【第九話】『旅の洗礼』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜
奇跡の生還をしたような気分だった。
本当に奇跡体験アンビリバボー。
この笹子トンネルを歩いて通り抜けたことがあるという人がいたら、
僕は黙って右手を差し出すだろう。
あの恐怖は、ヤバい。
間違いなく、人が通る道ではない。
初めて死に直面した。
ほんの数十cm先に「死」があった。
一歩一歩に命が懸かっていた。
もの凄く怖かった。
足が震えるほど怖かった。
そして、それを切り抜けた時は、
嬉しかった。
ただの普通の道に出ただけなのに、凄く安心した。
生きる喜びって、生きてる実感って、
こういうことなんだと思った。
当たり前が当たり前じゃなくなって、
また当たり前に触れられた時。
当たり前は、本当は当たり前じゃないんだなって思った時。
そういう時に、本当の喜びや、幸せを実感出来るんだと思う。
台風の接近…
笹子トンネルを抜けると、
甲斐大和という道の駅があった。
3kmも死と隣り合わせだった僕は、ドッと疲れが出た。
雨のせいで身体が冷えていたが、全身びしょ濡れのため、
店内には入らず、外のベンチで休憩をしていた。
余裕で白い息が出る。
歩いているときはそれほど寒さは感じないが、
止まると一気に身体が冷える。
2日目のゴールは石和温泉。
あとどれくらいあるのだろう?
タオルで身体を拭いて、店員さんに聞いてみた。
僕:「石和温泉まであと何キロくらいありますか?」
店員さん:「10km〜15kmじゃないかなぁ?」
僕:「まじか…。」
この時、時刻はすでに16時過ぎだったと思う。
あと1時間くらいで暗くなる。
「急がねば…。」
前の道をひたすら真っ直ぐ進めば着くらしい。
僕はまた歩き出した。
雨が強くなって来た。
頭のてっぺんから、足の裏までビッチョビチョ…。
足、肩の痛みも酷くなってきた。
辺りはすっかり暗くなり、歩行者なんて誰一人いない。
ずぶ濡れになりながら、独りで暗い道を歩く。
今すぐにでも休みたいが、休める場所なんてない。
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