毎週火曜日 指なしおっちゃんに会う。

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著者: 秦野 類

まなお 

JKブランドという素晴らしい肩書きを所持しているのが誇り。
夢は日芸に合格して脚本家になること。
毎日を生き生きと!時には陽気に!時には真剣に!生きている。
私には人生のルールがある。
シンプルなのだが自分の中ではこれだけは曲げたくない。
そんなルール。
・人と向き合う事から逃げない
・人と関わるならばその人から得るもの全てを得て自分に活かすこと
・辛くても傷つく事があっても最後は自分にとってプラスに持っていくこと
・娯楽を追求すること
他にも思うこと感じることは沢山あるが何かあった時は冷静にこれらを思い出し行動している。(最後のはちと違う。)
今でこそちょーポジティブシンキングなまなおだが昔からこうだった訳ではない。むしろ今とは真逆と言ってもいい。
ずーとイジメられっ子で自分が大嫌い。
死のうともした。
(今では笑い話だし、むしろイジメてくれた人たちに感謝すらしている。)←理由は興味がある人にだけ話します…笑

そんなまなおがポジティブシンキングになるまで、そして今も、私を愛して出逢ってくれた人達のことを書いていきたいと思います。

初めてはやっぱり
指なしおっちゃん。


学生がブレザーを着始めた頃
私は少し長めのスカートを更に長くして寒さを防いでいた。
足早と学校を後にして家とは反対の方向へ足を運んだ。
15分ほど歩くと見えてくる。
人通りが少ない道路の曲がり角に少し濃いめの茶色が印象に残る今にも潰れそうな小さな酒場が。
話によると老舗らしい。
看板に年季が入っているのが見てとれる。
店の外にはオンボロな外観には似合わない綺麗な硝子の丸机と椅子があって、そこに座りながら外まで聞こえてくる客のカラオケを勝手に採点するのが私の日課だった。
今日もまた声が聞こえる。
雑音を切り捨て耳を澄ませる。
いつもは最後まで聞く。だけど今日は10秒ともたなかった。
「酷い……。30点もない。」
音程は皆無でそもそも歌っているのかわからない。オンチ改善参考書のビフォーの例に出てきそうだ。
いつもは聞かない声だから新規の客だろうか?そんな事を考えながら日が沈むのを待っていた。
本を2冊ほど読み終えた頃
店のドアが音を立てた。
出てきたのは明らかに金のかかっている光沢が眩しい真っ黒なスーツを着こなしている長身のダンディーなおっちゃんだった。
女に困ることはないだろう。と言った感じ。
この人…さっきの歌の人だったら複雑だなぁ…。

「ママ、有難うな。また来るわ。」

その声は紛れもなくさっきのオンチだった。
勝手に失望し言葉を失っていた私におっちゃんが気ついた。

「ん?あらーネェちゃん。こんな場所で何してるん?寒いやろ。ほれ。」

差し出されたのはホッカイロ。
使用済み。
舐めてるわ。この人。黙ってたらダンディーで魅力的なのに。なんて残念なんだ。
頭の中で初対面のおっちゃんを残念という位置づけに置いた。

「それより!はよぉ帰りよ。オネェちゃん。親御さんが心配するで。」

「家にいないので別に。」

「なんや?訳ありか?げははは!
それともーグレてんのか?げははは!」

おっちゃんは大きな口を更に大きくあけて笑うのでもはや口裂けのようになっている。

その日、おっちゃんは私が家に帰る気になるまで話し相手になるともう一つの椅子に腰掛けた。
居座られた。という方が正しいかもしれない。

途中おっちゃんの左人差し指の第二関節から上の指が綺麗に切れていることに疑問を持った。
普通あんな所からストンと切れるのか。と。

「あの、一つお伺いしてもいいですか?」

「なんや?」

「なんで指ないんですか?」

「あんた!直球過ぎるわ!あかん!オモロイな!げははは!げははは!

あ、そうそう。で、なんで指がないやって?
んーおっちゃんな昔ヤクザやったんよ。
でもな、家柄がヤクザって訳でもなーんでもなくてな。
入れえくれぇ!って頼んだらやで?
そん時の幹部がサツの送りないこと証明せい言うてかわりに指持って行きよったんや。
いったい話やで。全く。」

「本当にあるんですね。それ以上は聞いてるこちらが痛いので聞かないです。」

本当に心臓が痛かった。
なんで裏切り者でない証拠が指なんだ。
痛みで人を服従させるやり方は好きじゃない。反発心が爆発した時、対処が面倒だからだ。

なんて事を考えているとおっちゃんが口を開いた。

「おっちゃんからも聞いてええか?」

「ええ。どうぞ。」

「あんた、見たところ…
20代に間違われる中学生ってとこやな。
にしても死んだ魚の目みたいやな。
なんでそんな目しとんねん。」

うっわ…。
死んだ魚の目は置いて置いて。
20代に間違われる中学生は見事的中していた。
この間なんて15歳の誕生日のはずが
【22歳のおめでとう!】なんて言われたものだ。

なんでわかったんだろう。
おっちゃんからしたらクソガキのことなんて見たらわかるもんなんだろうか。
私はまだまだわからない。自分も人も。
わかりたくないというのも少しある。

「失礼ですね。落ち着きのある中学生ということにしておいてください。」

「ふーん。まぁ頑張りよ。」

何を?

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