【第二話】『最初の宝物』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜

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「仕方ないことだから。」


と断った。



はじさんは、


はじさん
「詳しく話を聞かせて!」


と連絡をくれた。



「今から家に行っていい?」



僕は、自分で別れを選択したものの、

その選択が本当に正しいのかどうかは、

正直言って分からなかった。


自分の選択を後押しして欲しかったのか、

否定して欲しかったのかは分からないが、


とにかく頼れる人に話がしたかった。



はじさん
「いいよ!」




僕は、家を飛び出した。



僕のうちから、はじさん家は自転車で10分くらいのところにあり、


今の家に決めたのは、はじさん家が近いから、という理由で決めた部分も大きかった。



赤ちゃんがいるので、夜分に申し訳ないと思ったが、

誰にも話せぬまま、この家で一夜を越すのは耐えられなかった。



はじさん家に着いた。



はじさんの隣には、奥さんのまみさん、2人と対面にイスに腰をかけた。



僕は、詳しい事情を話した。



はじさん
「納得出来ない!」




はじさんも少し怒っているようだった。

そんなはじさんを見るのは10年以上の付き合いで初めてだった。


「まみさんはどう思う?」


僕らは所詮男の考え、女性の立場、妻の立場から、

この状況をどう思うのかを聞いてみた。


まみさん
「辛いときこそ支えてあげるのが妻の役目だと思う。」

「そういう時を支えられるのが、妻の喜びでもあるし。」



なんと出来た奥さんだ!

つくづくはじさんは、いい人と結婚したなと思った。



まみさん
「私から彼女に言ってあげようか?」

「女同士の方が理解出来ると思うし…」



感動した。


正直、このときまでまみさんははじさんの奥さんという感じで接していた。

まみさんも、僕のことを旦那の後輩くらいにしか思っていないだろうと思っていた。


しかし、その後輩のために、こんな面倒くさいことをやってくれるという…。


こんなにありがたいことがあるだろうか。


素直に嬉しかった。



でも、まみさんから連絡が来て、彼女はどう思うだろうか?


彼女もきっと、辛い時こそ支えてあげなきゃと思っていたに違いない。


でも、その思いが強過ぎて、自分を苦しめてしまったのだろう。


そこで、夫婦の先輩である人に、

「辛い時こそ支えてあげるものだよ」と言われたら、

それが出来なかった自分をもっと責めることになるだろう。

僕がいなくなれば解決する問題を、自分が原因だとずっと思い続けてしまう。



もう彼女を苦しめたくなかった。


すべて僕が原因で、すべて僕が悪い。

それで終わらせてあげたかった。

解放してあげたかった。



今思うと、当時の僕は相当病んでいたんだと思う。


はじさんや、健ちゃんのように納得出来ないのが当たり前だ。

しかし僕は、すべて自分が悪いと、

彼女を傷つけた罰を、自ら勝って出たのだ。



結局、僕は自分の選択を変えようとはしなかった。


「彼女と別れる」


この結果は変わらない。



でも、すごく嬉しかった。



今まで僕は、独りで生きていると思っていた。

彼女だけは唯一の理解者だったが、

そんな彼女も僕の前から去って行く。

僕は完全に独りぼっちだと思っていた。


でも違った。



僕のために怒ってくれる人がいる。

僕のために行動してくれる人がいる。

僕を認めてくれる人がいる。

僕を応援してくれる人がいる。

僕の幸せを願ってくれる人がいる。


こんなこと当たり前かもしれないが、


僕はこのとき初めて実感した。



僕は独りじゃないんだ!


と思わせてくれた出来事であり、


僕を絶対に独りにさせない人たちだということに、このときやっと気が付いた。



心から感謝した。


彼らは、僕に居場所を与えてくれた。

僕が存在する許可を与えてくれた。



「僕にはかけがえのない友達がいる!」



うつ病になって見付けた最初の宝物だった。



つづく…


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