オーストラリア留学中にネット中傷被害に合い、裁判を起こした話(10)
Intervention Orderとは
元アルバイト先の同僚が教えてくれたIntervention Order・・・初めて耳にする言葉だった。
インターネットで検索してみると、
Intervention Orderについて説明されているウェブサイトを見つけた。
https://www.magistratescourt.vic.gov.au/jurisdictions/intervention-orders
ページを開くと、左上には Magistrates' Court of Victoria の文字。
そう、"Court(裁判所)"
警察でマイクが言っていた
とはIntevention Orderを申請することを意味していたのだ。
Magistrates' courtの日本語訳は治安判事裁判所。
ビクトリア州にはMagistrates' courtの他に、
County Court of Victoria(ビクトリア州裁判所)、
Supreme Court of Victoria(ビクトリア州最高裁判所)
という裁判所があるが、Magistrates' courtは組織として一番下に位置する裁判所である。
日本の裁判所でいうなら、家庭裁判所や簡易裁判所といったところであろう。
Intervention Orderとは、
DVなど家族からの暴力から守るため、または他人から危害を加えられることを防ぐ為に裁判所から下される命令
で、申請するには規定のフォームに必要な情報を記入して裁判所に提出する必要があるらしい。
私の英語力の問題だったのか、その後ウェブサイトが更新され説明文が変更されたからなのかはわからないが、当時ウェブサイトでintervention Orderの説明を読んだ時には、DVなど実際に物理的に危害を加えられたケースに適用される命令だという印象を強く受けた。
元同僚は「ストーカーや変な人を遠ざける」ためのものだと言ってはいたが、本当に今回の嫌がらせを取り合ってもらえるのか疑問に感じた。
後に、Deanaからの嫌がらせは私に対するストーカー行為として警察で取り扱われることになるのだが、当時の私にとってストーカー行為とは男女間や元交際相手同士でのものという認識があったのでまさか今回のケースがストーカー行為にあたるとは思いもしなかった。
この日は日曜日。今思えば、月曜日にすぐに裁判所へ行き、Intervention Orderを申請していればもっと早くにDeanaの嫌がらせを止めることができただろう。
しかし、この時の私にとって、Intervention Orderは未知の領域で、
申請したら何が起こるのか、どれくらい時間がかかるのか、わからないことだらけだった。
警察署へ行った時のように、上手く説明ができなければ相手にされないのではという恐れもあった。
すっかり人間不信になっていた私には、せっかくIntervention Orderの情報をくれた元同僚に相談するという考えも浮かばず、一人で抱え込んでしまったのである。
結果的に、私はすぐにIntervention Orderを申請することはせず、まずは学校へ行き授業の遅れを取り戻すことに決めた。私がスクリーンショットを貼って抵抗した後、Deanaは再び偽アカウントを無効にしたので、もしこのまま再開されることがなければ嫌がらせは終息する可能性もあった。
その間に警察から捜査の進展について連絡も来るだろうと期待していた。
カウンセリング
3月4日(月)
学校へ行き、午前と午後にそれぞれ1科目ずつ授業を受けた。
専門学校での授業は午前が9:30-12:30まで、午後が13:30-16:30までで、途中で10分ほどの休憩はあるもののそれぞれ3時間ずつ月曜日から木曜日まで授業がある。(私は前年に基礎コースで既に取得した単位があったので、火曜日の午後の授業は免除されていた。)
授業時間が長いということは、1回の授業の間にそれだけ多く授業が進むということを意味していた。一部、2科目以上の授業を担当している先生もいたが、基本的には1つの科目につき1人の先生が受け持っていた。
嫌がらせが始まったのは前の週の火曜日だったので、月曜日の授業は私にとって何も問題ないはずである。
先週と同じように、授業を受けよう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・としても
どういうわけか授業に全く集中できない。
言葉では言い表せない、得体のわからない不安感がどんどん自分の心に湧いてくる。授業に集中しようとしても、どういうわけか涙が出て来る。体が全然言うことをきいてくれない。
授業に集中したい、でも体がついてこない。
頑張りたいという気持ちはあるのに、体が頑張ってくれない。
どんどん苛立ちがつのった。
イライラすればするほど、ますます授業には集中できなかった。
午後の授業が終わった時、その授業を担当している先生と少し話す時間が持てた。
私は先生に嫌がらせのこと、警察へ行ったこと、授業に集中できず困っていることを正直に話した。
先生は私の話を聞いてくれ、もし私が気にしないのであれば他の先生達とも私がインターネット上で中傷を受けているという情報を共有すると言ってくれた。そして、学校では心理カウンセラーによるカウンセリングを無料で受けられるので、そこで相談してみるのはどうかと勧めてくれた。
私はさっそく電話をかけ、校内で行われているカウンセリングサービスを予約した。火曜日の午後は授業が無いので、火曜日の午後に予約を取ってカウンセラーと面談をすることになった。
3月5日(火)
カウンセリングを予約したものの、この複雑な経緯を限られた時間でどのようにカウンセラーに話せば良いのか、しかも英語で・・・。
不安を抱えながら、カウンセリングを行う部屋に向かった。
部屋に通され、カウンセラーが来るのを待った。
まもなく、若くて小柄なアジア系の女性が現れた。
女性は私の前の椅子に座り、挨拶をした。クセの無い、きれいな英語だった。
と思っていると、ふと彼女のネームタグが目に入った。
ネームタグには "Reiko"
どう見ても日本人の名前が書かれていた。
偶然だったのか、学校側が気を利かせてくれたのかはわからないが、
まさかの日本人カウンセラーだった。
このReikoさん(仮名)、英語が本当に上手で、オーストラリア育ちなのかと思ったくらいだったのだが、普通に日本生まれ日本育ち、日本では英会話スクールにも通っていたらしい。
私はReikoさんにこれまでの経緯を話した。
この日はちょうど嫌がらせが始まってから1週間目だった。
Reikoさんと話をしていると、この1週間で自分に何が起きたのか、自分に降りかかった出来事の理不尽さを改めて実感した。
感情が高ぶり、ボロボロ涙がこぼれた。
Reikoさんは、まず今私が何を望んでいるのかを確認したいと言った。
私はとにかく少しでも早く嫌がらせを確実に止めたいということ、勉強に集中したいということ、最悪嫌がらせが終息しない場合にはオーストラリアの他の都市へ移り、新しい学校で一からやり直したいと伝えた。
Reikoさんは今の時点では学校を辞めることではなく、まず勉強に集中するためにできることを考えようと言った。
そして、学校では弁護士の紹介も行っており、今回の嫌がらせの件を依頼できるかはわからないが確認してみると言ってくれた。他にも私が知りたいことがあればReikoさんのほうで確認をしてくれ、次回のカウンセリングの際に回答してくれることになった。
私は再度、万が一問題が長引きそうな場合には、最悪他の都市へ移り、別の学校で一からやり直したいこと、その為に既に支払った授業料が返金されるのかを知りたいと伝えた。
学校は第1セメスター、第2セメスターの2学期制なのだが、この時点では第1セメスター分の授業料のみ支払い済みだった。
Reikoさんは今は早まるべきではない、まずは以前のように授業に集中するために何ができるかを探そうと言ってくれた。
最後に次回のカウンセリングの予約を取った。
弁護士の件などReikoさんが調べてくれた結果を少しでも早く知りたかったので、翌日また会うことにした。授業がある時間だったが、授業と重ならない時間に予約を取ることができなかった。
この時、もし学校は学校、事件は事件と割り切るだけの図太さがあり、授業を休まなければ後々困ることはなかったのに、すっかり動揺していた私にはそれができなかったのだ。
ここまで読んでいて、
なんでさっさとIntervention Orderを申請しないのか?
Reikoさんや他の友人にIntervention Orderのことを話し、アドバイスをもらって申請するか決めればいいのでは?
友人と話をして、動揺する気持ちを落ち着けることができたのでは?
と思われた人もいるかもしれない。自分でも冷静に当時を振り返り、なぜそのようにしなかったのか疑問に思う。
なぜそうしなかったのか・・・・
当時の私はそれだけ思い詰めており、まともな判断を下せる状況ではなかったのだ。
3月3日に八田さんから絶縁され、
アイからも呆れられて(この当時はまあアイからも絶縁されたことに気がついていなかった。)、
友人の前で醜態を見せてしまった。
もう私に関わりたくないに違いない・・・
頼っても誰も助けてなんてくれない。
この事件には、自分一人で立ち向かわなければいけない・・・。
自分の中でそう思い込んでしまっていた。
その一方で同時に、早く授業に集中したい、元の生活に戻りたいという気持ちも強かった。
元の生活に戻りたいという気持ち、授業に集中したいという気持ちがかえって悪い方に働き、自ら裁判所へ出向き、本当に取り合ってもらえるのかわからない状況でIntervention Orderを申請することをためめらってしまっていた。
以上は、今の私が当時の自分の気持ちを振り返って、分析した結果である。
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