世界の暑熱課題に挑む放射冷却素材「SPACECOOL」開発秘話
SPACECOOL株式会社は、世界最高レベルの放射冷却素材「SPACECOOL」を開発・販売する日本発のディープテック・スタートアップ企業。SPACECOOLは、直射日光下において太陽光と大気からの熱を95%以上ブロックし熱吸収を抑えるだけでなく、放射冷却の原理により95%以上の熱を宇宙に逃がすことで、ゼロエネルギーで外気より温度低下することが可能な世界最高レベルの放射冷却性能を有する光学フィルムです。
SPACECOOLフィルム イメージ図
今回、放射冷却素材SPACECOOLの開発者であり、SPACECOOL株式会社のCTOである末光真大(すえみつまさひろ)に、SPACECOOL誕生に至るまでの数々の困難や、今後の展望を語ってもらいました。
SPACECOOL創業と、放射冷却素材実用化までの道のり
SPACECOOL株式会社 CTO・末光真大
私は2012年に大阪ガスに入社し、2013年から熱輻射という物を温めたときに出る光をコントロールする光工学分野の研究を開始しました。
この研究の知見を活かし、熱を地球上から発散させることができれば地球温暖化対策の一助になるのではと考えたことから、2016年に放射冷却素材というコンセプトを思いつき、2017年にテーマ化をして現在に至っています。
放射冷却素材によって日中でも外気温よりも対象物を冷やせるという原理実証結果はすぐに出ました。ただ、そこから量産化するフェーズで苦労する部分が多くありました。というのも、その原理実証はガラスのようなとても割れやすい素材で行っていたため、そのままだと、建物や電送機器などを冷やすために実用化することが非常に難しかったのです。そのため、しなやかであり、対象物に貼付することができ、しかも耐久性があるという3つの要件を満たした素材の開発を実現する必要がありました。
私が当初研究していた光学設計を活用しながら、この要件を満たして量産化する手法を編み出すことに膨大な時間を費やしました。
私は光工学の知見しか持っていませんでしたので、材料工学や、量産化の経験などほかの分野の専門性を持った社内外のキーパーソンの力を借りながらようやく今のような実用化に至りました。
放射冷却技術イメージ図
とはいえ、ここまでの道のりは簡単ではありませんでした。当初大阪ガス社内から、放射冷却という技術に対してかなり懐疑的な反応をいただいておりました。確かに、電気を使わずに冷えるなんて言われても、信じがたいですよね。それでもこの技術はかなりイノベイティブなものであると私は信じていたので、社内で実証試験を重ね、実際に開発した素材を1人1人に触ってもらうことで、時間をかけて認知度を向上させていき、皆さんに納得をしていただくことができました。
そのような中、この放射冷却素材という新技術をより速く市場に浸透させ、世界中の暑熱課題を解決していきたいという想いから、2021年にスタートアップ企業としてSPACECOOL株式会社を創業するに至ります。
ちなみになぜ「SPACECOOL」という名称になったのかというと、皆さまに覚えていただきやすい簡単な名前にしたかったというのと、「宇宙(SPACE)」に熱を逃がして「空間(SPACE)」を冷やすという2つの意味がかかっています。
フィルム形状の採用により、様々な物へ放射冷却機能を与えることが可能に
ただその後も決してビジネスが順調に進んだわけではありません。創業後も苦労はありました。
先ほどもお話しました通り、当初はガラスのような素材だったのですが、研究を重ねて多層構造のフィルムとなりました。ただガラスに比べて使い勝手は良くなりましたが、対象物に貼り付けることもできませんし、ちぎれやすいものでもありましたので、いかに使いやすくするのかという、利活用の開発を行っていくことになります。
お客様がSPACECOOLを対象物に貼り付けることを前提とすると、フィルムに粘着剤が付いていれば使いやすいだろうと考え、最適な粘着剤の開発も行いました。また、貼り付けるのではなく、カバーやテントのように対象物を覆うというシチュエーションも考えられますので、膜材料の形状のものも開発しました。「貼り付ける」と「覆う」、この2つのソリューションを持っていると、ほぼ全てのものに放射冷却機能を与えることができると考えました。
今では、フィルムの耐久性を上げたり、構造設計を変えたりというマイナーなチューニングを行っていくことで、フィルムであれば不燃認定、膜材料に関してはB種不燃認定や防炎認定という建築基準に必要な認定を取れるまでに成長をしています。
SPACECOOLを使用したテント
また、お客様に提供していく中で、色々なお声を頂いています。たとえば、自動車に貼る初心者マークのようなマグネット形状であれば貼り付けがもっと簡単になるのにというお声から、マグネットシート形状のSPACECOOLを開発し、23年7月に販売を開始しました。
また、パートナー会社様とともにルーフシェードというSPACECOOLを施工した屋根をローンチしたりと、お客様の声に耳を傾けながら、ニーズに沿った利活用方法を探索しております。
SPACECOOLマグネットシート ルーフシェード
新技術への懐疑的な反応を打開したのは、熱暑課題を抱える企業と連携した実証実験
今でこそポジティブなお声をいただくのですが、当初はここにも苦労がありました。
先ほどお話した大阪ガス内でのリアクションと同じで、放射冷却技術に対して懐疑的な反応をするお客様が多かったのです。光工学という聞きなれない学術から生まれた技術ですので、その原理をどう簡単に説明し、理解いただくかということに頭を悩ませました。
さらに、理解していただいたとしても、今度は使い方を想像できないというお声も多かったです。
それを解決するために、こちらが実証試験の内容を提案し、お客様のところに伺って温度計測やデータ解析を行うという丁寧なアプローチをしながら、いかに既存のものとは異なる性能を持っているのかという実感をしていただくということを繰り返しました。そのような取り組みを数十案件同時並行で行うのは、マンパワーが少ない中ですので非常に大変な作業でした。
また、暑熱課題があるということを認識されていなかったり、同じ会社の人でも、人によって暑熱課題への認識度が異なるということも多いのです。たとえば、現場の担当者は暑熱課題を認識しているが、現場を知らない企画担当者はそれを認識していないということが多々あります。しかし、我々が対話しないといけないのは企画担当の方であることが多く、彼らに啓蒙するという作業も大変です。
COOL分電盤(三井ショッピングモール ららぽーと門真 屋上にて撮影)
その観点から我々は、暑熱課題を認識されているパートナー会社を探すところからスタートしました。たとえば、竹中工務店様、セイリツ工業様との共同開発商品で、SPACECOOLフィルムが最初から施工されているCOOL分電盤というものがあります。この2社は、屋外の電送機器が、直射日光による機器内の温度上昇が原因で故障するという暑熱課題を認識されており、少しでも良いから温度を下げたいという明確なニーズを持っていたことから、SPACECOOLの有用性を理解いただけるのではと考え、実証試験を行う提案をしました。
実証試験の結果としては、10℃近く屋外機器内の温度を下げることができ、SPACECOOLの効果を十分に実感いただけたことで採用に至りました。このように、暑熱課題を感じているお客様との連携が今の事業成長に大きく繋がっていると感じています。
COOL分電盤に限らず、SPACECOOLフィルムを施工した分電盤の台数は、全国250台以上にのぼっておりますし(23年7月時点)、2025年大阪・関西万博のガスパビリオンでもSPACECOOL膜材料の採用が決まっており、皆さまがSPACECOOLに触れる機会はどんどん拡大しています。
ガスパビリオン 建物デザインイメージパース ※日本ガス協会提供
日本から世界の熱暑課題に挑み続ける
皆さんご存じのとおり、昨今、地球温暖化が急激に進行しています。CO2削減のような地球温暖化への「緩和策」だけでなく、止まらない地球温暖化に対して人類がどのように対応していくのかという「適応策」を考えることも重要です。SPACECOOLはこの2つのどちらにも繋がるソリューションを提供できる素材だと我々は考えています。
「緩和策」ですと、たとえば屋外機器の1つであるコンプレッサーが21年の夏だけで6回もトリップ(電流の異常により機械が停止すること)をしたという案件がございました。そのお客様にSPACECOOLを導入していただくことで、22年には一度もトリップをしなかったという報告をいただいています。「適応策」でいうと、イベント会場のテント膜にSPACECOOLを使用することで熱中症対策をすることが可能で、環境によっては普通のテントと比較して体感温度を10℃下げることもできます。
このように、SPACECOOLは地球温暖化に対する様々なアプローチを実現できる、これからの時代になくてはならない素材となっていくことでしょう。
また、当然のことながら、中東や東南アジアなど、日本よりも暑熱課題を抱えている国はたくさんあります。我々は、日本で積み重ねた実績をもって、世界中の「人、モノ、社会」に起因する暑熱課題を解決していくことに挑み続けます。
お知らせ
SPACECOOLをお手軽にご購入いただけるSPACECOOLオンラインショップを開設しました。ぜひ一度お試しください。
販売商品の1つ、SPACECOOLフィルムトライアルキット
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