多様化するクラウドファンディング、日本的寄付として根付くか
新型コロナウイルス蔓延の影響で危機的状況に置かれる事業者が増加するなか、寄付などの支援の輪が広がっているようです。コロナ給付金寄付実行委員会、公益財団法人パブリックリソース財団によるインターネット調査(ご参照)によると、42.7%の人が新型コロナウイルスにより経済的影響を受けた個人や団体等への支援に10万円給付金の一部を活用したいと回答したそうです。
こうした回答の背景には、オンラインで手軽にできる「ふるさと納税」や「クラウドファンディング」の普及により、寄付がより身近な存在へと変化したことがあると考えられます。
ふるさと納税とは、応援したい自治体に寄付をすると住民税の還付や地方の名産品などの返礼品を受け取る子ができる仕組みです。総務省による「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和元年度実施)」(ご参照)によると、2008年は81.4億円しかなかったふるさと納税受入額が2018年には5,127.1億円と約63倍にまで成長しました。
クラウドファンディングとは、インターネット上でお金が必要な事業や個人と、お金を支払う余裕のある人を結びつけるサービスです。返礼の有無や仕組みの違いにより、「購入型」「寄付型」「投資型」「貸付型」などに分類されます。日経BPマーケティング社の「デジタル金融未来レポート」によると、2019年の購入型の決済総額は134.6億円、貸付型の貸付残高は976.2億円で、今後5年間で購入型は約14倍、貸付型は約5倍に成長すると予想されています。
コロナ禍では特に購入型に注目が集まっており、中でも株式会社CAMPFIREの提供する「新型コロナウイルスサポートプログラム」は、2020年2月28日から2020年7月1日8時時点までで63.1億円超の金額を集め、支援者数は延べ55.6万人とのことです。(ご参照)
一方、欧米諸国などに比べると日本における寄付金総額はまだまだ大きいとは言えません。日本ファンドレイジング協会の「寄付白書2017」(ご参照)によると、日本の個人寄付総額は2016年で7,756億円、東日本大震災で寄付が活発になった2011年でも1兆182億円です。人口や経済規模が異なるため単純な比較はできませんが、アメリカの2016年の個人寄付総額は30兆6,664億円、イギリスの個人寄付総額は1兆5,035億円です。名目GDP比では、日本は0.14%、アメリカは1.44%、イギリスは0.54%と大きな開きがあります。
では一体なぜ、他先進国に比べて日本ではあまり寄付が活発ではないのでしょうか?その一因には「文化」や「税制」の違いがあります。
内閣府NPOホームページ(ご参照)に掲載されている日米英の寄付先割合を比較すると、日本は「文化・レクリエーション」と「教育」が多く、アメリカは「宗教」「教育」が多く、イギリスは「医学研究」「宗教」が多くなっています。このことから、アメリカやイギリスは日本よりも教会などの宗教団体の活動が盛んで日常的にチャリティ活動に触れる機会が多いと考えられます。
また、アメリカの場合は日本よりもNPO法人の数が多く、中にはハーバード大学などの一流大学の卒業生が就職先に選ぶほど人気や影響力のある団体もあるようです。なお、アメリカには税制優遇措置の対象となっているNPO法人が120万超あるのに対し、日本には税制優遇措置の対象である認定NPO法人は2020年07月30日時点で全国に1,159件しかありません。(ご参照)同じく優遇措置のある公益法人を合わせても、約1万件と大幅に少ないようです。(ご参照)
税制の面でも、日本と欧米で大きく事情が異なります。日本においては、寄付をした際に所得控除または税額控除を選択し確定申告することになります。詳細はこちらになりますが、条件や注意書きが多いため確定申告に馴染みのない人にとっては、優遇措置を受ける以上に疲労感を感じることになります。
一方、アメリカの場合は日本と同じように所得控除が受けられるだけでなく、控除範囲を超えた金額の繰り越しができる、寄付を受け入れる団体が資産運用を実施している場合は一定金額を寄付すると年金のような形で一定金額返ってくる仕組みがあるなど、明らかなメリットがあります。このようなメリットを確実に享受するためのプログラムも複数用意されており、寄付先、寄付金額、寄付方法などを事前に計画して実施することが一般的です。イギリスにおいては、「ペイロールギビング」という、給与天引きで寄付をした場合に寄附金額が税引き前の給与から天引きされる仕組みなどがあります。
このように、日本はこうした制度面において欧米のようなメリットが少なく、かつ税制優遇の申請手続きが身近でないことからこれまでは寄付があまり根付かなかったと考えられます。
ふるさと納税やクラウドファンディングは、従来の寄付と比較すると手続きが簡易でメリットも分かりやすい形態となっています。欧米の寄付により近く、日本的寄付の新しい形と言えるでしょう。
ふるさと納税やクラウドファンディングの他にも、比較的簡易な手続きでメリットも得られることから注目されている支援方法があります。
それは、「社会的インパクト投資」と呼ばれる投資です。社会的インパクト投資とは、GSG国内諮問委員会の「社会的インパクト投資拡大に向けた提言書2019」(※)によると「社会面・環境面での課題解決を図ると共に、経済的な利益を追求する投資行動のこと」です。通常、一般的な投資は経済的リターンを追求して実施されますが、社会的インパクト投資の場合は経済的リターンに加えて、社会課題を解決することで達成される公共善を社会的リターンとして追求する点が特徴です。
同書によると、社会的インパクト投資は2000年代からESG投資の流れを引き継ぎ欧米で実践され、急速に広がっているようです。2019年の世界の社会的インパクト投資の市場規模は推計で約50兆2000億円(1$=100円換算)、日本における市場規模は2018年で約3,440億円とのことです。日本は世界に比べると小規模ですが、2017年と比較すると約5倍に成長しているとされています。
寄付の場合のメリットは主に所得控除や税制控除ですが、社会的インパクト投資の場合は投資によるリターン、つまり所得の増加がメリットとなります。例えば、クラウドクレジット株式会社が提供する「中東地域ソーラー事業者支援ファンド2号」の場合、砂漠地帯のソーラー化が進みCO2の排出量を削減できることに加え、1万円あたり565円の経済的リターンが得られます。(ご参照)
現在、日本を含む世界全体でSDGs達成に向けた取り組みが活性化しています。SDGsとは、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のことで、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。(ご参照)こうした潮流を背景に、ふるさと納税やクラウドファンディング、社会的インパクト投資などの個人と社会のメリットを両立する取り組みは益々普及するのではないでしょうか。
※「社会的インパクト投資拡大に向けた提言書2019」で参照先となっていたドメインの所有者が変更されたため、参照先を削除しました (2023年10月10日)
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