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高速道路のトンネル直上70mの崖で岩塊掘削に挑む(大林組-プロジェクト最前線「上信越自動車道(落石対策)北野牧(その1・2)工事」)

著者: 株式会社大林組


群馬県と長野県の県境に位置する、上信越自動車道 松井田妙義ICと碓氷軽井沢ICの間にある北野牧トンネル上部で、現在、世界初となる災害に備える予防保全工事が進んでいる。将来的な落石リスクを排除するため、供用中の高速道路のトンネル坑口直上にそびえる高さ70mの崖面の岩塊約9万5千m³を除去するプロジェクトだ。


今回のプロジェクトは、岩盤掘削のための仮設備工、落石・トンネル対策を行う「その1工事」と岩盤を掘削する「その2工事」の、2つにフェーズに分けられる。大林組は「安全に岩盤を除去する」ための最適な施工計画を検討し、2017年から6年間、壮大なスケールの仮設備の構築、高速道路への落石対策に向けたその1工事を進めてきた。そして2023年2月、いよいよその2工事に着手した。約3年かけて、頂上から下へ掘削・破砕・残土搬出作業を行っていく。


緊急輸送道路と安全の確保

世界初のプロジェクト

1996(平成8)年2月、北海道余市町と古平町を結ぶ豊浜トンネル坑口付近の岩盤が崩落し、20人もの尊い命が失われた。この事故を契機として、国の主導の下、事故発生箇所と類似した坑口斜面の調査・点検が全国で実施された。



上信越自動車道の北野牧トンネル坑口直上にある崖面も、調査・点検の結果に基づいて、グラウンドアンカー打設や落石防護網設置などの対策工事が実施された。その後、継続してモニタリング調査が行われていたところ、グラウンドアンカーの緊張力に増加傾向が確認されたため、改めて地盤工学の専門家による有識者委員会で対応が議論された。


東日本高速道路(以下、NEXCO東日本)は、直ちに岩盤崩落につながる可能性は低いものの、緊急輸送道路としての信頼性の向上や利用者の安全確保の観点から、当該崖面の岩盤を除去する予防保全工事を行う方針を打ち出した。供用中の高速道路に近接する大規模な岩盤掘削工事は前例がなく、世界初の取り組み(※1)である。


※1 世界初の取り組み(自社調べ:2023年8月)

  「供用中の高速道路に近接する大規模な岩盤掘削工事」として

85パターンの施工計画から選定

大林組は、施工計画の検討に2年を要した。「岩盤を除去する」という目的は決まっていたものの、工事の受注時点では施工条件や方法は具体化されていなかったためだ。


施工条件は大きく分けて、高速道路の通行規制条件、防護条件および周辺の環境条件の3つだが、その条件の組み合わせは無数にあった。工事着工に向け、発注者や設計者、有識者委員会などから施工計画への合意を得るために、現場関係者は策定した施工計画以外に84パターンの計画を作成。全てについてリスク評価や工期、工費の算定を行った。


施工条件の組み合わせ決定の試行錯誤を約半年間続け、高速道路の通行規制をできるだけ少なくする、既設構造物を損傷させない、そして仮設備の設置により保安林の地形改変を最小化するという条件を導き出し「安全と工期短縮を両立できる施工計画」を策定。発注者との合意が形成でき、2017年2月、ようやく準備工事に着手した。

準備工事から岩盤掘削完了までの3ステップ

準備工事

安全を第一に考えた落石対策工

本工事で、最も重要なのは安全に施工すること。供用中の高速道路を落石から守るため、あらゆる事態を想定し、多重の落石対策を行っている。


一つ目は、崖面にロックボルト(鉄筋)を直接打ち込み、高強度金網で固定し、崖面全面を補強する工事だ。既に風化劣化が進行した地表面の層からの大規模な落石を発生源で対策するもので、岩盤を除去するまではロックボルトが岩盤を安定させ、落石を防ぐ。


二つ目は、高速道路のトンネル坑口上部に屋根を架ける「ロックシェッド」。施工中に万が一、小規模な落石(飛び石など)が発生した場合に、これを受け止めて、高速道路を守る。高速道路上に鋼桁を架設することと同様の工事であり、通行規制を余儀なくされるが、利用者への影響を最小化するため、精密測量や事前準備を綿密に実施できた。これにより、上下線それぞれ4日間の夜間通行止規制だけで、無事完了することができた。


最後は、70mある崖面を防護柵で覆う工事だ。落石から高速道路を守りながら、足場の役割も果たしている。このように積み重ねた落石対策が、供用中の高速道路の利用者はもちろん、施工者も守る安全面の要になっている。


A 影響外領域:既設トンネルに影響がほとんどないと考えられる範囲

B 間接影響領域:既設トンネルに影響が及ぶ可能性がある範囲

C 直接影響領域:既設トンネルに影響が及ぶため必要な対策を行うか計画変更を要する範囲


高速道路上を覆うロックシェッド


壮大なスケールの仮設備工

工事計画 現場平面図



施工計画で特徴的なのは、大規模な仮設備の構築だ。本工事では、仮桟橋や大型装置を構築し、工事用道路の代替として利用することにより、保安林の地形改変の最小限化しつつ、掘削機械の搬入出や掘削した残土搬出を行うことができる。


2023年3月には高速道路と並走する全長500mの工事用道路が構築された


施工区間は4区間に区分され、このうち、東京側の重機搬入および残土搬出に利用される区間では500m、長野側の落石対策作業に利用される区間では100mの仮桟橋を構築した。東京側の区間の一部では上部工架設先行型と呼ばれる工法を採用。上部工(パネル)を地組みし、クレーンで持ち上げ架設したのちに下部支持杭を直接打設して構築した。この工法は桟橋上や急斜面での作業を削減できるため、施工上の安全を確保することができる。また、上部工と下部工の併行作業が可能となるため、従来工法と比べ、作業時間が半減し、工期短縮につながった。


仮桟橋と同じく、保安林の改変を最小限に抑えるために、長野側では資材や人員運搬に利用する大型モノレールを構築。積載荷重3t級で、総延長は410m、最大勾配38度のモノレールは、保安林を伐採せず、自然にある沢に沿い敷設できるため、環境に配慮したものとなっている。


同じ仮桟橋の構築でも、各区間で採用した工法はそれぞれ異なり、掘削場所へ向かう急こう配の斜面にはインクラインを採用。各工区で、条件に合った工法を選択し、全体工程の中でクリティカルパスの最適化をめざした。


長野側の沢に沿って構築された大型モノレール動画(動画再生時間:15秒)


掘削した残土を積むために斜面を上がるダンプトラック(動画再生時間:10秒)

掘削工事

3年かけて山を70m砕く

2023年3月、いよいよ掘削が始まった。断崖絶壁の岩塊は、500万年前に形成された妙義カルデラの西端に位置し、硬い安山岩でできている。工事では、頂上から約70m下までの岩塊を、3年かけて掘削していく。


山頂では、穴を掘る削岩機(手前・黒)とその穴に差し込み岩を割る割岩機(右・オレンジ)が同時に稼働する


割岩機で割った岩をバックホウですくうために、さらに大型ブレーカーで割る


山岳トンネル工事などでは、岩盤を砕く際に火薬を用いた発破工法で行われる。しかし、このすぐ下には高速道路が走り、ただ一つの落石も許されない。そこで、発破に比べ時間がかかるが、安全に着実に岩盤を砕くことができる油圧割岩とブレーカーによる掘削工法を採用した。


掘削には、削岩機と割岩機の2種類の重機が必要だ。まず、頂上の地表面に80cm間隔で、削岩機で深さ2.5mの穴を空け、そこに割岩機を差し込み岩盤内で拡張させて割る。これを繰り返して、岩盤を少しずつ割っていく。


作業は、高さ1.3mごとに「ベンチカット工法」で進める。割岩機で割った岩は、さらに大型ブレーカーで砕く。砕いた岩は、バックホウでダンプに積み込まれ、インクラインで60m下まで下ろされ、仮置き場へと運搬される。細かくされた石は最終的には採石場などに送られ、さまざまな形で再利用される。


8月末現在、頂上から10m分の掘削が完了している。今後、掘削が進み、頂上の地表面積が大きくなると、削岩機と割岩機、大型ブレーカーを複数配置できるようになり、工期短縮を目指した昼夜連続の掘削作業に入る。複数台を安全に稼働させるために、重機にはクアトロアイズを適用する。


日々岩盤を削り、山の形を変えていく掘削作業。岩盤の変形や岩盤にかかる力を計測し、わずかな挙動にも対応できる体制を整えている。2029年春の工事完了に向けて、直下を通る通行車両に影響を与えることのないよう、安全最優先で慎重に工事を進めていく。


穴に差し込んだ割岩機の棒状部分を油圧で膨らませ、圧力で岩を割る。割岩機は深さを変えて3回差し込む


急斜面の山道では、バックホウで集めた岩盤や土砂を、クローラダンプが運搬する


山頂で進む掘削工事(動画再生時間:36秒)



(その1工事/取材2022年5月)(その2工事/取材2023年8月)



大林組-プロジェクト最前線「上信越自動車道(落石対策)北野牧(その1・2)工事」

https://www.obayashi.co.jp/thinking/detail/project75.html




※ 2023年5月、8月に取材実施。情報は当時のもの




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