITE」で過ごす時間が特別なものになることを願っています。
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