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【持続可能な観光地経営をデザインするvol.1】ボランティアでの現場体験から使命感へ

著者: NOFATE株式会社

「観光」「エンターテイメント」「商い」を通じて、地域の未来を住民と共に創り、支えていく会社『NOFATE株式会社』。2017年から携わっている白川郷の「冬のライトアップイベント」では、新しい切り口で問題を解決に導いたことで評価され、2019年「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー」の地方創生大賞を受賞しました。

代表・藤田は、これまでにも多くの地域に携わり、ほかにも多くの地域がある中で、なぜ縁もゆかりもない白川郷に情熱を注げたのか。オーバーツーリズムをどう改善していったのか。課題解決へ向けた取り組み、どのように改革を実行したのか、どのような葛藤や摩擦があったのかなど、赤裸々にそして参考になるような内容で連載していきます。



  目次

  1. 不満げな顔の観光客。本当に、これで良いのか?
  2. 観光客誘致のイベントを負担に感じている住民。本当に、これで良いのか?
  3. 旅行を手配する側からお客様を迎え入れる側に!NOFATEが目指すこと。


みなさん、はじめまして!

NOFATE株式会社の藤田です。弊社では持続可能な観光地経営をデザインすることを目的に活動しており、ここ数年力を注いでいたことが、白川郷の「冬のライトアップイベント」でした。雪が積もる時期に、世界遺産の合掌造り集落全体をライトアップするため、幻想的で美しい光景が広がる人気の高いイベントです。

 

白川郷での取り組みが評価されるまでには、悔しいことや悲しいことがたくさんありましたが、コツコツと継続してきたことが地方創生大賞という名誉ある賞に繋がったと実感しています。

 

よそ者である私がなぜ情熱をもって取り組んできたのか、現場ではどういったことがあったのかをお伝えすることで、みなさんの地域のご参考になれば幸いです。


<2015年シンガポールでの岐阜県PRイベントにて>

1.不満げな顔の観光客。本当に、これで良いのか?

弊社『NOFATE』の前身企業である『旅ジョブ』は、香港・台湾の現地旅行代理店からの依頼により中部・関西地域の手配業務を行っていました。インバウンドの煽りをうけて、白川郷も2013年から外国人観光客が増加。なかでも「冬のライトアップイベント」は、お客様の需要が非常に高いことから、『旅ジョブ』でも2016年冬の行程に組み込みました。



<タイアップした香港旅行代理店の企画内容>


予想通りの反響でしたが、現地での様子は想定外のものでした。ゆっくりと風景や風情を楽しめるような状態ではなく、イベント終了後のお客様は、どんよりと疲れた顔をしていたのです。

 

旅行を心待ちにして、はるばる訪れてくれたはずなのに、現地では駐車場まで2時間待ちが常態化し、路上駐車をしてしまう人もいました。過剰な混雑に困惑する人々、撮影するために立入禁止エリアに侵入してしまい、警備員と観光客の怒鳴り合いが連鎖的に発生することもありました。

 

バス停では、小さい子供が氷点下の中で1時間近くもシャトルバスを待ち泣いていましたが、なすすべもなく。渋滞で入村からイライラが募っている観光客と、許容範囲を超えた対応をしいられた村民ボランティアのいざこざもありました。

 

最大の見せ場となるはずの展望台でも、おしくら饅頭状態で何も見えずに不満を募らせる人、我こそはと場所取りで怒鳴り合う人もいて、楽しんでいる様子はありません。なにより、落下したら大怪我や大事に至るような場所で、安全面への不安も感じました。


至極当然の結果として、旅行後のアンケートでは、お客様満足度は10段階評価で総じて2~3。弊社では、飛騨古川の三寺祭りというお祭りをツアーに組み込んでいたので、こちらの満足度が9~10と高かったことで、大きなクレームにはなりませんでしたが、このような事態を目の当たりにしたことで、私の中に強い問題意識が芽生えました。

 

その後、旅行サイトのレビューを研究してみると、多くのお客様が現場への対応やイベントの構造自体に不平不満を漏らしていました。需要が高いイベントにも関わらず、受け入れ態勢が整っていないため、円滑な誘導や丁寧な接客ができずに深刻な事態に陥っていたのです。旅行を手配する側として、これからどう対応すべきなのか、自分にできることはないのかと自問自答しました。

 

続編となる【持続可能な観光地経営をデザインするvol.2】では、課題解決の大枠と周知の方法、実施後の旅行者の反応に関しても具体的なデータを掲載しています。

2.観光客誘致のイベントを負担に感じている住民。本当に、これで良いのか?

かつて、村民の知恵を集結して実行した「冬のライトアップイベント」。1985年から開催して来年で35回目を迎えるまでに、村民が試行錯誤を重ねた10年間がありました。それから、世界遺産の称号を得た1995年、インバウンドが加速した2013年以降、いまでは白川村に年間でおよそ210万人が訪れています。かつて村の命運をかけたライトアップイベントは、2時間で8,000人~10,000人が来場する一大イベントに成長しています。

 

オーバーツーリズムという課題に直面していた白川郷のイベントを新たな切り口で解消し、村民がイベント開催当初の気持ちに立ち返るべく、弊社でお手伝いさせていただきました。

 

白川村は、かつて現金収入を確保するために養蚕業を生業にして、煙硝の生産へとシフトしながらも生活を営んできました。

 

しかし時代の流れに逆らうことができずに、戦後は多くの若者が仕事と便利な生活を求めて、村から出ていきました。衰退の一途をたどるように、冬の豪雪に耐え切れず離村した山間僻地の集落、企業に買収された集落、高度経済成長を支えるためダムに沈んだ集落もありました。合掌造りにも関わりの深い「結(ゆい)」という相互扶助の仕組みが維持できなくなったことで、大火での修繕を施せずに、全ての合掌造りが解体されて売られた集落もあります。これは、全ていまから60年の間に起こったことです。



<どぶろく祭り・ボランティアの様子>


白川村の危機に直面しても、そこに住み続ける決断をした村民は、知恵を絞ってきました。わずか10数年前は高速道路もない豪雪地帯で、世界遺産の恩恵を受けることもなく、自分たちの力で観光客の誘致を試みてきたのです。冬の期間は、ひと冬に一桁という寂しい年もあったようですが、ひたすら続けてきました。

 

「村民が知恵を集結して実行してきたのが、冬のライトアップでした。まずは来てもらわな、ここの良さは伝わらん!」 そうやってかつての村民は、自らを奮い立たせてきたようでした。


第一回目が開催された1985年は、SNSがなかった時代です。第十回目までは、少ない時で一桁、100人には届かなかったといいますが、高速道路もなくて、豪雪地帯にも関わらず、村までは山道を通らざるをえません。そんなにハードルが高いのに、100人を射程範囲内におさめたことは評価に値します。

 

知恵を集結したという、かつての村民の言葉をきいて、当時の思いを継承し、初心に戻る必要があると感じました。

 

オーバーツーリズムという課題に直面して、「住民誰一人として楽しめていない、むしろ重荷になっているのが、冬のライトアップイベント」という現実。



<2019年3月の村の様子>


それもそのはずです。人口がおよそ1,600人150世帯の村で、ライトアップをする集落に住むのは580人ほど、村民ボランティアは平均して20人。白川郷を訪れる観光客は年間210万人、「ライトアップイベント」には2時間で8,000~10,000人が来場します。仮に10,000人が訪れると、集落のおよそ17倍もの人々が2時間で押し寄せる計算になります。

 

イベント開催当初の思いを継承するためには、オーバーツーリズムで後ろ向きになってしまった村民の気持ちの方向修正をするために、まず「完全予約制」「入場有償化」へと大きく転換しました。


<2017年展望台整理券を待つ観光客の方々>


続編となる【持続可能な観光地経営をデザインするvol.2】では、オーバーツーリズム問題を大枠で捉え、課題解決後の住民の反応を具体的なデータで掲載します。

3.旅行を手配する側からお客様を迎え入れる側に!NOFATEが目指すこと。

弊社『NOFATE』の前身である『旅ジョブ』では、代理店を通して外国人観光客の旅行の手配を行っていたため、旅行客にはもちろん楽しんで帰国してほしいと思っていました。なかでも、白川郷にある相互扶助の結(ゆい)という仕組みや、合掌造りを継承している歴史や文化に興味を持っていたこともあり、白川郷にはかねてより愛着がありました。そのため、「何か自分にできることはないのか?」と常に自問自答していました。

 

のちに課題解決で奮闘するのですが、現場を知るためにイベントボランティアとして参加した2017年の経験が軸になっています。全6日間という期間、全国から集まった語学堪能な有志25人とともに挑みました。そこで「どの日程も、中華圏からのお客様比率が70%以上であったこと」、「お客様への事前情報が少ないため、現場でいら立つお客様が多かったこと」、「現場スタッフが圧倒的に不足していること」などの収穫がありました。


<現場最前線でお客様対応する私とスタッフ>


当たり前のことですが、ボランティアとはいえ、現場に立つからには良いイベントにしていきたいという気持ちがあったため、緊張感と使命感をもって取り組んでいました。その意欲が伝わり、ボランティア3日目以降の日程では、我々は重要な位置で現場リーダーとしてお客様対応や、関係者への指示も任されるようになっていました。

 

2017年のボランティアで全日程を終えて、現場リーダーの経験やスタッフの意見を取りまとめ、次回以降の改善点や課題をライトアップ実行委員会に提案しましたが、「実行する人がいない」という壁にぶつかりました。

 

なんとも言い難い気持ちにさいなまれて、「いったい、誰のための…、何のためなのか?」という疑問を晴らすべく、このイベントを始めた経緯を聞きまわりました。その答えとして、先にふれた「村民が知恵を集結して実行してきたのが、冬のライトアップだった。まずは来てもらわな、ここの良さは伝わらん!」 という村民の言葉にたどり着くことになります。一念発起しようと立ち上がったかつての村民の言葉を聞いて、私は当時の思いを継承し、初心に戻る必要があると感じました。

 

「このままでいいのか?」という当事者意識が私の中に芽生えてきました。そして私の心は、“住民の負担を取り除き、お客様がまた戻ってきたくなるきっかけのイベントにしよう”と決めていました。それが、【持続可能な観光地経営をデザインする】という『NOFATE』のマインドフィールドに繋がっています。

 

それから2年後「冬のライトアップイベント」での功績が評価された2019年「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー」で地方創生大賞を受賞するまでに、悲しいこともあり悔しい思いもしましたが、コツコツと行動し続けてきたことが、この名誉ある賞に繋がったと実感しています。

 

『NOFATE』は、地域の未来を地域住民と共に創り、支えていく会社です。今の延長が未来です。変えられない未来なんてない、運命なんてない。自分たちの地域・未来は、いまから一緒に築いていきたいと考えています。

 

続編となる【持続可能な観光地経営をデザインするvol.2】では、課題解決の方法と周知の方法、実施後の関連データを具体的な数字で掲載します。何かの参考にしていただけると幸いです。


地方創生大賞受賞となった持続可能な取り組みの具体的な内容や方法についてはこちら

【持続可能な観光地経営をデザインするvol.2】オーバーツーリズムは諸悪の根源


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