平安時代の将棋と、現代の将棋の違いはなぜ生まれたのか。日本将棋成立の歴史に迫る『将棋の日本史』が出版されるまで
歴史の教科書や書籍に定評のある株式会社山川出版社は、『将棋の日本史』を新たに出版しました。本書は、日本将棋成立の歴史を、日本文化の発展にあわせて整理し、日本の社会・文化と整合性がとれる形に組み直すことを目的としています。
著者の永井晋氏は、日本中世前期の政治史を専門とする歴史学者。本業の傍ら、学生時代に出会った将棋を指しています。平安時代の将棋と現代の将棋の違いがどのように生まれたのかに興味を持ち、本書を著すに至りました。その出版ストーリーをお届けします。
コロナ禍のオンライン交流で、将棋界と将棋文化をよく知るように
著者自身も将棋を楽しむ人。
インターネット上で将棋のオンラインサロンを立ち上げたことを知り、その会員となりました。香川女流四段の指導対局を何度も受け、会員たちとオンラインで交流を続ける中で、将棋界と将棋文化を知るようになったのです。
将棋は男の遊びなのか?
山朋佳女流四段(執筆時の段位)は日本将棋連盟奨励会三段リーグ次点一点まで行きながら、女性ではじめての四段昇段があと次点一回というところまで勝ち進み、マスコミに報道されるなど広く注目を集めていました。当時、西山朋佳女流四段が感じるプレッシャーは、相当に大きかったと著者は推測しています。
現代では女性が将棋を指すことは比較的珍しく、注目を集める一方で、著者の専門である平安時代前後の歴史を振り返ってみると、 平安文化では女性が将棋を指していたことがわかる記録が複数残っているのです。
平安時代の将棋界と現代の将棋界との差は何なのか、歴史をたぐり直してみようかと著者が素朴に考えたことが、本書の執筆が始まるきっかけでした。
江戸時代の将棋について書くには、著者自身の情報量が不足していると感じていたため、書くなら本業の守備範囲内である日本将棋成立史と漠然と考えていました。
著者が鎌倉考古学研究所編『集成 鎌倉の墨書―中世遺跡出土品―』で鎌倉出土の将棋駒の状況を把握し直した時に、鎌倉時代後期に金沢氏の館があった北条時房・顕時邸跡遺跡からも将棋駒が出土していることを知り、身近なところにまたひとつ史料が増えたと思いました。
著者が本書を一冊の本として実際に書き始められると判断したのは、2020年のこと。専門分野の『八条院の世界』を執筆していたとき、八条院中納言・藤原定家姉弟の周辺に将棋の情報が多く集まっていることに、思いがけず気づいたのです。
中国から伝わった将棋がどのように変化し、日本の文化に根付いたのか
日本の将棋のルーツは、平安時代にまで遡ります。中国との文化交流の中で、「象棋」として日本に伝来したのが始まり。中国から伝わった象棋は、日本独自の駒とルールにつくり直され、平安時代の宮廷社会や寺院社会で「将棋」として根付いていきました。
平安時代の宮廷で高貴な人々が観て楽しんだ将棋は、寺社で大将棋へと発展し、武家社会でも合戦と結びついた兵戯として、また処世の一つとして広まっていきました。賭将棋に熱中する武士や僧、富裕な都市民も多く、しばしば幕府に禁じられましたが、日常的な遊戯となり、現在の40枚制将棋が成立したのです。
日本文化である「将棋」に触れ楽しむ人が増えるように
著者が将棋のオンラインサロン内で活動や交流をする中で、将棋文化に関する情報が自然と集まるため、著者自身の研究上の情報に将棋の世界の情報を加味し、どこまで将棋の歴史に迫れるかを楽しみながら、全文書き下ろしの形で書き進めてきました。
そして、出土駒や史料をもとに、日本文化としての「将棋」が形成されていく歴史を明らかにする内容の本書が完成。本書を読んで日本の将棋に興味を持つ人、より楽しむようになる人が増えることを願い、出版されました。ぜひ、お手に取ってお読みください。
■書籍概要
著者:永井晋
発行:山川出版社
定価:2,200円 (税込)
仕様:四六 ・ 200ページ
刊行:2023年6月
行動者ストーリー詳細へ
PR TIMES STORYトップへ