高校生でも人工衛星を飛ばせる-人工衛星の開発・運用にチャレンジする「宇宙教育プロジェクト」発足の裏側
君よ、〝宇宙に〟大志を抱け-。クラーク記念国際高等学校は、高校生が人工衛星の開発・運用にチャレンジするという前代未聞のプロジェクトを立ち上げました。高校として人工衛星や宇宙に取り組むのはなぜか。プロジェクト担当者である業務推進部広報課課長の成田康介とプロジェクトに参加している生徒から、プロジェクト発足の裏側を聞きました。
写真=2021年7月1日に行われたクラーク記念国際高等学校の「宇宙教育プロジェクト」記者会見。左から鈴木梨々子さん(クラーク記念国際高3年)、山崎直子さん(宇宙飛行士)、山根充輝さん(クラーク記念国際高1年)、中須賀真一さん(東京大学大学院工学研究科教授)、甘露寺さくらさん(クラーク記念国際高2年)、永崎将利さん(Space BD株式会社表取締役社長)、鈴木海仁さん(クラーク記念国際高2年)
クラーク記念国際高等学校は1992年に開校した日本最大の通信制高校。日本とオーストラリアに50カ所以上の拠点があり、約1万人の生徒が学んでいます。通信制でありながら学校に通う頻度を選択でき、多くの生徒が制服を着て週5日登校しています。 モットーは「夢・挑戦・達成」。教科学習だけでなく、一人ひとりが興味のある分野を学べるのが特長です。総合進学コースやインターナショナルコースのほか、パフォーマンス、eスポーツ、ロボティクス、食物栄養、美術デザインなど多彩なコースや専攻があり、生徒たちは好きな勉強にとことん打ち込んでいます。
「高校生でも人工衛星を飛ばせる」
今年、開校30周年記念事業の一環として「宇宙教育プロジェクト」がスタート。発端は、小惑星探査機「はやぶさ2」の帰還というニュースでした。2020年12月、はやぶさ2が地球に帰還して小惑星リュウグウで取得したサンプルを分離し、その後また新たな宇宙の旅へと飛び立つ-。そのニュースを見て、クラーク記念国際高を運営する学校法人創志学園の専務執行役員である増田は胸を躍らせました。
「宇宙こそが、今の時代にもっとも多くの人をワクワクさせる題材だ」
そう直感した増田は、クラーク記念国際高の業務推進部広報課課長の成田に「学校教育に宇宙という題材を取り入れ、クラーク国際生が夢中になって取り組むことで社会全体を明るくできないだろうか」と持ちかけました。
「クラーク国際は通信制高校のパイオニアであり、校長の三浦雄一郎がエベレスト世界最高齢登頂記録を達成したり、野球部が創部わずか3年で夏の甲子園大会に出場を果たすなど、これまでにさまざまな明るい話題を世の中に発信してきました。常に新しいことに挑戦してきた学校だからこそ、コロナ禍で暗くなっている日本全体を明るくしたいと私自身も考えていましたので、〝宇宙+教育〟という増田の発想に私も大きな可能性を感じました」と、成田は振り返ります。
壮大なプロジェクトに学校として踏み出す決定打となったのは、増田が知人を介して知り合った宇宙飛行士の山崎直子さんのアドバイスでした。
「高校生でも人工衛星を飛ばせますよ」
めざすは、高校生たちによる人工衛星の開発と運用。小型人工衛星開発の第一人者である東京大学大学院工学研究科の中須賀真一教授の指導、宇宙における総合的なサービスを提供する宇宙商社®︎Space BD株式会社の支援も決まり、山崎直子さんをプロジェクトアンバサダーに迎えて、宇宙教育プロジェクトは動き出しました。
写真=宇宙教育プロジェクトについて語る業務推進部広報課課長の成田康介
宇宙の環境問題に取り組みたい
中須賀教授から宇宙について特別授業を受ける中で、生徒たちが強い関心を持ったのはスペースデブリ(宇宙ゴミ)の問題でした。使用済み、または故障してしまった人工衛星やロケットの破片はスペースデブリとして軌道上を浮遊し続けます。スペースデブリが人工衛星などの危機に衝突すると故障につながるほか、人類の宇宙進出計画にも大きな妨げとなります。また、地球に落下して人的被害や建物の損傷をもたらすこともあります。
「こうした宇宙の環境問題に取り組みたいと生徒たちは考えています。生徒たちが考えたミッションは今後正式に発表される予定です」(成田)
生徒主体の記者会見。その舞台裏とは
クラーク記念国際高校ではほとんどの年間行事を生徒が主体となって行いますが、今年7月1日に行われた宇宙教育プロジェクトを発表する記者会見の司会進行も生徒たちによるもの。国内外に広く自分たちの取り組みを伝えるため、生徒たちは2週間前から練習を重ねて会見に臨みました。
記者会見には多くの報道陣が集まるし、クラーク記念国際高校の全キャンパスにもオンラインで配信される-。英語が得意なことを評価され、会見では日本語と英語の両方を使ったスピーチを任されていた2年生の甘露寺さくらさんは、プレッシャーに押しつぶされそうになったといいます。
「怖くなってしまって、お弁当ものどを通らなかったです」(甘露寺さん)
台本を何度も読みこんで一生懸命練習してきたが、直前のリハーサルではどうしても言葉が出てこなかった。苦しむ甘露寺さんに声をかけたのは、記者会見で司会を務める3年生の鈴木梨々子さんと、1年生の山根充輝さんだった。
「さくらちゃんなら大丈夫だよ」(鈴木さん)
「大丈夫です。ちゃんとフォローします」(山根さん)
そのときのことを甘露寺さんはこう振り返る。
「梨々子先輩はいつも励ましてくれるし、山根くんは1年生なのにすごく頼もしいなと思った。うれしかったです」
緊張で頭は真っ白。それでも友人たちに励まされ、会見本番、甘露寺さんは次のように力強くスピーチした。
「私たちはこのプロジェクトを通して一人でも多くの人に楽しんでもらいたいのです。昨今パンデミックで気持ちが落ち込む状況が続いていますが、私たちが打ち上げる人工衛星のように人々の心を盛り上げたいです」
写真=記者会見に臨む甘露寺さくらさん(クラーク記念国際高2年)
子どもの頃から天体望遠鏡で星を見ることが大好きだったという甘露寺さん。もともと人前で話すことはあまり得意ではなかったが、今回の記者会見のように、宇宙という大きな夢に挑戦する姿を広く発信していく経験を将来につなげたいと考えています。
「海外には、聞く人のモチベーションを高めるためのスピーチをする〝モチベーショナルスピーカー〟という仕事があります。宇宙教育プロジェクトでの経験を生かして、夢に向かってがんばる人の背中を押すようなモチベーショナルスピーカーをめざしたいです」
記者会見には、宇宙飛行士の山崎直子さん、東京大学大学院工学研究科の中須賀真一教授、Space BD株式会社の永崎将利代表取締役社長ら、プロジェクトの外部協力者も登壇。のちに山崎直子さんは、「生徒さんたちが自ら司会をしたり発表したりして、自分たちの手ですばらしい会見をつくりあげていることに感動しました」と生徒たちに感想を伝えました。
登壇者全員が着用したおそろいの青いジャケットにもストーリーがある、と成田は話します。「宇宙をイメージさせるものが重要だと思って、青いジャケットを探して買いそろえました。胸には、クラーク宇宙教育プロジェクトのロゴワッペンを生徒たちが一つひとつ縫いつけました。みんなの想いがつまった手づくりのジャケットなんです」
写真=記者会見で着用した青いジャケット。生徒の手で一つひとつ宇宙教育プロジェクトのロゴワッペンが縫いつけられた
数十年後、宇宙で暮らす未来に向けて
宇宙教育プロジェクトについて、「高校生が人工衛星を飛ばして終わりではない」と成田は強調します。
「いまは宇宙に強い関心をもっている有志の生徒たちが部活動として人工衛星の開発や、プロジェクトの広報活動を行っているが、次の段階としてはこの経験値を生かし、クラーク国際の全生徒が受けられる宇宙をテーマにした探究学習プログラムを開発したい。クラーク国際生が小学生に宇宙のおもしろさを伝えるフォーラムも開催したいですね」
NASAは、2024年に月に人類を送る「アルテミス計画」を進めています。その後、ゲートウェイと呼ばれる中継地点を整備することによって、人類は近い将来、月や火星で生活できるようになるといい、2050年には100万人が火星に移住する計画もあります。そんな未来を前に、成田課長は究極のビジョンを語ってくれました。
「20年後、30年後、40年後、実際に宇宙へ行く生徒もいるかもしれない。さらに、人類が宇宙で暮らすということは、生活に必要なものをすべて宇宙空間で調達しないといけないということ。あらゆる職業が宇宙空間で必要になってきます。そうした意味でも、将来何らかの形で宇宙に関わる生徒は多いと思います。いまからいろいろな知識を吸収して、宇宙関連のなかでも自分はどういう分野に関わりたいのか、どんなことで貢献したいのか考えてほしい」
未来は星のように輝き、高校生たちの挑戦を待っています。
今後のプロジェクトの予定については、随時プレスリリースや、特設サイトよりご報告させていただきます。
宇宙教育プロジェクト 特設サイト:https://sp.clark.ed.jp/space/
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