【第九話】『旅の洗礼』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜
写真では伝わらないかもしれないが、
歩くスペースなんて本当に無い。
一応白線が引いてあるが、白線の内側の半分は轍になっていて、
雨でぬかるんでいる。
これがまた滑る。
壁は少し触れただけで袖が真っ黒になってしまうほど、ホコリまみれだ。
しかし、そんなことは言ってられない。
本当になんでこんな細い道で、こんなにスピード出すんだよ!!!
ってくらい、猛スピードで車がやってくる。
特に危ないのはトラック。
歩けるスペースは靴一足分くらいだろうか。
どうやっても白線からはみ出て歩くことになる。
そんな中、トラックは壁スレスレで通ってくる。
半端じゃない恐怖だ…。
ちょっとはみ出したら、本当に死ぬ。
ちょっと足を滑らせたら、本当に死ぬ。
本当にというか、絶対に死ぬ。
絶対に…。
僕は壁に張り付いた。
先の信号の関係か、車の通りが少しの間だけ途切れるタイミングがある。
そのタイミングを見計らい、車が通らないタイミングで、全力ダッシュ!!
20kgの荷物を担いで全力ダッシュ!!!
そして、車が来たら、壁に張り付く。
また車が去ったら、全力ダッシュ!!!
これを繰り返した。
そして、この恐怖の笹子トンネル。
なんと、全長2953m。
約3kmを全力ダッシュしては張り付き、
ダッシュしては張り付きを繰り返した。
3kmの間、もちろん休憩なんて出来ない。
引き返すことも出来ない。
抜けるまでに何分くらいかかっただろうか。
3㎞を普通に歩いたとしても、20分〜30分はかかると思う。
その距離を、いつ猛スピードの車に轢かれてもおかしくない状況で歩き続ける。
全く生きた心地がしなかった…。
トラックの恐怖。
ドライバーからの視線。
確実に交通妨害をしているという罪悪感。
泣きたくなるくらい恐ろしい。
穴があったらソッコー入りたかった。
でも、止まっている方が恐ろしい。
とっとと抜けないと、この恐怖は終わらない。
僕は、必死で前へ進んだ。
出口が見えてきたが、出入り口こそ危険だ。
トンネルに入ると一気に暗くなるため、
外から入ってくるドライバーは、トンネルの中が一瞬見えなくなる。
さらに人が歩いてるなんて、全く思っていない。
慎重にトンネルを出るタイミングを見計らった。
そして、やっとトンネルを抜けた。
思わず、
「よっしゃ!!」
と声が出た。
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