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量子コンピュータでより良い世界を目指したい。量子スタートアップが立ち上げた社会貢献のための量子技術活用の取り組み「SDQs」誕生秘話

著者: 株式会社QunaSys


今年は春に初の国産の量子コンピュータが稼働を開始し、量子コンピュータがテレビで特集されたりと、日本でも量子コンピュータに対する注目が高まっています。2050年には量子時代が来ると言われており、国をあげてのプロジェクトが国内外で立ち上がっています。しかし、量子コンピュータで何ができるのか、よくわからないと感じられる方も多いのではないでしょうか。量子コンピューティング・スタートアップのQunaSysは、量子コンピュータでできることやその効果を明確にするために、社会貢献のための量子技術活用の取り組み「SDQs(量子技術が貢献できる可能性のある持続可能な開発目標)」を開始しました。

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今回は、取り組み開始早々から多くの企業が賛同・支援してくださっているこの取り組みの誕生秘話をご紹介します。

発展途上の量子コンピュータ。悪用のリスクを防ぎ、世の中に役立つ技術に育てるために今取り組む必要がある

量子コンピュータがスーパーコンピュータや私たちの身の回りのパソコンとどう違うのかを比べる前に、例として、そろばんや電卓とパソコンを比べてみましょう。そろばんや電卓とパソコンを比べると、計算のスピードも違いますし、計算できることも違います。例えば、答えが10桁を超える掛け算や、平方根を求めるといった計算は、パソコンでは一瞬ですが、そろばんや電卓だと正確な答えに辿り着くまで、膨大な時間がかかったり、そもそもそろばんや電卓の桁数が足りなくて、計算できなかったりすることがあります。パソコンでも足し算や引き算もできますが、パソコンがそろばんや電卓よりも圧倒的に便利なのは、大きな桁の計算や複雑な数式を実行することが、瞬時にできるからです。


同様に、開発が十分に進んだ量子コンピュータはパソコンや既存のスーパーコンピュータでできる計算もできますが、そろばんや電卓がパソコンと大きく違うように、量子コンピュータが実行できる計算は、パソコンとは大きく異なります。具体的には、量子コンピュータは、量子の重ね合わせという性質を利用し、パソコンやスーパーコンピュータでは表現することが難しい、自然界における量子の重ね合わせによってもたらされる現象 (ミクロの世界で実際に起こっている現象)をより適切に表現・処理することが可能であると期待されていることから、これまで解明できなかった自然界の現象を解明できる可能性があるマシーンとも言われています。


今の量子技術は、人間に例えるなら、ようやく幼稚園に入ったぐらいの、まだまだ幼くて拙いものです。これからどれだけ社会に貢献できる技術に育つのかは、未知の部分も多く、何が得意なのか、苦手なのかということを見つけたり、この新しい技術をどう使っていくかについて、みんなで一緒に考えて、育てていきましょうという段階にあります。また逆に、新しい技術が生まれると、悪用されることを心配する声もあります。実際に、量子コンピュータにおいても、パスワードを瞬時に解読されてしまうという懸念等も聞かれます。量子コンピュータの技術の進展に合わせて、解読されない技術も進化させていくには、量子コンピュータがどのように動くのかを理解する必要があり、だからこそ今の段階から量子技術に取り組む意義があるのです。


QunaSys COO 松岡 智代

具体的な活用のユースケースを提示することの重要性を感じ、材料科学分野に注力

新しい技術が生まれる時には、量子コンピュータに限らず、「実際にどう活用できるかイメージするのが難しい」といった意見が聞かれます。私たちは未来を見ることはできませんが、量子技術については、20〜30年後には、私たちがこの30年間で携帯電話の開発・普及に伴って経験したような大きな変化が起きると予想されています。


携帯電話が普及した現在から30年前を思い浮かべていただき、どんな生活をしていたか、思い出してみてください。30年後、誰もが携帯電話を持ち歩き、世の中の人々と瞬時に繋がれる時代が来ると予測することは、容易ではなかったのではないかと思います。もし皆さんがタイムマシーンに乗って、30年前に戻れるなら、今の事業の発展のためにどんなことをされますか。どんなアプリを開発するでしょう。またはどのアプリだったら、リリース後にすぐにダウンロードして、使い始めるでしょうか。もし、30年後の今、携帯電話がどのように使われているかを知っていたとしたら、30年前にはどのようなビジネスアイディアを模索していたでしょうか。


20〜30年後に、私たちが携帯電話で経験したような大きな変化が起きると予想されている量子技術ですが、これまではキュービットというコンピュータの情報量を増やすことや、実機を開発するといった量子コンピュータそのものの性能を向上させることが注目されてきました。しかし、それだけでは量子技術がどう使えるのか、イメージするのは容易ではありません。実際に、私たちもお客様と対話を続けていく中で、具体的なユースケース(使用例・実用例)を提示することの重要性を感じていました。


量子コンピュータが特に役に立つと想定されている分野は、化学・製薬・金融など多岐にわたります。その中でも、材料科学は量子コンピュータの活用が近い将来に期待されており、投資効果が最も高いと言われています。私たちは創業当時から、材料科学に注力し、量子コンピュータが使えるように、企業と共同開発を行ってきました。


QunaSys リサーチ事業部 事業開発 大坪 聡恵

SDGsの達成を量子技術で実現できるとしたらという考えから生まれた、社会貢献のための量子技術活用の取り組み「SDQs」

量子コンピュータに期待されていることの事例として、良く挙げられるものに、窒素固定があります。窒素固定とは、大気中に存在する窒素分子をアンモニアや硝酸塩に変化させる工程のことを指します。肥料を人工的に作るには、大量のエネルギーが必要で、現在世界の2%程度のエネルギーがこの工程に使われています。自然界では、このような莫大なエネルギーを消費せず、大気中の窒素をアンモニアに変換する工程が確認されており、その機序を解明し、同程度のエネルギー利用をもって大気中の窒素をアンモニアとして利用可能な形にすることができれば、世界のエネルギー消費の削減とともに十分な肥料を生成することができるので、食糧不足に貢献し、食糧で争わない世界を実現できるかもしれません。


このように量子技術を世界が抱える問題を解決するために使えたら、どんなにいいだろうか、そのために私たちは何ができるだろうかと、社内で意見を出し合ったのが昨年の社内合宿でした。量子技術でできることを、少しでも自分ごととするために、一緒に取り組む意義を感じてもらえるために、世界が抱える問題をわかりやすく定義するのであれば、SDGsではないかという閃きが社内で生まれました。ちょうど日本でもSDGsへの貢献を考える企業が増えてきた頃でしたので、企業が目標とするSDGsの達成を、量子技術で実現できるとしたら、どんな分野があるかをともに探索できないだろうかと考えたのです。そこで量子技術とSDGsを繋ぐSDQs(量子技術が貢献できる可能性のある持続可能な開発目標)というアイディアが生まれました。

投資効果を明確に示すことで、賛同してくれる企業が増加

合宿でこのアイディアが出た時には、冗談半分で考えていたところもあったので、コンサルティング企業の方々をはじめ、各社からお話を伺い、様々な企業へ提案できるようにブラッシュアップしていきました。その中で私たちがこだわったのは、量子技術に今投資をすると決めた企業に対して、その投資効果を数値化して明確に示すことです。量子はなんだかすごそう、SDGsに取り組めるなら良さそうというふわっとした感覚だけでは、企業が投資を決めることは難しいと思ったので、この点にはこだわりました。ありがたいことに、SDQsのアイディアに賛同してくださった企業が、スポンサーやメンバー企業となってくださいました。特に、企業にとっては、解決したい課題や問題があるものの、それを技術的にどう解決できるかがわかりにくい一方で、私たちは科学技術でできることを、どう社会問題の解決に役立たせることができるのかを模索していました。SDQsはそんな企業と量子オタク集団の私たち双方が同じ未来を見つめることができるコンセプトとして、企業と私たちとを繋ぎ、社会の課題と技術を繋げるための対話のきっかけを作ってくれたと思います。立ち上げたばかりのプロジェクトではありますが、早々に支援してくださる企業が増えてきています。また、海外の団体とも連絡を取り合っており、グローバルにこのプロジェクトを展開できるという確かな手ごたえを感じています。


量子技術に興味を持ってくれた方々とともに、この技術を一緒に育てていきたい

量子コンピュータってなんだかわからないという方も多いと思いますが、この記事を読んでいただき、今から量子コンピュータに取り組む意義やメリットを感じていただけたら嬉しく思います。量子技術に興味はあるけれど、どこから始めたら良いかわからない方には、ぜひSDQsへの参加をご検討ください。まだ歩き始めたばかりのよちよち歩きのこの技術を、一緒に大切に育てていければと思います。





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