類塾が「こども起業塾」を立ち上げる理由 ~アメリカ シリコンバレー発、アントレプレナーシップ教育「BizWorld」との共創でスタート
株式会社類設計室(本社:大阪市 社長:阿部紘)は、教育事業部「類塾」の新規事業として「こども起業塾 with BizWorld」(以下「こども起業塾」)を2024年3月16日にスタートさせます。こども起業塾は、小学4年生から高校3年生までを対象にしたアントレプレナーシップ(起業家精神)を学ぶ教育事業で、今年9月に開講した、しごと学舎の「こども建築塾」に続くものです(こども建築塾のストーリー「建築を切り口にものづくりの楽しさを学ぶ『こども建築塾』開講の裏側」はこちらから)。
プレ企画「こども起業塾」を開催したときの様子
こども起業塾最大の特徴は、類設計室が50年間の全員経営や多事業経営で培ってきた経営手法や人との繋がりをベースに、世界のべ100カ国で累計85万人の子どもたちが学んでいる、シリコンバレー発のアントレプレナーシップ教育の「BizWorld」と組み、そのカリキュラムを取り入れて事業を展開していくという点です。
なぜ類塾は、こども起業塾を立ち上げるのでしょうか。また、どうしてBizWorldをパートナーとしたのでしょうか。こども起業塾事業の当事者の皆さんに集まっていただき、話を聞きました。
左から、株式会社類設計室 類塾教室長 兼 経営統括部 経営企画課 逆井 聖也氏、経営統括部 経営企画課長 山根 教彦氏、BizWorld Japan IKIRU合同会社 CEO 福田 若菜氏、BizWorld Japan IKIRU合同会社 CTO 尾崎 健二氏
- なぜ「起業」? なぜ「子どもが対象」?
「子どもたちが小学生の間から会社を立ち上げて、お父さん、お母さんを従業員として雇ったらめちゃめちゃ面白いですよね。弊社の社長からも『それで失敗したらいい。会社を立ち上げて4社くらい潰してから採用試験を受けにくる子がいたら面白い』なんて話も出ました」。
笑顔でこう話すのは、開講に向けてのマネジメントに携わる、株式会社類設計室の経営統括部経営企画課の山根教彦課長です。
山根課長は前述の「こども建築塾」と同じく、今回の「こども起業塾」の立ち上げにも当初から関わり、類塾がなぜこども起業塾をやるかについて、最もよく知る一人です。
「弊社も50年前、大学を卒業して数年社会で働いた若いメンバー6人で創業しました。自分たちの働く場を自分たちでつくるという理念で、一人一人が経営マインドを持って全員参加で運営する『全員経営』を大切に、試行錯誤してきた会社です。人の創造力や、活力、能力という意味でも、会社を創る側になるということは、重要ですし、これからの社会にも必要な力になります。そんな中で、子どもたちにそれを伝える場があってもいいよね、という話があったわけです」(山根課長)
- シリアル・アントレプレナーとしての類設計室
そもそも類塾の母体である株式会社類設計室とはどんな会社なのでしょうか。会社説明では設計事業、教育事業、農園事業、宅配事業、管財事業からなる多事業態企業ということです。
同社を知る外部企業の社員の方がこう話します。
「類設計室さんは、それぞれ単体の事業部門で非常に優秀な事業をやられている。それが全体から見ると、『なんで設計会社が塾? 農園を所有して野菜やお米を作っているの?』となるでしょう。
逆に農業界から見れば『なんで農業やっているのに建築設計なの?』とか、教育業界からは『塾が農業を?』とも感じるでしょうね。
しかし、その多様な在り方は唯一無二で、それ故、それぞれの業界の常識にとらわれずに、それぞれの業界の殻を破ってこられたのだと思います」
実は、社会や時代の潮流を読んで事業を興すという形は欧米のアントレプレナー(起業家)のようで、さらに、違った分野で連続して起業を続ける「シリアル・アントレプレナー(連続起業家)」にとても近いものです。
- 先進性を持ち続けてきた類塾
起業から始まった類設計室から半世紀を経て、起業家マインドを教える事業が出てきたのはある意味必然だったようです。とはいえ、「起業」は大人相手のもので、少なくとも大学生くらいが対象となるのが一般的。ところが、こども起業塾はその名の通り子どもが対象です。なぜ「子ども」なのでしょうか。
山根課長はこう言います。
「類塾は1975年から約50年、進学塾としてやってきましたが、2010年ごろを境にして、子どもたちの勉強への意欲が、急激に落ちてきました。社会の変化と共に学ぶ意味が見えなくなってきたのです。
類塾は元々、勉強だけにコミットしてきたわけではなくて、全人教育や将来に生きる学びをコンセプトにしてきた塾です。そこで、2014年ぐらいから答えありきでなく、みんなで社会的なテーマを議論し深めていく、探求講座を始めたんです」
この説明を引き継いで、今回こども起業塾の講師となる、類塾の教室長と経営企画課を兼務する逆井聖也さんがこう話してくれました。
「2019年にはフリースクールの『類学舎』や実際の仕事の中で社会に必要な力を身に着ける『仕事塾』というカリキュラムを立ち上げました。
その中で、仕事とか本当に社会で役立って誰かにすごく喜んでもらうところにつながると、子どもたちの活力が上がるのを感じさせられる経験をわれわれはしました。『実社会とつながる』ということ、そこに学びの可能性があることをすごく意識した体験でした」
山根課長は「このような類塾の流れがあって、2023年に自然の中で活動して学んでいく『自然学舎』を立ち上げました。自然は、実社会と同じように『リアル』なものです。そこから学ぶことが子どもたちを成長させます。
さらに、9月、『しごと学舎』という事業の中で、モノづくりやデザインをプロと学び合う『こども建築塾』をスタートさせました。
さらに、しごと学舎のもう一つの柱として今回の『こども起業塾』が開講するということなんです」と類塾のこれまでの事業変遷を説明してくれました。
建築設計事務所として創業、その3年後に類塾がスタート。その類塾が時代の要請に応じてきた結果、「こども起業塾」が今ここに誕生するというわけです。
- BizWorldって、どんな教育? カリキュラム?
一方、類塾が今回共創・協働する、シリコンバレー発のアントレプレナーシップ教育「BizWorld」とはどのカリキュラムなのでしょうか。「BizWorld Japan」として、日本でBizWorldプログラムを運営・展開するIKIRU合同会社の福田若菜CEOがこう説明してくれます。
「BizWorldは25年前にアメリカで始まりました。シリコンバレーで4代にわたる投資家一族のTim Draperという人がいます。その娘さんが9歳のときに「起業家って何?」と聞いたそうです。そこでお父さん(Tim Draperのこと)は娘に教えるだけでなく、『じゃあそれをプレゼンすることを授業でやってみよう』ということから始まりました。
ちなみにTim Draperのおじいさまは、シリコンバレーで初めてベンチャーキャピタルを始められた方です」
BizWorldはこのように「教育」の色合いが強く、だからBizWorldを実施する資格である「認定フェロー」を取得するためには教員免許が必要だそうです。
「ほかの起業家プログラムや講座って、起業家の人が教える例が多いんです。しかし、起業家にする事を目的にしたプログラムではないので、私たちは『子どもたちに教えるプロは学校の先生。だから先生にBizWorldの認定フェロー資格を取ってもらって教えてもらおう』というものです。
たとえば学校で算数や数学を教えているのは数学者ではないし、体育でサッカーを教えているのはプロサッカー選手ではないですよね。
アントレプレナーシップ教育も同じで、起業カリキュラムを学んだ『教えるプロ』が子どもたちを教えた方が良いというのがBizWorldの考え方です」(福田CEO)
BizWorldが学習塾に導入されるのは、こども起業塾が全国初だといいます。
福田CEOの対面に座って話を聞いていた山根課長もこう言います。
「BizWorldのカリキュラムが面白いのは、人を採用する、会社を設立する、事業・商品のアイデアを出し、投資家や銀行員にピッチをして資金調達する、実際に販売して、会社の成果を振り返る、というところまで、全てがプログラムされていることです。よくアイデアを出すまでの機会はありますが、実践までできる機会というのは中々ありません。それをチームになって、楽しく、でも本気でやっていける。体験に来た子の多くが、充実した顔でありながら『もっと事業を詰めたかった』『悔しかった』と話すのが印象的でした」
- 起業について知らないから、先生も同じ目線になる
福田CEOとともにBizWorld Japanを運営する尾崎健二CTOもこう話します。
「教えるのが起業家ではなく、むしろ先生たちのほうがいいのは、先生も子どもと同じようにアントレプレナーシップについて学ぶからです。子どもに対して『先生と一緒に学んでいこうね』と子どもたちに言えるわけで、その同じ目線で講義を進めていくことが大切なんです」
尾崎CTOは、多くの人が名前を知る世界的なIT大企業で30年、「営業以外、ほぼ経験してきました。日本の大手企業に対してセキュリティーのテストも行いました」という経歴の持ち主で、その多彩な経験から子どもたちに鋭い問いかけや頼もしいサポートをしてくれます。
福田CEOは高校、大学、母子での留学を含め合計8年、アメリカで学びました。「その後、日本の大学生をシリコンバレーに送り出すことをしていましたが、もっと若い世代にもアントレプレナーシップを学んでほしいと思って、日本でのBizWorld導入を決めました」と語り、アメリカ、とりわけシリコンバレーの起業や投資を間近で見聞し、肌感覚で知っている人なのです。
- 実際の講義を受けた子どもたちの反応は?
BizWorldの具体的な講義は一体どのようなものでしょうか。今回のインタビューのちょうど一週間前に類設計室本社で「こども起業塾with BizWorld」のプレ企画が行われました。
シリコンバレー流のアントレプレナーシップ教育といえば、リーダーシップを持って人の上に立つ起業家を育てるというイメージがあります。「個人」の勝利が大切で、他のメンバーに競い勝つようなカリキュラムが用意されている――BizWorldは、そうではありませんでした。
プレ企画では、4人が一つのチームをつくり、それぞれの役割を決めます。たとえば「○○さんは代表社長、△△くんは財務担当役員、□□くんは営業担当役員」など、子どもたちがそれぞれの役割の働きをするのです。そして、チーム一体となって企画書を考えたり、その元になるマーケティング調査をしたりして、投資家にプレゼンして自社株を買ってもらう(使用するのはBizWorldの仮想通貨)。そんな内容の講義でした。
起業というと、ソフトバンクの孫正義さんや、テスラ社のイーロン・マスクさんなど「個人」が思い浮かびますが、実際の起業は1人で興せるものではありません。仲間とともに事業を進めていく――それが本当のアントレプレナーなのです(特に最近はその傾向が強まっているということです)。
プレ企画で、子どもたちはチームを組んだ仲間と、あーでもないこーでもないと議論し、事業企画を練りました。時には意見を戦わせ、時には全員が沈黙して考え、そして最後は投資家役の福田CEOや山根課長のところに行って事業企画のピッチをしました。
思った額の株券を買ってもらって歓声を上げるチームもあれば、想定した額よりも少なかったのか、少々がっかりしてその後すぐに振り返りを始めるチームもありました。どのチームも、全員、満足してやり切った表情だったのが印象的でした。
逆井さんは「こども起業塾に対してワクワクしている」と話し、こう述べます。
「仕事・経営には、言語能力・数的感覚・追求力・コミュニケーション能力などのあらゆる力が集積されて行われます。類塾のカリキュラムはこれまでも、子供たちが大きく『将来活きる力』を伸ばすことをやってきました。こども起業塾は、国語や数学、全てがつながり、実践する場になります。これはとても重要なことです。子どもたちは『自分たちの力が、実際に通用するほどの力なのかどうか』、肌で感じられるはずです」
山根課長も一週間前のプレ企画を振り返って次のように言います。
「BizWorldさんの『チームでそれぞれが役割を果たす』という学び方は、私たち類設計室がこれまでやってきた『全員経営』と同じなんです。私たちがBizWorldさんを共創・協働のパートナーとして一緒にやろうと考えたのも、仲間とともに創っていく、という考え方が共通しているからなんです」
福田CEOは、類塾とコラボレーションする意味をこう語ります。
「今、アメリカでは日本の製品をあまり見かけなくなりました。私が留学しているとき『もう日本はだめかもしれない』と感じましたが、アントレプレナーシップ教育で日本の子どもたちに接するようになると『大丈夫!』と思えるようになりました。50年以上にわたる日本型の経営で教育事業だけでなく実社会で多様な事業を続けてきた類設計室とシリコンバレーのスピードある経営が一体になることで、すごい可能性が生まれると思っています」
日本の在り方や強みを本源から追求してきた類と、最先端のシリコンバレーの学びができるBizWorldがコラボする意味は、子どもたちの未来を明るいものにするということなのでしょう。
さらに「学習塾にBizWorldを導入するのは全国初ですが、これはBizWorldにとっても大きな出来事だと考えています。学校での導入とは違い、企業の学習塾が商品として出してくれることで、興味がある子どもたちは誰でも参加できるようになります」と期待を膨らませました。
山根課長が福田CEOに「こども起業塾にどんな人材に来てもらいたいですか?」と聞きました。起業してみたい、経営に興味がある、などの理由を考えていましたが、意外な返事が返ってきました。
「全員ですかね(笑)。自分の子育ての経験を交えて話しますと、私は、子育てはどんなことにも勝る仕事だと思っていて、13年間子育てをやり切りました。その中で、私の子はディズニーランドよりもキッザニアに興味を示す子でした。子どもたちの中には『そっちの方がいい』という子もいるんです。だからこそどんな子どもにも一度は参加してもらいたいですね」と話しました。
福田CEOは「例えば、講義で子どもに『CMを10分でつくってください』と伝えたら、『えー、難しい!』『できないよー』なんて言うんですが、やってみたら、できるし、つくるんです。むしろ『子どもたちはできない』と思っているのは大人の方で、子どもたちはやればできるんです」と言葉に力を込めます。大人は「子どもはこうだから」と考えることで、子どもたちの可能性に壁を設けがち。それは違うのです。
福田CEOは「こども起業塾は、子ども全員が対象」と言って笑っていましたが、実は本気にそう考えていることが、その熱意から、子どもの可能性を信じる想いから、ひしひしと伝わってきました。
- こども起業塾に類設計室の蓄積を注ぐ
さて、BizWorldは世界のべ100カ国、累計85万人もの子どもたちが学んできたグローバルで最先端のアントレプレナーシップのカリキュラムですが、類塾もその50年に及ぶ経営のノウハウをこども起業塾に注ぐといいます。山根課長がこう話します。
「一つは先ほども言った『仲間とともにつくる力』というもの。全員経営をずっと続けてきました。その皆でつくりあげる面白さを子どもたちに学んでほしい。
二つ目は『課題がどこにあるか自分たちで見つけ解決する力』も重要で、これもぜひ学んでほしい。そして三つ目は、『新しい価値を創造していく力』です。
類がこれまで作り上げてきた協働を軸とした日本型の経営の蓄積とBizWorldさんの世界とつながる教育が一つになる。類設計室とBizWorldさんとの共創、それが『こども起業塾』なんだといえます」
講義では、類がこれまで築いてきた人脈やネットワークによる、社会で活躍されている経営者をはじめとしたゲスト講師も招く予定だといいます。
日本でも、これまで遅れていた起業を今後は国を挙げて活性化、応援していこうという動きがあります。経産省「未来ビジョン」という提言では、起業できる能力のあるような人が未来に必要な人材だとされ、また文科省の学習指導要領ではアントレプレナーシップ教育の重要性を強く打ち出しています。
さらに国も2022年を「スタートアップ創出元年」として、起業を活性化する5カ年計画をスタートさせています。こども起業塾は潮流のまん真ん中にあるといえます。
かつて、150年前に日本開国を導いた偉人たちがいました。その彼らに共通していたのは「和魂洋才」。日本の本源を知り、それでいて西洋の科学技術や先進性を真摯に学ぶという志のことです。「こども起業塾 with BizWorld」は21世紀の和魂洋才を持った人を育てる――。そんな予感が今回のインタビューから湧き上がってきました。
開講は来年3月16日。
桜が咲く、その直前です。
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