選択肢を準備し、「すべての人が共存できる空間づくり」を実現したい。視覚障害者用歩行誘導マット「歩導くんガイドウェイ」の開発ストーリー
日本でも有数の「ものづくりのまち」として知られる大阪府八尾市に本社を構える錦城護謨(きんじょうごむ)株式会社。
創業87年を誇る同社は家電製品のゴム部品製造において業界で高い国内シェアを誇り、土木事業においては2025年開催の大阪・関西万博の会場地 夢洲の地盤改良工事にも携わっている。
そんななか、2007年からバリアフリー推進課として力をいれているのが、ゴム製の視覚障害者用歩行誘導マット「歩導くんガイドウェイ」だ。
点字ブロックが日本発祥であることからも、日本の屋外用誘導路の普及率は世界でもトップクラスと言われている。しかし、公共施設や商業施設など、人々が行き交う動線が複雑である空間においては誘導路が「受付まで」に留まるケースが多い。
そこで活躍するのがゴム製マットの「歩導くんガイドウェイ」である。
私たちがよく知っている黄色く硬い素材の「点字ブロック」や、ステンレス製の鋲(びょう)が打ち込まれたタイプの「誘導用マーカー」とも異なる、ゴム製の誘導マット「歩導くんガイドウェイ」がもたらす効果とは。
今回は、誕生ストーリーとともに製品に込められた想い、そして錦城護謨が掲げる「すべての人が共存できる空間づくり」について詳しくご紹介します。
(左上より時計回りに)代表取締役社長:太⽥、ソーシャルイノベーション事業本部バリアフリー推進課 コンテンツ制作・SNS担当:横内、同課 課長:小山、同課 コンテンツ制作・SNS担当:増田
屋内での不自由を実感し、全盲の考案者が生んだ歩行支援マット
2007年にお客様からのご紹介で、ゴム製の視覚障害者用歩行誘導マット「歩導くん」を考案された方にお会いしました。その方は60歳になられたとき後天的な理由で全盲になられ、病院をはじめとしたあらゆる屋内移動において、“屋内に誘導路がないことで自分ひとりで行きたいところにいけず、不自由さを実感した”といいます。
誘導路が「受付まで」に留まるケースが多い
点字ブロックの限界を超えて、誰もが使いやすい「歩導くん」開発
この問題は、従来の点字ブロックを設置すれば解決されるように思われます。
しかし凹凸のある点字ブロックの場合、車いすや移動式ベッド、ベビーカーでのスムーズな移動を妨げる可能性があるため、施設によっては設置ができないところもあるのです。そこで視覚障害当事者でもある考案者は、「視覚障害者に限らずどんな方でも使いやすい製品なら、より多くの施設に誘導路を設置してもらえるのではないか?」という考えから、視覚支援学校や障害者協会などの協力のもと、ゴム製の視覚障害者用歩行誘導マット「歩導くん」を開発されました。
錦城護謨の全国ネットワークを活用した販売支援
考案者のお話を伺い、錦城護謨としてもぜひ歩導くんのある社会を共に作っていきたいと思ったものの、ゴムマットの製造企業はすでに決まっていました。そういったなかで私たちがご一緒にできることが、全国の営業所を活用した販売支援でした。
代表取締役社長:太⽥
一歩ずつの進展。「歩導くん」が開いた新たな可能性
まずは土木事業繋がりでご紹介いただいたお客様や、地元の視覚障害者団体、市役所、東京23区の区役所、金融機関など、視覚障害者が使われる公共機関を中心にアプローチしました。
当時は従来の「点字ブロック」しか知られていないからこそ、点字ブロック以外はダメという認識があり、「ゴム製の誘導マット」の必要性を感じていただけませんでした。
そのほか、
「法令に記載がないから採用できない」
「ほかの地域が採用したら考える」
といった製品の良し悪しではないところで苦労する場面が数多くありました。
展示会での様子
それでも地道に一ヶ所ずつアプローチをしていき、2015年には大手金融機関 全店での採用が決まり、大きな転機となりました。
マイナスイメージだけを残して終わらせない。失敗から生まれた「歩導くんガイドウェイ」
喜びも束の間、設置をした金融機関から数年後、想定以上の通行頻度による汚れや摩耗によって、全店撤去のご連絡がきました。お客様にはご迷惑をおかけしたものの、当事者のニーズや全店採用を決めてくださった担当者さまのことを考えると、製品のマイナスイメージだけを残して終わらせるわけにはいきません。
そこで、一年で改良を加えた製品を作り全店交換するお約束をし、自社でもゴム製マットを開発することになりました。それが『歩導くんガイドウェイ』です。
『歩導くんガイドウェイ』設置時の様子
そこからは待ったなしです。約半年間で製品改良を行いました。
錦城護謨が製造するゴム製品は、家電メーカーの製品部品などに多く使われ、他の製品を”陰で支える"存在です。身近なところでは、炊飯器や洗濯機、魔法瓶などに使われている“パッキン"が代表選手で、家電関係のゴム部品製造において高い業界シェアを誇ります。
製品改良の裏側、『歩導くん』の更なる進化
主に、幅・素材・色の3点に改良を加えました。まず、歩行者の肩幅を想定した44cm幅から、点字ブロックと同じ30cm幅に変更しました。これにより、視覚障害者が点字ブロックを利用する際と同じ動きになります。また点字ブロックと併用した際にサイズの統一感があり、より調和するようになりました。
(左)幅を点字ブロックと同じ30cmに変更 (右)点字ブロック・誘導用マーカーと併用した際の様子
次に素材は、ハードな使用にも耐えうるゴムの種類と硬度の組み合わせを検証しながら決定しました。そのほか、屋外や屋内に移動した際の水の付着や、掃除時にも滑りにくくする表面加工も特徴です。
表面に突起物がなく、なだらかなで躓きにくいスロープ形状。両端の薄さにも注目
最後に色は、視覚障害者の多くを占める「弱視」の方でも視認しやすい、床や空間との彩度・輝度比をとった6色を採用しました。
また、あらゆる空間での「バリアフリー環境の整備」を促進するためにも、建築・設計関係者にとって“空間構成とバリアフリーの調和”も実現できるカラーバリエーションを心がけました。
左)サンプルのミニチュア版『歩導くんガイドウェイ』右)カラーは6色展開(マンゴーイエロー、スモーキーイエロー、スモーキーピンク、スモーキーブルー、チャコールブラウン、チャコールグレー)そのほか、受注生産にて特注色の製造可能
そのほかこの半年間の改良期間に歩行テストを重ね、側面のなだらかな傾斜の調整や、白杖で叩いたときの音や当たり心地、足裏から伝わる感触の微調整など、ゴム成形には欠かせない「金型」を何度か作り替えながらベストな製品を作りました。
ピクトグラムで広がる「歩導くん」の可能性
定番のピクトグラムから16ドットでの漢字•ひらがな•カタカナの表現が可能
以上の改良を加えたことで、高いデザイン性と機能性を評価いただき、これまで以上に採用いただく確率が上がりました。
そのほか、ドットでの文字表現や矢印、トイレマーク、インフォメーションマークなどが作成できるピクトグラム(絵文字や矢印の表示)を採用したことで、ユニバーサルな視点もさらに加わり、導入実績の増加に繋げることができました。
空間に溶け込み、当事者の方をサポート
余談ですが、お客様(施設管理者)から設置場所に関するお問い合わせがあったとき、「よく通る場所なのに、貼ってあることに気づきませんでした!」と言われることがあります。当事者の方にはガイドとしてご利用いただきつつも、まさに空間に溶け込む存在になっていることを感じます。
コンテンツ制作・SNS担当:横内
全ユーザーの声を形に、歩導くんの包括的アプローチ
視覚障害者といっても、個人によって使い心地の感想は全く異なりました。
だからこそ、展示会など不特定多数の方に体感していただき、いろんな意見を伺い改良を重ねました。
そのほか、硬度や厚みに関する測定や歩行調査、ヒアリングの実施などを、大学や研究機関、民間企業とともに実施しています。これは利用者の声を集めるだけでなく、導入を検討される方への理解を深めるためでもあります。
※出典:障害者モニターによるミライロ・リサーチ調べ(「点字ブロック」と「誘導ソフトマット」の併用に関する調査より)
実際に、視覚障害者と車いすユーザーを対象とした当社製品の利用調査を実施し、視覚障害者の76%、車いすユーザーの95%から高い評価を得ました。(※)
一方で点字ブロックの評価は、視覚障害者のなかで低評価をつけた人はいない半面、車いすユーザーは65%が低評価をつけました。
これは決して、点字ブロックに比べ誘導マットが優れていることを示すわけではありません。
歩導くんガイドウェイによって、これまで屋内誘導路を設置しづらかった場所に導入を促進し、視覚障害当事者が安心して移動できること。
そして、車いす利用者・肢体不自由者・高齢者やベビーカーをお使いの方まで、『すべての人が共存できる社会』をつくる手段として歩導くんガイドウェイが有効であることを表しています。
視覚障害の理解を促進するインクルーシブコンテンツの拡充
コンテンツ制作・SNS担当:増田
コロナを契機に販売訴求だけでなく、福祉や視覚障害全般への理解を高めていただくウェブコンテンツを増やしました。
実は入社以前、私自身が目の病気を持つことから、視覚障害に関するウェブメディアを立ち上げ「歩導くんガイドウェイ」についてインタビューをしました。
インタビューをしたいと思ったきっかけは、これまで福祉関連の展示会に何度も行ってきましたが、福祉支援機器の機能だけでなく、社会全体の利用を考えた製品に初めて出会ったからです。また、福祉と異なる業種の錦城護謨が製造・販売をしていることに興味をもち、詳しく聞いてみたいと思いました。
そんな経緯もあり、入社後は福祉や視覚障害全般について多くの方に知っていただき、施設管理者、建築・設計関係者、利用者それぞれのニーズにお応えできるコンテンツ制作をしています。
例えば「一緒に学ぼう」ページでは、まだ知識や関心のない方へ、短い文章で身近にわかりやすくお伝えすることを心がけています。
一方で「ケース別困りごと解消」ページでは、公共・民間施設、イベント利用、障害者雇用の促進、CSRやSDGs推進のためなど、お客様それぞれの目的と立場に寄り添った誘導マットがお役に立てる具体的な解決方法をご紹介しています。
歩導くんガイドウェイを導入することは、お客様にとって安い買い物ではありません。だからこそ全国1,000か所以上での設置実績(※)をもとに、施設運営の「お客様の声」や「推薦者の声」を参考にしていただければと思います。
※設置実績( https://guideway.jp/settijisseki/ )同社調べ
選択肢を提供する。「歩導くんガイドウェイ」の役割と使命
ソーシャルイノベーション事業本部バリアフリー推進課 課長:小山
2020年東京オリンピック・パラリンピック開催決定やSDGsの浸透を契機に、インクルーシブな風土を作る社会の流れが生まれました。そんななか、私たちは「すべての人が共存できる空間づくり」のために選択肢を準備することが大事だと考えます。
歩導くんガイドウェイがあれば、同行援護の助けがなくても、当事者の方が自由に歩ける「選択肢を準備する」ことができます。
また、高齢化率の上昇に比例して緑内障や加齢黄斑変性・白内障といった後天的視覚障害者人口も、2016年の31万人(※1)から2030年には200万人に増加する(※2)と言われ、私たち一人一人が自分ごととして考え行動する時代になりました。
※1 「平成28年生活のしづらさなどに関する調査(厚生労働省)」
※2 出典:日本眼科医会研究班:日本における視覚障害の社会的コスト.日本の眼科 2009; 80(6): 付録
「インクルーシブをシンプルな表現でデザイン」した製品と評価され、iF DESIGN AWARD 2016、German Design Awards 2018、IDEA 2019といった世界的なデザイン賞を数多く受賞しています。
現在は、国内での導入のみならず海外展開への準備も進めています。
歩導くんガイドウェイは、障害の有無・世代や言語の違いなどに関わらず、共に使える「共用品」であり、屋内のあらゆる施設に設置できる「自由度の高さ」が特徴です。
職場につけた!スポーツ大会で使った!など、身近なところから使っていただき、「歩導くんガイドウェイがある分だけ世の中が良くなる」そんな輪が広がっていければと思います。
「何か取り組みたいけれど、何からすればいいかわからない」そんな方は、まず歩導くんガイドウェイから始めてみませんか?5年・10年・100年先の空間を考えたとき、どんな未来であるべきか。時間軸を伸ばした考えをご一緒していけたらと思います。
■公式サイト
■電子版パンフレット
https://guideway.jp/pdf/siyou/Guideway.pdf
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