【第九話】『旅の洗礼』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜
宿を出て、出発する。
2日目のゴールは、石和温泉。
前の年に社員旅行で訪れた町。
そこまで歩いて行ったなんて言ったら、
会社の人たちに話すネタになるし、
温泉街だし、きっと宿にも困らない。
「今日も長い道のりになるな。」
さて、出発しよう!
しかしこの日、2日目にして、命の危険に晒されることになる…。
台風接近中…
前の日、Facebookで近況を報告したところ、
「ひーくん、台風近付いてるから本当気を付けて!」
とコメントをもらっていた。
「台風か…」
「やっかいだな…」
雨の中を歩くのは、身体が濡れるし、視界も悪い。
風が強ければ、身体が煽られて危険だ。
しかし、止まってなんていられない。
僕は限界を探しに来たんだ。
危険を回避する旅なんて、僕が求めている旅じゃない。
危険に向かっていくのが、僕の求めている旅だ。
「台風でも何でも来やがれ!こんちくしょー!」
くらいの気持ちでいた。
いや、正直、結構ビビっていた…。
しかし、朝起きると、雨は降っていなかった。
前から晴れ男だと思っていたが、それが確信に変わった。
台風をも吹き飛ばす男、坂内秀洋!
僕は余裕綽々で歩き出した。
が、
間もなくして、やはり雨は降りだした。
僕の確信は1時間と保たずに打ち砕かれた…。
雨具を着て、ザックにカバーをして、雨の中を歩き出す。
帽子の上からフードを被り、視界は30㎝程、
顔ごと左右に振らなければ周囲は見渡せない。
完全に怪しい人物だ。
しかし、市街地を抜けたその道のりは、周囲に何もなく、誰一人いなかった。
フードに当たる雨の音が、脳の中に響き渡っていた。
雨の中を歩くのは、孤独を引き立たさせる。
時折、雨に打たれながら歩く自分の姿が頭の中で客観的に見え、とても寂しかった。
やはり、僕は独りぼっちなんだ…。
自分で決めた選択。
誰のせいにも出来ない。
自分との闘い。
自分の弱さとの闘い。
雨の中、誰にも頼れぬ孤独感との闘いに旅の洗礼を受けた。
僕は気を紛らわすため、イヤホンを耳に着け、音楽を聴いた。
出発前に作ったお気に入りのプレイリストを聴いて歩いた。
音楽は不思議だ。
現状は何一つ変わっていないのに、
独りじゃない気がする。
雨音ではなく、人の声が聴こえるだけで安心した。
何もない景色も、音楽があれば、
記憶に残るような景色に変わっていった。
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