障害の有無にかかわらず子どもたちが混ざり合う生活の場を。「インクルーシブ保育のパイオニア」どろんこ会グループの25年間のあゆみ
「にんげん力。育てます。」の理念のもと、全国約160箇所に認可保育園や認定こども園、児童発達支援施設などの子育て施設を展開するどろんこ会グループは、2023年に25周年を迎えました。1998年に安永愛香と高堀雄一郎夫妻が創業して以来、年齢の違いや障害の有無にかかわらず、また子どもも大人も「混ざり合って育ち合う」=「インクルージョン」をキーワードに、子どもたちが 「ジブンで選択する、自己決定する」ことを大事にして子育てにまい進してまいりました。
近年、どろんこ会グループは「インクルーシブ保育のパイオニア」として知られるようになりましたが、インクルーシブ保育の実現にはさまざまな紆余曲折があり、現場は今もなお試行錯誤しながら取り組んでいます。本ストーリーでは、これまでの25年間を振り返りながら、どろんこ会グループのインクルーシブ保育の歩みとこれからの展望をお伝えします。
1998年、保育の質・量に課題を感じ自ら起業。埼玉県朝霞市に「メリー★ポピンズ」を開園
「今、辞表出したよ」
新卒で入った株式会社リクルートを、入社3年で辞める決意をした高堀。辞表提出直後に報告の電話を受けた安永は驚くことはありませんでした。それは、2人が学生時代から「いつか自分たちの理想の保育園を創るんだ!」と決めていたからでした。
学生時代に学習塾を経営していた2人。不登校の子や障害のある子、さまざまな子どもたちに勉強を教えてきた2人は、挑戦する心、負けない心、やりきるチカラといった「にんげん力」が身につくかどうかは、幼少期の過ごし方に左右されると気づいていました。
そして実際に2人に子どもが生まれ、保育園に預けてみると、保育サービスの質・量ともに大きな社会課題があることを実感したと言います。
「今後ますます私たちと同じ思いを持つ親が増える」と感じた安永と高堀は、保育園を立ち上げることを決意し、1998年6月に会社を立ち上げ、その2カ月後の8月16日に埼玉県朝霞市に認可外保育室「メリー★ポピンズ」を開きました。
どろんこ会グループ創業者である安永愛香(右)と高堀雄一郎夫妻
保育業界の変革に挑戦 日本の保育を本気で変える
安永と高堀は、自分たちが見てきた保育園の課題は、業界全体の課題に通じているととらえ、「これまでの価値観にとらわれず、業界変革に挑戦しよう」と考えました。
高堀は「既存の保育事業や福祉事業は、その多くが、過去の経験やノウハウをそのまま継承していく手法であるため、なかなか新しいことが広まっていかない。今はまだ保育が足りていないから、どんな保育内容でも子どもたちを集められているかもしれないけど、近い将来、必ず、提供される『保育の質』で保育事業者が選ばれる時代がやってくる。その時代に、全国でどろんこ会グループの保育を提供していたいし、どろんこ会グループがより一層質の高い保育を提供できるよう、職員の待遇面の水準も高めていきたい。
そのため最初の10年で認可保育園を設立し、次の10年でどろんこ会グループの園を100園に展開することを目指しました。ただ理想を語るのではなく『現場実践を通して』日本の保育を本気で変えたかったからです」と、当時を振り返ります。
どろんこ会グループ始まりの地であるメリー★ポピンズで保育に入る高堀
2014年、発達支援事業の開始。「障害の有無にかかわらず混ざり合う」環境を目指して
2人は最初に掲げたビジョンどおり、埼玉県内に着々と保育園をつくり、2007年に同県朝霞市にグループ初の認可保育園「朝霞どろんこ保育園」を開園するに至りました。
朝霞どろんこ保育園。どろんこ会の園はあえて黒を基調としたデザイン
その後、首都圏を中心に認可保育園を続々と増やしていくと同時に、2014年にグループ初となる「発達支援つむぎ 荻窪ルーム」を東京都杉並区に開所しました。
地域から切り離された障害児施設ではなく、誰もが入りやすい場所を目指した設計とデザイン
安永は「私たちは保育園を始めるずっと前から、自分で考えて行動できる力は異年齢の交流やごちゃ混ぜの組織の中で育まれるものかもしれないと考えてきました。年長者が年少者を教えることだったり、健常児が障害児をサポートすることがそうですが、いろんな年齢や能力の子が混ざり合った環境の方が、自分ができること、自分が役に立てることを見つけていけると思います。発達支援事業を立ち上げ、つむぎの拠点展開を始めたのはこういった考えからなのです」と言います。
原点であるメリー★ポピンズで保育をする安永
さらにその翌年、どろんこ会グループとして初となる認可保育園と児童発達支援事業所の併設モデル、「駒沢どろんこ保育園」と「発達支援つむぎ 駒沢ルーム」を東京都世田谷区に立ち上げました。
その背景には「メリー★ポピンズを立ち上げた当時、公立をはじめとする認可保育園では障害児をなかなか受け入れず、困った保護者の方が認可外保育所で預け先を探すのですがそれでも見つけられず、最後の最後にメリー★ポピンズに相談に来られて、私たちが最後の砦になるという現状がありました。
小さな保育所だったので必然的に異年齢で障害の有無にかかわらず子どもたちが混ざり合って生活することになったのですが、そこで子どもたちの成長を目の当たりにしました」という2人の実体験もあったからなのです。
どろんこ会グループ第1号園、メリー★ポピンズ 朝霞南口ルーム
玄関も別、子どもたちは一緒に活動できない!認可保育園と児童発達支援事業所を隔てる「行政の壁」に直面
しかし、最初に立ち上げた駒沢どろんこ保育園と発達支援つむぎ 駒沢ルームは建物は同じとはいえ、保育園とつむぎの入り口は別で、保育室と支援室も完全に分かれていました。これではスタッフも子どもたちも「混ざり合う状況」をつくりだすのは困難でした。
なぜそのような構造になったのか。行政の壁が立ちはだかったのです。
認可保育園と児童発達支援事業所は自治体における管轄が異なります。そのため予算の出所も違うため、完全に別事業としての扱いとなっていました。そのため、建物はおろか、子どもたちの活動も分けざるを得ませんでした。
翌2016年に埼玉県ふじみ野市に立ち上げた「ふじみ野どろんこ保育園」と「発達支援つむぎ ふじみ野ルーム」でも、両事業の動線を完全に分けるよう行政からの指示がありました。そのため保育園は1階、児童発達支援事業所は2階に配置し、玄関やスタッフの事務所も完全に別となりました。
2017年、東京都足立区に「北千住どろんこ保育園」と「発達支援つむぎ 北千住ルーム」を開設。東武鉄道の高架下の有効活用とインクルーシブモデルを提案し、採択されたものです。ここでは玄関とスタッフの事務所を共用することができるようになりましたが、子どもたちの部屋は分けられたまま。
「少しでも交流する場を創りたい」そんな想いで保育室と支援室をつなぐトンネルをつくり、絵本コーナーとすることを提案しました。ところが、その通り道をふさがないと認可申請が通らないという事態に。交渉の末、通路はそのまま残すことができましたが、どろんこ会グループが理想とするインクルーシブな園舎をつくることは苦難の連続でした。
インクルーシブな施設づくりには多くの壁が立ちはだかった
スタッフの意識にも壁!本当に必要だったのは大人同士のインクルージョン
園舎設計などの設備面だけでなく、運営面においても行政の壁が立ちはだかりました。
従来より、同じ屋根の下の施設に通っているにもかかわらず、児童発達支援に通う子どもを保育園の保育室で保育することや、児童発達支援のスタッフが保育園に通う子どもを支援することは不可とされていたのです。
また、保育園の保育士と、作業療法士や言語聴覚士、理学療法士など専門領域をもつ発達支援のスタッフは、学びのバックグラウンドも異なり、子どもとの向き合い方も異なります。そのため、全ての大人が全ての子どもを保育するという考えにとまどいを感じるスタッフも多くいました。
真のインクルーシブ保育を実現するには、子どもたちを育てるスタッフの意識の変容が最も重要でした。しかし一朝一夕でできることではありません。
2015年の併設施設開設以来、自治体との協議を重ねながら埼玉県、千葉県、神奈川県、福島県に13施設を展開してきました。中でも神奈川県横浜市では既存の認可保育園のスペースを活用して児童発達支援事業所を併設するという画期的な取り組みも実現しました。
このように現場を増やし、試行錯誤しながらスタッフはコミュニケーションを取り続け、常に「子どもをまんなかに」考え、日々実践を重ね、現在に至ります。
最初は保育園と発達支援、事務所もデスクも別々だったのが今は一つに
2023年、ついに省令改正と施行。真に壁のないインクルーシブな園舎で障害の有無にかかわらず混ざり合う生活が実現
2022年12月、厚生労働省からついに、認可保育所と児童発達支援事業所を併設するにあたっての障壁となっていた省令の改正と施行について、全国の自治体に向けて文書が出されました。そして2023年4月から保育園も児童発達支援も「同じ施設を共用でき」、「双方の子どもの支援ができる」ようになったのです。
厚生労働省や内閣府はじめ関連省庁に、インクルーシブ保育を実践するにあたっての縦割り行政や法令の課題について提言を続けてきたどろんこ会グループにとって、この省令改正は課題解決の追い風となりました。
内閣府大臣政務官室を訪問し、インクルーシブ保育の課題と解決策について要望と提案
2023年4月に開園した「内箕輪どろんこ保育園」(千葉県君津市)、「香取台どろんこ保育園」(茨城県つくば市)、「メリー★ポピンズ 海老名ルーム」(神奈川県海老名市)はこの省令改正を受け、当初保育室と発達支援室の間に壁をつくる設計にしていましたが、急遽その壁を取り払えるよう各自治体に確認し、設計を変更しました。
2015年以降、一歩ずつ進めてきた壁のない園舎設計。ようやく本当に壁のない、一つの大きなおうちの広いリビングのような部屋で、年齢の違う子どもたちが障害の有無にかかわらず混ざり合っての生活が実現したのです。
手前が児童発達支援のスペースだが、壁のない一体的な空間を実現
奇しくも同じタイミングで、どろんこ会グループの本部にも新たな動きがありました。これまで保育園を統括する運営部と、児童発達支援センター・事業所を統括する発達支援事業部と部署を分けていました。しかし、組織自体のインクルージョンも実現すべく、両部署を統合しました。本当の意味で全ての大人が全ての子どもを共に育てていくという体制とした「インクルーシブ元年」と位置付けました。
2024年、ついに東京都初(※)の「壁のない」多機能化施設を開園。インクルーシブ保育のパイオニアとして業界をけん引
2024年には全国でも類を見ない、真の意味でのインクルーシブ保育を実践する場として、東京都でも初となる(※2023 年 4 月の省令改正までは、設備に関しては保育所が併設される場合であっても原則として壁や固定パーティションにより訓練室と保育室を 区切ることとされてきましたが、文字通り本当に「壁のない」インクルーシブモデルの実現は初となります)児童発達支援センターと認可保育園の多機能化施設を東大和市に開園します。
2024年4月、東京都東大和市に認可保育園と子ども発達支援センターの併設施設を開設
これからもどろんこ会グループのインクルーシブ保育は急拡大するのではなく着実に一歩一歩実績を積み上げていきます。また、省令改正をきっかけに全国の自治体や同業他社様からもインクルーシブ保育の現場を学びたいという声を多くいただいております。これまでに手がけてきたインクルーシブモデルの施設整備をはじめ運営ノウハウの提供や、研修や学びの共有をするためのプラットフォームづくりを進め、日本全国の保育・幼児教育の質の向上に貢献してまいります。
【どろんこ会グループについて】
どろんこ会グループ(社会福祉法人どろんこ会、株式会社ゴーエスト、株式会社日本福祉総合研究所、株式会社南魚沼生産組合、株式会社Doronko Agri)は全国約160箇所に認可保育園、認証保育所、事業所内・院内保育所、学童保育室、地域子育て支援センター、児童発達支援センター、児童発達支援事業所、放課後等デイサービス、就労継続支援B型事業所などを運営。1998年設立。職員数約2200人。施設利用者数約9100人(2023年3月時点)
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