【第三話】『さよなら…』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜

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さよなら…


2013年8月26日。

同棲中の婚約者と別れることが決まった。


明くる朝、彼女はずっと背負っていた荷が降りたのか、スッキリとした顔をしていた。


前のように明るい彼女に、

「やっぱり悪い夢だったんだ!」

と思う程だった。


しかし、現実は現実だった…。



彼女は結婚式のために髪を伸ばしていた。


彼女
「もう短く切っちゃおうかなー?」


僕にそう尋ねる。


「いいんじゃない。」


さらにこう言う。


彼女
「もう時間に縛られないし、仕事変えようかなー?」



「好きなことをやればいいじゃん。」




僕は傷付いた。


昨日の今日で、


「よくも面と向かってそんなことが言えるな…」


と思った。


でも、口には出さなかった。


僕は彼女を傷付けた罰を、自ら勝って出たのだから。



やけにハイテンションな彼女に、僕は言った。


「いつ出て行くの?」

「ちゃんとケジメつけなきゃダメだよ!」

「別れるってことは、そういうことだよ。」


彼女はまたションボリした。


8月31日、この日に彼女が出て行くことが決まった。



2人で揃えた家具や家電。


「好きなの持って行っていいよ。」



お菓子作りが好きな彼女のために買ったオーブンレンジ。


料理が上手い彼女の要望で、大きめの冷蔵庫も買った。


もう一緒に使うこともない、お揃いの食器。


一緒に映画が見たくて買った大き目のテレビ。


結婚式に流すプロフィールビデオを作るために買った、一眼レフとパソコン。


お気に入りのソファー。


一人では大き過ぎるダブルベッド。


彼女を失うことに比べたら、こんなものどうでも良かった。


だが、結局彼女が持って行ったのは、

ナノイーのドライヤーと、ダイソンのアイロン、

ステンレス製の洗濯バサミ…

大したものは持って行かなかった。



彼女は、

彼女
「また荷造り面倒臭いなー」


と言いながら、

スーパーでダンボールを貰い、荷物をまとめ始めた。


僕は手伝える気になれるはずもなく、

僕の前からいなくなるための準備をしているその姿を見ているのは耐えられなかった。


そんな時は、近くのコメダ珈琲で時間を潰した。


同じ音楽をリピートで聴きながら、時間が過ぎるのを待った。


こういう時は何故だろう?


自分が置かれた状況に酔いしれたいのか。

悲劇のヒロインにでもなりたいのか。


切ない歌ばかりが聴きたくなる。


恋愛の歌、失恋の歌、車の中でよく聴いた歌、カラオケでよく歌った歌、

イヤホンを片方ずつして聴いた歌、結婚式で使おうと言っていた歌…


僕が持っている音楽はすべて、彼女との思い出の歌だった。


どれを聴いても、彼女と過ごした楽しかった日々が頭に浮かんだ。


その中でも、僕の心を一番締め付けのは、

清水翔太が中島みゆきをカバーした「化粧」という歌だった。

ずっと昔の歌なのに、僕のことを歌っているようだった。

僕は、歌詞の中の世界を生きているようだった。


バカだね

バカだね

バカだね あたし


愛して欲しいと思ってたなんて


バカだね

バカだね

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