SNSの活用と仏教のイメージを大きく変えた「現代のお坊さん」。出版本から垣間見える現代人の悩みを読み解く。
#仏教の教え #出版ストーリー #SNS
2023年7月に『君と僕と諸行無常と。TikTok僧侶の幸福論』(徳間書店刊)を上梓した曹洞宗雲門寺の僧侶 古溪光大(ふるたに・こうだい)。
YouTubeの「般若心経 現代語訳 Rapしてみた」では10万回再生を突破し、インスタやTikTokでは仏教の教えやお経の解説、また現代の若者たちの恋愛や人間関係、人生についての悩み相談を展開しています。そうしたSNSのコメント欄には、古溪さんの温かくそして力強い言葉の数々に、「心に刺さる」「涙が出た…」との感動の声があふれています。ここでは古溪光大さんがSNSを通して行う活動の意図や出版した経緯などを伺いました。
現代の人の心に響いた、「短い、楽しい、分かりやすい」仏教の教え
古溪さんのTikTokやインスタで仏教の教えを展開しています。それは格式ばったものではなく、「恋愛」「家庭環境」「学校のいじめ」など現代人の身近な悩みに対し、仏教ではどうとらえて、どう考えるかを現代の言葉でわかりやすく解説しています。それが話題を呼び、半年で8万以上のフォロワーが集まりました。一見、「仏教」と聞くと「つまらなそう」「辛気くさい」といった印象を抱く人も多いかもしれませんが、古溪さんのリズム感のある軽妙な語りにより、現代を生きる人たちに新鮮な言葉として届いています。
「TikTokのフォロワー数の伸びは驚きですが、それだけ悩みを抱える人が多いのですね。実は、仏教の教えのほとんどは人の悩みや苦しみを和らげてくれるもの。仏教は2000年以上前のお釈迦様の教えですが、人間がこの世に生まれ、死を迎えるまでの人生の辛苦は、2000年前の人も、現代人も変わりません。どんなに科学が発展し、文明が進歩して便利な社会となっても、人間の営み自体は基本変わりません。僕自身も仏教を学んでいると、新たな気づきを得られますし、悩みに対してストンと心に落ちる教えがたくさんあります。改めてお釈迦様ってすごいなあと感じています」。
古溪さんは仏教の難解な用語を現代語に訳し、「現代のお坊さん」としてTikTokで発信したり、YouTubeで般若心経をラップにして配信したりと、仏教の教えを「短く、楽しく、分かりやすく」伝えています。
「TikTokerやYoutuber側から見れば、お坊さんは目新しいのかもしれませんが、仏教の教えを広めるという観点から見ると、昔のお坊さんたちもその当時の最新技術や伝達ツールを駆使して普及活動をしていたんですよね。昔のお坊さんたちも歩いて普及活動をする一方で、書物に残したり、仏像や仏閣などひと目見てわかる形で仏教の教えを伝えていました。現代に生きる僕はTikTokやYouTubeなどのSNSを使ってみなさまにお伝えしています。それは当然のことであり、僕にとって単なるツールに過ぎないのです」。
メディアを通した活動が、縁を呼ぶ
2023年7月に古溪さんにとって初めての著書『君と僕と諸行無常と。TikTok僧侶の幸福論』を出版しました。最近ではYoutuberやTikTokで活躍している人が書籍や写真集を出版する例も少なくありませんが、古溪さんもそうした例に漏れず、出版社の目に止まったのでしょうか。
「いやいや、僕の場合はSNSを始めたばかりの新参者で、それほど目立っていたわけではありません。いつかは本を出版したいとは頭では想像していましたが、こんなに早く実現するとは思いませんでした。これは本当に縁としかいえません」。
その縁の始まりは1年ほど前に遡ります。地方のローカルFMラジオであるFMさくだいら(長野県)の番組『服部政行の愛こそすべてさ』に、古溪さんはゲストとして声がかかりました。このラジオ番組はミュージシャン・服部政行さんがMCを務める生トーク&ライブ番組です。古溪さんにとって初めてのラジオ出演でしたが、軽快なトーク、即興ラップなどを披露し、大いに盛り上がったそうです。そしてその番組に出版社で編集者経験のあるフリーエディターの鹿ノ戸彩さんもゲスト出演しており、意気投合。鹿ノ戸さんいわく、「古溪さんはどの瞬間を切り取っても絵になる存在感で、『ただ者じゃない感じ』をヒシヒシと感じた」といいます。
「僕も鹿ノ戸さんとお話しする中で、妙に波長が合って楽しかったですね。それまではラッパーとしてイベントなどに呼ばれることも多かったのですが、そのころからどちらかというと、『仏教を身近に』といった僧侶としての活動に力を入れ始めた時期でもありました」。
鹿ノ戸さんは古溪さん自身のキャラクターもあいまって、言葉に説得力があり、心に届くパワーがあると感じたといいます。着実に数字を伸ばしているTikTokもわかりやすく、多くの人をひきつける“パワーワード”が多く、「このまま文字起こしするだけでも、本になるのでは」と感じ、以前からお付き合いのある出版社に企画を持ち込みました。
「童話の『わらしべ長者』のように、あれよあれよという間に話が進みましたね。ラジオ出演から書籍出版まで、まさに縁が縁を呼ぶことを体感しました。そうした場を与えていただいたことに感謝しかありません。でも、そうしたことも元を正せば、自分自身でSNSを通して活動していたからこそだと思います。縁は待つだけではやってきません。縁を持つには自分が相手に何を与えてあげられるか――。世の中の関係は、ギブアンドテイクでできています。だからこそ、得るばかりを考える人より、与えることのできる人が、真の幸福を得ることができると思うのです」。
古溪さんにとっては、イベントやラジオ出演、書籍の出版も、『仏教を知ってもらいたい』『悩みや憂いを少しでも軽くするお手伝いをしたい』という思いをのせる、ツールに過ぎません。だから、ぶれずに多くの人たちの心に届いているのでしょう。古溪さんの書籍を出版した編集者も「小説などのフィクションの本と違って、ノンフィクションの本を出版する場合、それで満足してしまう著者も少なくありません。ただ、それだと書籍の売上も伸びないもの。古溪さんのように書籍の出版は自身の活動の一環としてとらえ、さらなる活躍につなげていくことで、それに比例してロングに売れていきます。事実、『君と僕と諸行無常と。TikTok僧侶の幸福論』を出版後は、雑誌やラジオ、WEBなどの取材依頼が多数寄せられています」と語ります。
悩みも挫折も、いつかは自分の財産となる
古溪さんは毎日のTikTokの配信のほか、個人の悩み相談を聞くLINE説法も行っています。これはLINEのチャット機能を使って、個人的な悩みや相談を聞き、それに対してお釈迦様の考え方や仏教の教えを照らし合わせてフォローしています。
「僕自身はまだ勉強中のお坊さんですが、悩みを抱える人の拠りどころになりたいと思って始めました。悩みはまさに千差万別で、他人から見ればこんなことで悩んでいるのと思うことでも、本人にとってはそれこそお先真っ暗に感じてしまうことも多い。それに対して否定したり、無理に答えを出すのではなく、まずはそうした声に耳を傾け、聞いてあげることが大切だと思うのです」。
古溪さんのLINEには老若男女、恋愛や親子関係、仕事や進学などあらゆる悩みが届きます。ただ、実際の問題はそうした悩み自体ではなく、心のもちようだと古溪さんは語っています。
「同じ悩みでも大きな問題ととらえる人もいれば、悩まない人もいます。すべてその人の心次第なんですよね。だから、その悩みをどうとらえるか、どのように考えるかを仏教の教えをもとにお話しします。僕自身も幼い頃からより、寺の跡継ぎであることに絶望を覚えましたし、中学受験に失敗して挫折を経験しました。今の自分から見ると、なんでそんなことに悩んでいたのかと思いますが、当時はそれが自分全身を覆っていましたからね。自分の未来や可能性など考える余裕もなく、閉ざされているように感じていました。僕に悩み相談をする人も、同じような感じなのだと寄り添ってあげたいと思っています」。
古溪さんは大学では経済学部に進み、一般企業に就職。僧侶とはかけ離れた世界で生きてきました。しかし、とあるきっかけで会社を辞め、仏道に入り、今ではTikTokで情報発信をしたり、東京・四谷の「僧侶バー」のカウンターに立ったりしています。
「僧侶になることを嫌がっていましたが、実際に一般企業に勤め、営業職として働くと『人のため、社会のために』ということにやりがいを覚えました。ただ、一般企業では人や社会とのつながりを得られますが、商品を通しての一部の人だけと感じてしまったのです。そしてある時、僕には僧侶の道があるではないかと気づき、退職して仏門を叩きました。自分が本当にやりたかったことは、実は一番身近にあったのです。あんなに敬遠していた僧侶こそが、自分が選択すべき道なのだと。それまで遠回りしたと思います。ただ、そうした経験は無駄ではありません。一般の大学での学びや社会人としての経験は、僧侶としてみなさまの相談にのる際にも僕の大きな財産となっています。みなさまも傷ついたり、挫折を味わったりと辛いこともあるでしょうが、その経験がきっと生かされることになるはず。だから、一時の感情で人生を棒に振ることだけは避けてほしいのです」。
人生には正解がありません。しかし、多くの人が答えを求めます。古溪さんの活動は、人生や運命はわからないものだからこそ、それを受け入れ、少しでも楽しく幸せに前を向いて生きていってほしいとの願いが込められています。古溪さんは語ります。
「つらい時は誰かに頼ってもいいし、泣いてもいいんです。ただ、そうした行いは明日の元気や笑顔としてつなげてほしいですね」。
大丈夫。あなたは絶対大丈夫。
今までつらくても生きてきた。
幾度も立ち上がり涙を拭いてきた。
あなたは強い。生きる力がある。
この世の苦行に耐え、人にやさしさを与えて
ちゃんと生きてきたじゃないですか。
これからもきっと、なにがあっても
あなたは、絶対大丈夫。
(『君と僕と諸行無常と。TikTok僧侶の幸福論』より)
古溪光大(ふるたに・こうだい)
1994年、龍我山雲門寺の後継ぎとして⽣まれる。
中央大学経済学部卒業後、帝人株式会社入社。ヘルスケア部門にて4年間勤務した後、退職。2021年2月より1年3カ月間、大本山永平寺にて修行生活を送る。帰山後、「仏教をもっと身近に感じてもらいたい」との思いから、TikTokに仏教や人生について語る動画の投稿を開始したところ、幅広い層から⽀持を受け話題に。半年足らずで8万以上のフォロワーが集まり、その数を増やし続けています。活動の⼀環として制作した「般若心経 現代語訳 Rapしてみた」は、YouTubeにて10万回再生を突破しました。
現在のビジョンは「僧侶が個性や才能をいかせる仕事と寺院運営を両立できる世界をつくる」こと。僧侶、TikToker、ラッパー、起業家として、既存の枠にとらわれることなく仏教界に新しい風を吹き込もうと日々活動中。
公式サイト:https://www.furutanikodai.com/
書名:君と僕と諸⾏無常と。TikTok僧侶の幸福論
著者:古溪光⼤
定価:1980円(税込)
刊行年:2023年8月
ISBN:978-4-19-865650-8
判型:四六判
ページ数:200ページ
商品ページ:
【徳間書店】
https://www.tokuma.jp/book/b630347.html
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