定年退職した高校の校長がベンチャー企業へ。その決断に込められた思い
2023年4月から教育系ベンチャー企業・株式会社オーナーの一員となった、菅野定行。宮城県の公立高校の校長を定年退職し、株式会社オーナーに加わった。校長からベンチャー企業へ。まさに前例のない決断の裏には、どんな思いがあり、なぜ株式会社オーナーを選んだのか、菅野の思いに迫った。
校長として探究的な学びを推進
菅野は37年間、国語の教師として、宮城県の公立高校に勤務した。進学校での勤務も長く、フェンシング部の顧問としても全国大会に導いた実績を持つ。菅野が長年生徒や職員と接する中で意識していたのは「指導よりも支援」。社会に出た後に目の前の課題を把握し、主体的に自己決定ができる人物を育てるためには、教え導くことよりも寄り添い支援する方が適切だと考え、進学指導や部活動の指導に当たってきた。
最後の5年間は石巻西高校の校長として勤務した。赴任1年目、文部科学省「地域との協働による高等学校教育改革推進事業(地域魅力化型)」の公募に応募した。見事採択され、2019年度から関係自治体や大学、地域NPO等とともに協働的な教育活動を展開した。震災からの復興を目指す石巻地域で意欲的かつ主体的に活躍できる生徒を育てようとの思いで学校づくりに努めてきた。
探究的な学びを柱にカリキュラムを構築し、特に6つの力が生徒に身につくことを目指した。具体的には次の6つの力である。
① 地域・社会貢献意欲
② 自己調整・自己決定力
③ 学び続ける力
④ 自尊感情・達成感
⑤ 対話力・共感力・合意形成力
⑥ 他者と関わる力
そして、その基盤として「学びの土壌づくり」にも注力した。具体的には
①安心安全の土壌(失敗の許容)
②多様性の土壌(個の尊重)
③対話の土壌(本音の尊重)
の3点である。
結果としてこれらの取り組みは生徒・保護者からも評価され、学校評価「高校生活は充実している」項目での肯定的評価は90%を超え、入学者選抜でも地域トップの倍率を誇る学校となった。生徒にとって学びやすい環境づくり、職員にとって働きやすい環境づくりがある程度成功したものと感じた。
なぜベンチャー企業を選んだか
定年退職前最後の1年となった2022年度、菅野は今後のキャリアについていろいろと考えた。公立高校を退職した校長は私立高校や教育関係の外郭団体を第二の職場とする者が多いが、菅野は「学校」とは別のステージで働こうと考えていた。
大学を卒業してから現在まで教員として働き、学校教育に関する豊富な知見を得た半面、「学校以外の社会を知らない」という弱みが常に頭の片隅にあった。地域の社会人と協働的に教育を行うことで、さほど社会を知らない教員が生徒を指導することの限界も痛感した。そのようなことから「学校以外の職場」でも一度は働きたいといった興味も増してきた。加えて石巻西高校で効果を実感した「探究的な学び」の意義を多くの学校に伝えたい、教員時代に獲得した知見を、教育を通して未来の社会をよりよくしたいと考える若手人材に伝えたいとも考えた。
その結果選んだ職場は株式会社オーナー。仙台市に本社を置く創業間もないスタートアップ企業である。創業者の佐々木敦斗との出会いは、石巻西高校の校長時代にさかのぼる。リクルートの「スタディサプリ」というオンライン教材の導入を検討した際、担当者として対応したのが佐々木であった。菅野と佐々木の会話は、教材の活用にとどまらなかった。
「生徒の主体性を育成するには?」、「地域の高校の特色化づくりのポイントは」校長室ではいつもそんな議論が生まれていた。
その後佐々木は独立し株式会社オーナーを創業。その人材募集を見つけた菅野は、高校現場とは異なるステージで高校生の学びに関われるのではという思いで応募を決意した。「一人ひとりが自分の人生のオーナーとして輝ける世界を目指す」というオーナーのビジョンと、石巻西高校で目指してきた学びが、「共通していた」と菅野は語る。
=社内ではインターンとも積極的にかかわる
「探究」のサポーターとして各県の教員研修に登壇
2023年4月から株式会社オーナーの一員となった菅野は、探究学習教材「探究百科GATEWAY」の開発への助言や学校への紹介、高校生のキャリア実現に向けた支援、探究的な学びのプラン設計に関する研修講師等を行っている。2023年度は青森・福島に加えて、東北を飛び出し三重県でも管理職向けの研修を実施。現場実践に基づく具体的な講話やワークショップは多くの教員や教育委員会関係者から好評だ。株式会社オーナーとしてもぜひ全国の教育委員会の方と連携しながら、菅野の講演を全国各地で実施していきたいと考えている。
また、菅野が研修で話している内容についてまとめた教員向けの解説動画を今後
「探究百科GATEWAY」https://education.ownerjapan.co.jp/
上でも見られるようにし、「GATEWAY」を活用いただく学校に提供していく予定だ。
菅野は4月から大学でも勤務しており、石巻専修大学で学長付アドバイザー(高大接続担当)業務に従事している。石巻西高校時代、地域とのコンソーシアム構築で協力いただいた関係で、何名かの大学職員の方々と対話する機会があり、地域の教育を充実させるためには高校と大学の学びを接続させることが効果的であると感じていた。菅野に与えられた任務は高校の学びを大学に伝えること、大学の学びや学生の成長を高校に伝えること等である。
逆に大学に対しても、新学習指導要領に基づいた学びが高校現場でどのように進められているのか、そのような生徒を大学が受け入れる際の留意点や、人口減少を見据えた大学教育の在り方、今後の大学入試制度の在り方などを伝える機会があり、まさに高校と大学をつなげる役目を担っている。 これらの仕事を通して、菅野は各高校の探究活動を充実させたい、高校と大学の学びをつなげたい、探究活動を経験した生徒がより主体的に学びに取り組んでほしい、将来社会において自己決定できる人物へと成長してほしいといった願いを持っている。学力向上や適切な志望校選択にとどまらない、社会で自身の力を発揮できる人物、自己のキャリアを自分で切り開ける人物を育てることを思い描いている。
通信制大学でも学び、探究し続ける
定年退職を迎えもう一つやりたいことがあった。肉体的にも精神的にもゆとりが生まれるこのタイミングに通信制大学で学びたいと考えていた。生徒に学び続ける力を獲得せよと言っている以上、自分自身が学ぶ選択肢もあるだろうとも考えた。専攻は芸術学。美術館に足を運びさまざまな美術作品に触れたとき、その美しさや迫力に素直に感動する場合もある一方、「この作品の価値って何だろう」「この作品から何を感じればよいのだろう」といった疑問を抱くこともある。「芸術と技術の境界はどこか」「なぜ『美』(あるいは『醜』)に惹かれるのか」「抽象芸術が生まれた経緯」といった点にも関心がある。自分自身が感じるその疑問についてじっくりと向き合ってみたいと考えている。
定年退職を機にさまざまな挑戦を行う菅野。校長を定年退職後、大学にも籍を置き、ベンチャー企業に飛び込み、そして通信制大学でも学ぶという彼はまさに株式会社オーナーのビジョンである「オーナーシップ」を体現する存在だ。キャリア実現という“探究活動”に取り組む菅野の挑戦はまだまだ続いていく。
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