アートの力で街づくり。反対を押し切る形での初開催から3回目を迎える「TENNOZ ART FESTIVAL」の歩みと挑戦
(左)アーティスト KINJO氏
(右)一般社団法人天王洲・キャナルサイド活性化協会 事務局長 和田本 聡
品川区の天王洲アイルを舞台に2019年より開催している日本文化醸成イベント「TENNOZ ART FESTIVAL 2021」が、2022年3月1日(火)〜3月31日(木)の約1カ月間、開催されます。
本イベントは本来、2021年12月に開催を予定していたものの、コロナの影響により日程を変更。年内の開催は叶いませんでしたが、2022年春に改めて実施することが決まりました。
今や「アートの島=天王洲アイル」を象徴するように、建物の壁面に描かれた大型のウォールアートなど数々のアート作品が街を彩ります。これまでの活動実績が認められ、天王洲は屋外広告特別地区にも認定されています。
「TENNOZ ART FESTIVAL 2021」では、これまでの「アートフェスティバル」から継続して展示している作品に加え、立体作品を含め、新たに6作品を新設。プロジェクトを推進した天王洲・キャナルサイド活性化協会 事務局長の和田本聡さんが、今回の開催目的やその裏側を語ります。
また、今回の参加アーティストのひとりであるKINJO氏にも、今回の「TENNOZ ART FESTIVAL 2021」参加に寄せる思いや、今回の作品のテーマなどを伺いました。
街づくりの一環として、壁面をキャンバスに
<TENNOZ ART FESTIVAL 2019>
“The Shamisen” Shinagawa 2019 / ARYZ photo by Shin Hamada
ーー「TENNOZ ART FESTIVAL」は今回で3回目の開催となります。キャナルサイド活性化協会の活動のなかで本イベントは、どのような位置付けなのでしょうか?
和田本:現在、「キャナルフェス」と「アートモーメント」、そして「アートフェスティバル」の3つが我々、天王洲キャナルサイド活性化協会の活動の柱です。
それぞれ役割が異なり、例えば、キャナルフェスはいわゆるお祭りのことで、多くの方に週末に天王洲へ足を運んでいただくことが目的です。アートモーメントは運河上のステージでのパフォーマンスがメインのイベントなので、配信を見て楽しんでいただいたり、実際に足を運んでいただいたりして、天王洲の街を知ってもらうことを目的に考えています。
そして「アートフェスティバル」は、好きなタイミングに来て、好きなように楽しんでもらう役割を担っています。瞬間的なイベントもあれば、作品が残ることで長期間続いていくようなイベントもあり、その両輪のうちのひとつがアートフェスティバルという形だと考えています。
ーー大型の壁面アートが印象的ですが、どんな経緯で建物の壁をキャンバスとして利用することになったのでしょうか?
和田本:以前、別のイベントのなかで壁に絵を描くパフォーマンスがあり、そのとき完成した作品に大きな衝撃を受けたんです。ただ、せっかく描いてもらったその作品は保存ができなかった。屋外広告物という条例があり、アートであっても広告物という扱いを受けるため、勝手に絵を描き、保存することは禁じられていることをそのときに初めて知りました。
でも、天王洲アイルはアートの力を借りて街づくりを行ってきたので、どうにかして絵を残したいと思い、何度も行政と交渉を重ねました。そのなかで、東京都屋外広告物審議会に街づくりの一環として継続していきたいと説明し、天王洲アイルでの開催を特別に許可していただきました。
ーーこれまでの積み重ねがあったからこそ、今の状態を実現できたのですね。
和田本:条例の範囲内で壁面に絵を描くだけなら、実際にはどこでもできると思います。ただ、天王洲アイルは街に住む皆さんと合意形成を行いながら、アートを活かした街づくりを続けてきた背景がある。そうした活動の積み上げがあったからこそ、天王洲アイルでは規格外の大きな絵を描けているのかなと思います。
積極的な働きかけにより、アートを受け入れる素地ができてきた
ーー2019年、2020年と回を重ねてこられた変遷を教えてください。
和田本:初開催である2019年は正直、街の関係者からはあまりいい顔をされなかったですね。ただそこを押し切る形で開催しました。
しかし実際に壁面の作品が完成して街に人が来ると、悪いものではないよねという認識に少しずつ変わっていきましたね。2020年の開催時には、天王洲アイルの関係者の方々の意識がシフトし始めたのを実感できました。
<TENNOZ ART FESTIVAL 2020>
See a Song / Keeenue photo by Shin Hamada
ーー2019年には合意形成、2020年には開催への理解が深まってと、ひとつずつステップを進めてきたんですね。
和田本:そもそも最初は、どこの地権者さんから許可をいただけるかが非常に難しいポイントでした。ただ今は皆さんがアートに対して前向きになっていることもあり、ありがたいことに描いていいよと声を掛けてくださる方が多くいらっしゃいます。
ですので次のステップとしては、どんな作家さんを選んで、どんな作品を描いてもらうか、中身が重要になってきていると感じています。
ーー今回、アーティストはどのような形で選定されたのでしょうか?
和田本:実行委員会という形で地域の方に参加していただいてはいるものの、あらかじめ我々の方で何人かアーティストさんを絞り、その上で皆さんに決めていただいています。
このような形を取ったのは今回が初めてで。今までは掲載場所を決めるのに数カ月交渉して、オーナーさんに駄目だと言われたら改めて場所を探す必要がありました。要は、地域の合意ではなく、オーナーさんが決めている形になっていたんですね。
今は、活動を続けてきたこともあってか、実行委員会で選んだ作品ならいいですよと言っていただけるようになってきています。アートフェスティバルそのものが定着してきているので、皆さんで作り上げている一体感を醸成するために、決める過程の部分に参加していただけたのは大きな変化ですね。
ーー「TENNOZ ART FESTIVAL 2021」のテーマはなんですか?
和田本:アートの幅を広げていくことがテーマです。新設する6つの作品のうち、3つが立体で、1つが壁画という構成になっています。
ーー今回は、2月28日に実施するセレモニーを初めて一般の方にも向けてライブ配信されるそうですね。
和田本:来てくださいと呼びかけるには難しい時期なので、とにかく知っていただくきっかけになればと考えています。作品自体は長期間で掲載しているので、アーティストの思いを知って、興味を持って、好きなタイミングで見に来ていただければと思います。
ーーひとつの街として、天王洲アイルの理想のあり方について教えてください
和田本:現在は「WHAT MUSEUM」や「TERRADA ART COMPLEX」などの美術館やギャラリーがあったりして、街全体がアートという部分に対して特色のある街になってきています。
ですので、今までアートに触れたことがない方にも、アートを楽しんでいただける街になっていったら嬉しいですね。天王洲アイルという街そのものを面白いと思っていただく機会にもなりますし、それがひいては世界からも「天王洲でアートを見よう」と考えるきっかけにも繋がるのではないかと思っています。
~アーティストインタビュー KINJO氏~
感情や環境によって受け取り方が変わるのを楽しんでもらいたい
KINJO
スケートボーダーであり、ペインティングを制作するアーティスト。「暗闇に光る目」「色とりどりの毒蛇」など、カウンターカルチャーに多く用いられる怪しげな記号をモチーフにペインティングを描く。刺激的なモチーフは、しかし描いては消すなどの往復の作業のなかでアウトラインや色面が薄ぼけて曖昧となり、そして作家自身のポートレイトのように愛嬌のある姿で、「個人的な存在」に変容する。
ーー今回、大きな壁画をキャンバスに描かれるのは初めてだそうですね。普段の制作スタイルや作品のテーマ、コンセプトを教えてください。
KINJO:普段は絵画作品を軸に、彫刻や映像、インスタレーションなどを制作しています。
テーマやコンセプトは特に決めていません。普段考えていたり影響されていたりすることって、日々変わっていくのが普通だなと考えているので、そのときの考えを作品に反映していることが多いです。
ーー「TENNOZ ART FESTIVAL 2021」への参加のお話が来たとき、素直にどう思いましたか?
KINJO:野外でこれほど大きな面積のものに対して何かを描くこと自体が初めてなので、不安が半分、ちょっと楽しそうという気持ちが半分でした。キャンバスやパネルに描くことはあったのですが、建築物に使われている素材の上に描いた経験がないので、その点は結構不安でしたね。
ーー実際に制作を始めてみて、気持ちの変化などはありましたか?
KINJO:元々、制作時には慣れないように作ったり、描いたりというのを大事にしているのですが、サイズも描く場所も初めてなので、試行錯誤しないと普段意識している感覚がわからないと感じることはありましたね。
例えば、色を塗るにしても慣れると作業になってしまう。無意識で引いた線があまりよくなかったということも起こります。なので、自分のなかで慣れというのはできるだけなくしていきたいんです。
ただ、制作を進めていくにつれて理解もできてきて、きついけど楽しい感覚になっていきました。
ーー今回はどのようなテーマで作品制作を進めたのでしょうか。
KINJO:天王洲アイルは、水辺が近くて、飛行機も近くを飛んでいるし、自宅とアトリエがある荒川の景色に似ているんですよね。ただ、アートが街のなかにたくさんありますし、目的があって見に来る人がいたり、目的なしに歩いている人がいたり、さまざまな視線がある街だと思っています。
今回も存在として目だけを書くということをしているんですけど、やっぱり目だけだと見る人によって印象が変わる。描いている壁画は外にあるので、意識しなくてもその付近を通ると視界に入ってきますよね。今回は天王洲の街にも合うように、なるべくポップというか明るい印象になるように、心がけながら描いています。きっと、見る人のそのときの感情や環境によって、そこに描かれた目を見たときの印象が変わるんじゃないかなと思っているので、ぜひその変化を感じて楽しんでもらえたら。
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