誰もが安心・安全に服用できる薬を生活者に届ける。固形製剤の品質を支える第一三共ヘルスケアの研究開発に迫る。
第一三共ヘルスケアの研究部門では、新製品の製剤設計や製造プロセスの開発を行っている。高品質な医薬品を安定的に供給するための新たな製剤技術や優れた製造方法の確立を目指して日々研究に取り組む。特に錠剤の製品では多いものになると年間に数億錠の規模で製造するため、研究部門が担う役割は大きい。
錠剤や顆粒剤などの固形製剤の製剤研究者は、どのような研究をして製品の品質を作り込んでいるのか。研究者としての信条や将来の展望など、内に秘めた想いを含めて、研究統括部 研究センター 固形グループの西野に話を聞いた。
―配合した有効成分が使用期限まで安定して効果を発揮できるよう、最適な製剤設計を目指す
固形製剤とは、液体や気体ではない固体の状態にある薬剤のことで、錠剤、カプセル剤、顆粒剤や細粒剤といった種類の剤形がある。固形製剤の研究では、医薬品の有効成分、つまり原薬を、製品にするためにそれぞれの特性に合った添加剤を加えて、使用にあたり最適な形状の製剤に仕上げていく。その際、服用しやすく、効果が適切に発揮されるように工夫するだけでなく、長期間変質しにくく使用期限まで定められた品質を保つように設計しなければならない。
西野:どのような剤形にするかは、使用実績のある医療用医薬品や従来品の剤形をベースに検討します。基本的には錠剤であることが多いですが、例えば「ペラックT細粒クール」のように、もともと錠剤と飴のラインアップがあった「ペラック」シリーズに、新たに服用感に特長のある細粒剤を加えるなど、社内から新たな剤形の提案を受けて製剤を開発するケースもあります。服用にあたっては、粉が苦手な人は錠剤、子どもへの飲ませやすさを考えて糖衣錠や細粒剤など、好みや飲みやすさで選ぶ方も多いのではないでしょうか。そういった服用する方の好みやシーンに合った剤形を取り揃えることも当社では重要と考え、社内の関係部門で連携して、開発を進めています。
左から「ペラックT錠」、「ペラックT細粒クール」
(いずれもOTC医薬品:第3類医薬品)
製剤研究では、開発する製品のコンセプトに加えて、配合する有効成分それぞれの特性や組み合わせ、配合量なども踏まえ、一緒に配合する添加剤や製剤の製造方法などを検討する。
西野:開発企画部門から「こういう製品を出したい」といった要望が上がってきた段階で、それを基に製剤設計の目標を立てます。配合する有効成分、剤形や色、1日の服用回数などの各要件を踏まえ、「品質に対して好ましくない影響を及ぼすものがないか」、「製造不適になる要因はないか」など、リスクを徹底的に洗い出します。その中で重大なリスクの要因を特定し、添加剤や製造方法の工夫等でリスクを低減して製剤として望ましい状態にすることが製剤設計の要です。日々の実験での考察、打ち合わせや開発段階の節目に行われる会議での議論を通じて、その精度を上げていきます。
西野自身はかつて医療用医薬品の固形製剤を担当していたこともあり、医療用医薬品とOTC医薬品(市販薬)、両方の医薬品に携わってきた。現在手掛けているOTC医薬品ならではの面白さや難しさはあるのだろうか。
西野:医療用医薬品は上市までのハードルが高く、実際に世に出るものはごくわずかです。一方でOTC医薬品は、市場のニーズを見越した新製品の発売や既存品リニューアルの機会が多々あります。また、医療用に比べて開発期間が短く、生活者の反応を受けてリニューアル時に改良できるため、製剤技術を更に磨くことができる環境だと思います。製剤設計の工夫次第で有効成分のもつポテンシャルを上手く引き出せる可能性があるところも魅力で、そこに面白さを感じます。OTC医薬品は有効成分を複数配合する開発品が多く、相互に化学反応を起こす成分もあるなど製剤化の難易度が非常に高いのですが、その分、成分の組み合わせや製剤設計で効果を感じてもらえるような製品や服用しやすい製品づくりができるため、やりがいを感じます。
―多面的に徹底して行われる品質評価。より飲みやすい薬を目指した検討も
製剤の物理的特性や安定性の試験など、製品を開発する上での品質評価も研究者の役割の一つ。具体的にはどのような内容で評価・管理しているのだろうか。
西野:品質評価は、錠剤の色や形だけでなく、製剤中の有効成分の分析や効果につながるよう機能面の評価も行います。例えば、製剤中の有効成分の量を測定する「定量試験」、錠剤が水の中できちんと崩れるかを評価する「崩壊試験」、崩壊に伴って有効成分が溶け出しているかを確認する「溶出試験」、使用期限までそれぞれの評価項目の基準を満たすことができるか確認する「安定性試験」など、評価内容は多岐にわたります。入っている有効成分が増えるほど評価数が多くなるため、特に第一三共ヘルスケアの製品の中でも有効成分が多い「ルル」シリーズの品質評価は大変ですね。
設定する品質の各評価項目で目標をクリアするよう、製剤設計や製造方法などを見直し、さらに安定的な生産ができるよう製造プロセスを設計する。そのほか、西野が所属している固形グループでは、飲みやすさといった生活者の利便性についても検討しているそうだ。
西野:飲みやすさについては、主に製剤情報からシミュレーションを行うことで、試作した製剤の服用感を予測できる手段を検討しているところです。OTC医薬品だからこそ、効き目だけでなく使いやすさも追求した製品にしていきたいと思っています。
―製造工程の不具合を、製剤研究によって解決した事例も。固定観念にとらわれない取り組みが新たな製品につながる
過去には研究によって製品の課題を解決・改善した事例もある。一つは製品リニューアルのタイミングで検討した「新ルル-A錠s」の製造工程の改善だ。
西野:リニューアル前の製造では、錠剤の形に固める“打錠工程“で錠剤の硬さが足りず欠けやすい錠剤が一定数発生していて、製造品の一部を都度廃棄していました。原因としては、打錠工程の前段階で顆粒を作る工程があるのですが、この製品は複数の顆粒で構成されていて、それぞれの顆粒に含まれる成分や配合比率が異なることで顆粒毎に粒のできやすさに違いがあったためです。顆粒の粒がしっかりできずに脆く粉末に近い状態であったり、逆に密で硬い顆粒だったりすると、圧縮して錠剤にしたときに十分な硬さが出ない場合があるのです。改善検討の期間が短い中で苦戦しましたが、顆粒間の配合比率等を調整して、それぞれの粒のでき具合を適正化することにより、錠剤の硬さが出て、適切に製造できる工程へと改善することに成功しました。
「新ルル-A錠s」
(OTC医薬品:指定第2類医薬品)
第一三共ヘルスケアの研究センターでは製品の研究のみならず、探索的な研究も実施している。探索研究では、長期的な視点で製品の付加価値を創出することを目的とした研究が行われるが、西野はどのような研究をしているのだろうか。
西野:有効成分や添加剤同士の物理化学的な相互作用をうまく利用して、固形製剤の品質向上に役立てられないか、配合成分の組み合わせの研究をしています。OTC医薬品で幅広く使われている原薬や添加剤でも、なかには良からぬ相互作用を起こすものもあります。発想を転換して、それを良い方向に利用することができないかと思っており、うまく見出して活用していきたいと考えています。例えば、製剤品質の安定性を向上したり、製造が困難だったものが容易に作れるようになったり。固定観念にとらわれずに色々と試してみることで、新たな特長をもった製品が作れるのではないかと思っています。
―良いものをつくりたい。「探究心」と「統合する力」で導く、製剤研究者の魅力とやりがい
さまざまな角度から検証し、徹底的なリスク対策をしながらも、生活者が服用しやすく、有効成分が適切に働くよう製剤を設計するのがOTC医薬品の製剤研究者の役割だ。場合によっては高い壁が立ちはだかることもあり、頭を抱えることも多いという。製剤研究者として、必要な資質については、どのように考えているかも聞いてみた。
西野:ものづくりが好きで、目標や課題解決に向けた探究心と粘り強さが必要だと思います。あとは、要素を重み付けし、組み合わせて統合する力です。新規で製剤を開発する場合、製剤に求められる要件や製造上・品質上の課題が多数あります。この要件や課題に1錠、1包の製剤設計で答えを出さなければなりません。そのため、結果に大きな影響を及ぼす決定的な要因を特定すること、共通する要素や矛盾して相反するような要素でも適切なバランスを見出すことなど、重み付けを意識した調整が必要です。でも、そこが面白い部分でもあるので、好奇心がくすぐられるかどうかも重要かもしれません。
製剤研究は製品の品質に直結するため、重圧も大きいだろう。その中で、どのようなときにやりがいや喜びを感じるのかも聞いてみた。
西野:やはり「良いものを作りたい」という思いが、やりがいにつながっています。また、製品に携わったメンバーは皆同じだと思いますが、自分が関わった製品が上市されたときは、何度でも嬉しいものです。あとは課題の解決の糸口が思いついたとき。「あっ、これだ!」という糸口を見つけて解決できたときは、研究者として貢献できたと感じて嬉しくなります。
今後はどのようなことに取り組みたいか、また挑戦したいか、将来を見据えての展望についても語ってもらった。
西野:OTC医薬品に現在広く使用されていて、研究者にとって馴染みのある添加剤でも、まだまだ品質向上に役に立つ有用なポテンシャルがあると考えています。そこを見出していくことを、探索研究を通じて進めていきたいです。これまで当たり前で既知の事実と思っていたけれど、検証してみると実は違っていた、こういったことを見出し、活かして、より良い製剤を作っていきたいと考えています。
熱い想いをもつ第一三共ヘルスケアの製剤研究者たちの挑戦に、引き続き注目してほしい。
<関連情報>
◆PR TIMES STORYにて動画を公開
第一三共ヘルスケアは、必要としている人のことを常に思いながら研究開発にかける想いを語る動画シリーズ「Medi Theater(メディシアター)」の配信を、2024年8月2日より開始しました。第一話では、ロキソニン解熱鎮痛薬シリーズについて、皆さまのふとした疑問に製剤研究チームがメディカル視点でお答えしながらご紹介しています。
◆第一三共ヘルスケア株式会社について
第一三共ヘルスケアは、第一三共グループ(※)の企業理念にある「多様な医療ニーズに応える医薬品を提供する」という考えのもと、生活者自ら選択し、購入できるOTC医薬品の事業を展開しています。
現在、OTC医薬品にとどまらず、機能性スキンケア・オーラルケア・食品へと事業領域を拡張し、コーポレートスローガン「Fit for You 健やかなライフスタイルをつくるパートナーへ」を掲げ、その実現に向けて取り組んでいます。
こうした事業を通じて、自分自身で健康を守り対処する「セルフケア」を推進し、誰もがより健康で美しくあり続けることのできる社会の実現に貢献します。
※ 第一三共グループは、イノベーティブ医薬品(新薬)・ワクチン・OTC医薬品の事業を展開しています。
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