人材不足の中小企業を学生インターンが救う!? 大学生をプロジェクト担当に任命し、「これから働く人目線」の採用サイトが完成するまで
様々な業種で人手不足が問題視される中、製造業が盛んな愛知県でニット工場を営む石川メリヤスも常に人が足りていません。特に深刻なのは若手社員がなかなか採れないことです。今後数年間で退職していくベテラン社員から技術を引き継いでくれる人をいち早く採用して育てねばなりません。
多くの企業が優秀な学生を早いうちから囲い込もうとしており、インターンシップを新卒採用活動の一環と位置付けている大企業も少なくありません。しかし、石川メリヤスのような中小企業が学生を「青田買い」するなどは無理な話です。このストーリーでは、若手社員採用のために石川メリヤスが考案したプロジェクトの裏側をご紹介します
愛知県西尾市吉良町に位置する石川メリヤス。横編み機を150台保有して、多品種小ロットでのニット製品の生産に対応しています。
学生インターンを「新入社員候補」ではなく「プロジェクト担当者」に。学生がより伸び伸びと働ける仕組み
このたび若手社員を採用するために石川メリヤスが考えたのは、学生インターンを「新入社員候補」ではなく「プロジェクト担当者」に据えることです。具体的には、採用サイトのコンテンツ制作を任せました。仕事としてお願いするので、交通費だけでなく活動支援金も支払います。学生としても、入社を期待されたり選考評価をされたりしない分だけ伸び伸びと働けるはずです。
責任感と自主性を持った学生でなければミスマッチになるため、ボランティアアプリの運営や新卒採用支援サービスを行っているmusbunというベンチャー企業に相談。日本福祉大学2年生の遠藤仁菜(にいな)さんを紹介してもらいました。
遠藤さんは愛知県内の実家に住んでいますが、石川メリヤスまでは公共交通機関を乗り継いで片道2時間ほどかかります。採用サイトのコンテンツ作りという業務は常に会社にいる必要はありません。6月18日にオリエンテーションとインターンシップ契約締結を行った後は自分のペースで作業を進めてもらうことにして、出社は週に1日だけとしました。
企画や広報の業務に興味があってインターンに参加したという遠藤さん。秘密保持契約書などにサインした後、社内を自由に歩き回って取材し、唯一無二のコンテンツを作ってくれました。
2回目の出勤日に提出された提案書。期待をはるかに超えるものだった
結果は期待以上でした。2回目の出勤日に提出してもらった「採用サイトの提案書」には、サイトに入れるべき6つの情報が書かれてあったのです。
●石川メリヤスの各工程で働いている声
●自分が使いたいニット商品を開発した社員の紹介
●どんな人に向いている職場なのかをQ&A方式で
●夜勤や残業の有無など福利厚生面
●給与面の詳細とキャリアアップについて
●学生にわかりやすい採用スケジュール
以上を踏まえて作るサイトのイメージ図(構成案)も提示しつつ、遠藤さんが各工程の作業を体験しながら社員にインタビューするスケジュールも記されてありました。
さっそく作業着を着て現場に入った遠藤さん。社員からは「お客さん」ではなく「新人」として快く受け入れられ、編み機の使い方から商品の包装・出荷に至るまでを熱心に学んでいました。
3週間後に遠藤さんが提出してくれたコンテンツの内容は、このまま採用サイトに掲載できるほど充実した内容でした。そこで、石川メリヤスのWEBサイトの構築と管理をしている会社への発注業務も遠藤さんに担当してもらうことに。オンライン会議で要望を伝え、制作会社の意見も踏まえた上でコンテンツの文章や写真を整えてくれました(8月15日に完成した採用サイトはこちらをご覧ください)。
遠藤さんがWordファイルで提出してくれたコンテンツの一部。石川メリヤスの各現場に入って働きながら工程を理解し、文章と写真と図解でわかりやすく示してくれました。
採用サイトのコンテンツ制作の担当者になるというインターンシップ。遠藤さんは重荷に感じることなく、「自分には合っていた」と感じたそうです。インターシップ最終日に遠藤さんに感想を聞きました。
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専攻分野とは異なる製造業で初めてのインターンシップ。現場で感じた働くことの楽しさと成長
――インターンシップに参加したのは初めての経験だったようですね。
はい。時給で働くアルバイトとは違って、自発的に仕事に取り組んで成長できる機会が欲しいなと思っていました。まだ2年生なのでインターン経験が就職活動に有利になるとかは考えていません。私は成長を実感できること自体が楽しいので、社会人になってからもそういう場で働きたいと思っています。
――大学では介護など福祉の分野を学んでいると聞きました。
そんな私が製造業でインターンをするのは違うんじゃないかと迷いました。でも、musbunの方から「採用サイトの構成案を作るという企画系の仕事だから大丈夫だよ」と言ってもらい、勇気を出して申し込ませていただくことにしたんです。
正直に言うと、工場には「単純作業」というイメージがあり、採用サイトに何を書いたらいいのか見当もつきませんでした。でも、現場で働かせてもらうとそれぞれに専門性と奥深さがあることがわかり、書くべきことのアイディアがぽんぽんと浮かんできたんです。
例えば、製造補助では機械が編んだニット製品を揃えるだけでなく、不良品ができていないかのチェックもしなければなりません。社員の方は製品を触っただけで「ここが薄くなってしまっている」などとわかるようですが、素人の私にはまったく判別できませんでした。のめり込んだら面白い仕事なのでしょうね。
バイクに乗るのが趣味で、ガソリンスタンドでのアルバイトもしている遠藤さん。編み機の仕組みと修理について興味津々のようでした。
――今回のインターンシップは採用目的ではないので、将来は福祉関連の仕事に就きたい遠藤さんに来てもらえました。でも、4年生になって気が変わったら石川メリヤスを受験してください(笑)。歓迎します。
ありがとうございます。私自身、自分がやりたいことと向いていることは違うのではないかと思うことがあります。石川メリヤスの現場体験ではそれぞれの作業に集中しているとあっという間に時間が過ぎていきました。もしかすると私に向いているかもしれません。
「こういう職種もありかもしれんわ」と母にも話して、「選択肢が広がったね」と喜んでもらいました。来年は、福祉施設でもインターンシップをさせてもらい、将来について考えていくつもりです。
――石川メリヤスは30人弱の小さな会社ですが職場の雰囲気がいかがでしたか。
人と人との距離感がちょうどいいなと感じました。仕事中にちょっとした笑いも起きるし、休憩時間などは話したい人と話すけど、難しい人間関係はなさそうですね。事務所で皆さんと机を並べて働いている社長さんも話しかけやすい方でした。私は自分で考えていろんなことをやりたいので、これぐらいの規模の会社が向いている気がしています。
三代目社長の大宮裕美と遠藤さん。最終日の夜、期待以上の成果を上げてくれた遠藤さんに地元の有名鮨店で「三河前」の鮨をご馳走して労いました。
――採用サイトの充実したコンテンツを作ってもらい私たちは大助かりでした。遠藤さんにとっても良いインターンシップになったようですね。
今だから言いますが、「実習」や「インターンシップ」という言葉が怖かったんです。私は一つひとつの細かい言動を常に評価される状況が苦手なので……。でも、石川メリヤスではそのようなことはなく、仕事に集中させてもらえたと思っています。おかげで働くことへの自信がつきました。
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以上が遠藤さんへのインタビュー内容です。彼女のような自主性のある学生に思い切って仕事を任せたことで、会社目線ではなく「これから働く人目線」の採用サイトが完成しました。様々な人が石川メリヤスを働く場として検討する導線になることを期待しています。
8月15日にリリースした石川メリヤスの採用サイト(こちらからご覧ください)。初心者の目線で石川メリヤスの各工程を紹介するページが目玉です。現場で働く社員の率直な声も遠藤さんが拾ってくれました。
【石川メリヤス有限会社】
所在地:愛知県西尾市吉良町大字富好新田紺屋堀27-2
代表者:代表取締役 大宮裕美
設立:1962年4月
資本金:900万円
従業員数:29名(パート社員含む)
問い合わせメールアドレス:info@ishimeri.com
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